全ての音に深みを持たせ、静かで美しいサウンドを響かせるジャズ・ギタリスト、ジム・ホール(Jim Hall)。
少ない音数で楽曲を導いていくジムのスタイルは、ジャズ・ギター界に多大な影響を与え、「新しいアドリブの形」を生み出した。
それだけでなく、ジムはコンテンポラリーなスタイルをジャズ・ギター界に広めた第一人者でもある。「現代のジャズ・ギターは、全てジム・ホールが基礎となっている」と言っても過言ではないのではないだろうか。
現在でもジムのフォロワーは数多く存在しており、パット・メセニー(Pat Metheny)、ジョン・アバークロンビー(John Abercrombie)、ジョン・スコフィールド(John Scofield)などが彼から影響を受けたことを広言している。
ジム・ホールは、1930年12月4日にニューヨーク州バッファローで誕生し、10歳からギターの演奏を開始。ジャズに目覚めたのは13歳の時で、きっかけはベニー・グッドマン(Benny Goodman)のレコードから流れてきたチャーリー・クリスチャン(Charlie Christian)のギターだった。クリスチャンのサウンドを聴いた時、ジムは「悟りが開かれたような感覚」を覚えたという。
その後、コールマン・ホーキンス(Coleman Hawkins)、レスター・ヤング(Lester Young)、ポール・ゴンザルヴェス (Paul Gonsalves)らにも影響を受けながらジャズの感性を磨いていき、1955年からはチコ・ハミルトン楽団での活動を開始。
その僅か2年後の1957年にリリースしたのが、初のリーダー・アルバムである『ジャズ・ギター』(Jazz Guitar)である。
今作の特徴は、チャーリー・クリスチャンからの影響を色濃く感じる、ジム・ホールのプレイが楽しめるだろう。
ジム・ホールの得意とする、少ない音数で楽曲を導くライン録りはこのころから健在。
さらにこのデビュー・アルバムでは、チャーリー・クリスチャンを彷彿とさせるメロディアスなフレーズが随所に登場するのだ。
ここまでストレート・アヘッドなジム・ホールの作品は、他にはないのではないだろうか。
もう1つ注目したいのが、ジム・ホールの脇を固める2名のミュージシャン。
本アルバムはギター、ピアノ、ベースのドラムレス・トリオでの構成となっている。
ピアニストを務めているのは、カール・パーキンス(Carl Perkins)。
カールは左手に障害を持った黒人ピアニストだが、その影響を全く感じさせない素晴らしい演奏を見せている。無駄な音を減らした風通しの良い音色を奏でており、ジムとの相性も抜群と言えるだろう。
しかし、彼は録音から約1年後の1958年に若くしてこの世を去っている。
『ジャズ・ギター』(Jazz Guitar)は、カールの数少ない演奏を聴くことのできるアルバムでもあるのだ。
ベースを担当しているのは、ウディ・ハーマン (Woody Herman)、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)、ジェリー・マリガン(Gerry Mulligan)を含む数多くの有名ジャズ・ミュージシャンを支えてきたレッド・ミッチェル(Red Mitchell)。
レッドはベーシストとして以外でも作詞家、詩人としても活躍しており、1986年にはスウェーデン・グラミー賞を授与されたほど多彩な人物でもある。
本アルバムでの彼の演奏は一見地味に聞こえるかも知れないが、楽曲のボトムをしっかりと支えた素晴らしいものだ。落ち着いたベースサウンドも心地が良い。
1957年に発表された『ジャズ・ギター』(Jazz Guitar)は、1975年『アランフエス協奏曲』(Concierto de Aranjuez)や、1975年『ライブ!』(Live!)のように迫力や派手さはないことは確か。
ギター・サウンドもジム・ホールの特徴である”ふくよかなサウンド”ではない。
しかし、ジム・ホールの原点は、間違いなくこの『ジャズ・ギター』(Jazz Guitar)に詰まっている。
ジャズ・ギタリストはもちろん、落ち着いたジャズギター・アルバムをお探しの方にもお勧めできるアルバムだ。
Jazz Guitar - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Stompin' at the Savoy | Benny Goodman, Chick Webb, Edgar Sampson | 4:04 |
2. | Things Ain't What They Used to Be | Mercer Ellington | 4:44 |
3. | This Is Always | Harry Warren, Mack Gordon | 2:49 |
4. | Thanks for the Memory | Ralph Rainger, Leo Robin | 5:15 |
5. | Tangerine | Johnny Mercer, Victor Schertzinger | 3:56 |
6. | Stella by Starlight | Victor Young, Ned Washington | 3:10 |
7. | 9:20 Special | Earle Warren, Jack Palmer, William Engvick | 5:42 |
8. | Deep in a Dream | Jimmy Van Heusen, Eddie DeLange | 4:31 |
9. | Look for the Silver Lining | Jerome Kern, Buddy DeSylva | 3:14 |
10. | Seven Come Eleven | Charlie Christian, Benny Goodman | 3:55 |
Jazz Guitar - Credit
ジム・ホール(Jim Hall)- ギター
カール・パーキンス(Carl Perkins)- ピアノ
レッド・ミッチェル(Red Mitchell)- ベース