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多種多様なサウンドが盛り込まれたジャズ・アルバム『XXL』- ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド(Gordon Goodwin's Big Phat Band)

『XXL』は、ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド(Gordon Goodwin's Big Phat Band)が2003年9月にリリースしたアルバム。
2枚目のアルバムである今作は、前作より多種多様な楽曲が並び、「ビッグバンドの可能性」を改めて感じさせる作品に仕上がっている。

この楽曲に収録された"Hunting Wabbits"、"Comes Love"により、ゴードン・グッドウィンは2つのグラミー賞にノミネート。
さらにアルバムが「ベストラージジャズアンサンブルアルバム」にノミネートされるなど、各方面から高い評価を獲得した。

もしあなたがビッグバンドで演奏を行っているのであれば、この偉大な作曲家ゴードン・グッドウィンズを知っておいた方が良いだろう。
彼についてはこちらの記事で紹介しているため、ここでは割愛させていただく。

本作は、カウント・ベイシー楽団やグレン・ミラー楽団などを一通り演奏し、新たなスタイルのビッグバンドを模索したい方におすすめのアルバムである。
ジャズのスタイルを基調としながら、ファンク、ロック、R&Bなど様々なジャンルの要素が盛り込まれており、聞き手を飽きさせない工夫が満載だ。
これは、ゴードンがエンターテイナーとしても優れているからに他ならない。
※彼は実際にディズニーランドで編曲を行っていた人物でもある

さて、ここからは収録されている12曲について紹介していこう。

XXL - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.High MaintenanceGordon Goodwin6:17
2.A Game of InchesGordon Goodwin7:21
3.Comes LoveLew Brown, Sam H. Stept, Charles Tobias5:31
4.Thad Said NoGordon Goodwin5:45
5.Hunting WabbitsGordon Goodwin6:20
6.The Quiet CornerGordon Goodwin6:20
7.Horn of PuenteGordon Goodwin6:18
8.It's All Right With MeGordon Goodwin, Mark Kibble, Cole Porter4:44
9.The Jazz PoliceGordon Goodwin4:44
10.Mozart 40th Symphony in G minorGordon Goodwin8:07
11.What Sammy SaidGordon Goodwin7:50
12.Let the Good Times RollFleecie Moore, Sam Theard3:31

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、軽快なスウィングのリズムが心地よい"High Maintenance"
ゴードンらしく、サウンド面と随所に盛り込まれたフレーズはキャッチーな仕上がりを見せている。
裏打ちが非常に効果的に使用されており、思わず身体が動き出すような楽曲だ。
ソロはアルトサックス奏者のエリック・マリエンサル(Eric Marienthal)、トロンボーン奏者のアンディー・マーティン(Andy Martin)。

2曲目”A Game of Inches”は、リチャード・ショー(Richard Shaw)のグルーヴ感溢れるベースから始まるナンバー。
こちらもキメが多く、フュージョンの要素が多く含まれているように感じる。
中間のピアノソロの個所などは浮遊感もあり、美しさもある素晴らしい編曲だ。
ちなみにタイトルの意味は、「インチの差で決まるゲーム=野球」のことらしい。

1939年に作曲されて以降、ジャズスタンダードとして愛されている”Comes Love”は3曲目に収録。
この楽曲にはアメリカのアカペラ・グループであるテイク6(Take 6)がゲストとして参加している。
このアレンジも高く評価されており、2004年のグラミー賞では最優秀編曲賞(ボーカル部門)にもノミネート。
ボーカルと楽器隊が生み出す哀愁漂うサウンドに注目してほしい。

4曲目"Thad Said No"では、クラリネット奏者のエディ・ダニエルズ(Eddie Daniels)がゲストとして参加している。
前作『スウィンギン・フォア・ザ・フェンスィーズ』(Swingin' for the Fences)では”Sing, Sang, Sung”にて超絶技巧を披露していたが、この"Thad Said No"ではメロディアスなフレーズをプレイ。
クラリネット奏者であれば必聴のスウィング・ナンバーだ。

クラシカルな雰囲気漂う"Hunting Wabbits"は、ある意味ビッグバンドらしくない楽曲と言えるだろう。
しかし、そこはさすがゴードン・グッドウィン。
キャッチーなフレーズとトリッキーな編曲で聞き手を飽きさせない工夫が施されている。
中盤からスウィング調に代わり、ソロ・パートへ突入。
その後はまたクラシック調に戻るなど、ジャズとは違う楽しみ方のできる楽曲だ。
ちなみにこの楽曲はグラミー賞のひとつである最優秀楽器作曲賞にもノミネートされている。

6曲目に収録されている”The Quiet Corner”は、スムースジャズの雰囲気が漂うナンバー。
フルートの暖かい音色が効果的に使われており、ソロパートのソプラノサックスも聴き心地が良い。

ボサノヴァのリズムで演奏される"Horn of Puente"では、ラテンの楽曲らしくホーンセクションがフューチャーされている。
曲の途中から軽快なラテンのリズムへ転調し、その後にトランペットソロへと移行。
ウェイン・バージェロン(Wayne Bergeron)が奏でるハイノートは、トランペット奏者でなくとも是非視聴いただきたい。

8曲目"It's All Right With Me"は、コール・ポーター(Cole Porter)が1953年に作曲したナンバー。
現在ではジャズスタンダードとして世界各国で演奏されている名曲だ。
こちらもボーカルにテイク6(Take 6)を迎えており、ボーカルと楽器隊の絡みが心地よいナンバーに仕上がっている。

ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンドの曲の中で最もロック魂が感じられるのが、9曲目に収録されている"The Jazz Police"
ギターのイントロやリズム、メロディーなど随所にアメリカン・ロックなサウンドが取り込まれており、他のビッグバンドでは見られないクールな楽曲だ。
アルトサックス、ギターのソロではテクニカルな奏法を存分に披露している。
日本でもよく演奏されている楽曲のため、興味のある方は是非チェックしてみてほしい。

10曲目"Mozart 40th Symphony in G minor"は、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトが作曲した交響曲をジャズアレンジしたもの。
8分超えの大作だが、1曲の中で様々な景気を楽しめる編曲となっている。
特にエディ・ダニエルのクラリネットが効果的に使われており、"Thad Said No"と同じくクラリネット奏者は必聴のナンバー。

トラディショナルなビッグバンド・サウンドを楽しめる"What Sammy Said"は、11曲目に収録。タイトルの通り、サミー・ネスティコ(Sammy Nestico)を意識したアレンジだ。
ベイシー楽団のスロー・ブルースを思わせる、ビッグバンド好きにはたまらない楽曲。

アルバムのラストを飾るのは、フルーシー・ムーア(Fleecie Moore)、サム・スレッド(Sam Theard)が作曲を行った"Let the Good Times Roll"
ベイシースタイルのブルースとは違い、こちらはジャズ要素の薄いアメリカンなブルース曲に仕上がっている。
ボーカルには、全米を代表するポップ・シンガーであるジョニー・マティス(Johnny Mathis)を起用。
ブルース好きであれば必ず気に入ること間違いなしのナンバーだ。

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