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軽快にスウィングするギタートリオの名盤『マンハッタン・スウィング』(Manhattan Swing A Visit With the Duke)- バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)

『マンハッタン・スウィング』(Manhattan Swing: A Visit With the Duke)- バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)

『マンハッタン・スウィング』(Manhattan Swing A Visit With the Duke)は、バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)が2001年にリリースしたアルバムである。

まずは簡単にバッキー・ピザレリという人物について紹介しておこう。

バッキー・ピザレリ(John Paul "Bucky" Pizzarelli)は、1926年ニュージャージー州生まれのギタリスト。
17歳からプロギタリストとしての活動を開始し、1964年からはテレビ番組専用のバンドであるザ・トゥナイト・ショー・バンド(The Tonight Show Band)のメンバーとしても活躍している。
1970年以降はベニー・グッドマン(Benny Goodman)楽団、ステファン・グラッペリ(Stéphane Grappelli)、サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)などと共演し、サイドマンとして数々の名盤に参加。
職人気質なバッキングでバンドを支え、フレディ・グリーン(Freddie Green)に次ぐリズムギタリストとして、歴史に名を刻んだ演奏家として知られている人物だ。

バッキーはリズムギターの能力が非常に高く、そちらばかり目が行きがちなのだが、実は彼のソロも非常に魅力的であることをお伝えしたい。
伝統的なビバップスタイルのソロ、そしてスウィング感溢れるコードソロ奏法は、他のギタリストにはないアイデンティティを確立しており、まさに唯一無二。
いわゆる「昔ながらのジャズ」を好む方であれば、バッキーのソロを気に入ること間違いなしなのだ。
そしてそんなバッキーのソリストとしての魅力が最も堪能できる作品が、今回紹介する『マンハッタン・スウィング』(Manhattan Swing: A Visit With the Duke)である。

20枚以上リーダー・アルバムを発表している中で、何故今作をお勧めするのか。
それは、「バッキーのスタイルと収録曲の相性が良く、どの楽曲でも彼の実力が遺憾なく発揮されているから」である。
タイトルが示すとおり、今作に含まれている収録曲は2曲を除き、全てデューク・エリントン(Duke Ellington)が作曲したもの。
元々ビッグバンド出身のバッキーにとって、デュークの楽曲は体の一部のようなものなのだ。
実際にどの楽曲を聞いても完成度の高いパフォーマンスを発揮しており、バッキーの単音ソロやコードソロを存分に楽しむことができる。
アレンジが原曲に忠実な点も、気兼ねなく楽しめる要因の一つと言えよう。

演奏形態はギター・ピアノ・ベースのトリオ編成。
バッキーはリーダーアルバムを制作する際、ドラムレスの作品を多く発表しているが、これは彼の伴奏スタイルが大きな理由のひとつだろう。
4つ刻みのバッキングでコードを鳴らしつつ、同時にドラムの役割も果たすことを得意としているため、ドラムが必要ないのだ。
このスタイルは、彼の敬愛するフレディ・グリーン(Freddie Green)の影響が大きいものと思われる。

ベースを担当しているのは、バッキーとよく共演しているジェイ・レオンハート(Jay Leonhart)。
これまでにメル・ルイス(Mel Lewis)やトニー・ベネット(Tony Bennett)らと共演しており、ジェイもまた歴史に名を残す演奏家だ。
このアルバムでも、スウィンギーなベースと歌心溢れるフレーズで楽曲を盛り上げている。

ジョン・バンチ(John Bunch)はベニー・グッドマン(Benny Goodman)、バディ・リッチ(Buddy Rich)らと共演歴のある大御所ピアニスト。
バッキーと同じくビバップ・スタイルでのプレイを得意としており、今作でも彼と意気のあった演奏を聞かせてくれている。

さて、ここからは収録されている楽曲達を簡単に解説していこう。

Manhattan Swing: A Visit With the Duke - Track Listing

No.TitileWriterLength
1.Do Nothin' Till You Hear from MeDuke Ellington, Bob Russell8:15
2.I'm Beginning to See the LightDuke Ellington, Don George, Johnny Hodges, Harry James5:27
3.IsfahanDuke Ellington, Billy Strayhorn5:54
4.Satin DollDuke Ellington, Billy Strayhorn7:01
5.All Too SoonDuke Ellington, Carl Sigman6:22
6.Don't Get Around Much AnymoreDuke Ellington6:55
7.Passion FlowerBilly Strayhorn6:22
8.In a Mellow ToneDuke Ellington, Milt Gabler7:26
9.Black ButterflyDuke Ellington6:53
10.Take the "A" TrainBilly Strayhorn6:32
11.C Jam BluesDuke Ellington5:18

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、1940年にデューク・エリントン(Duke Ellington)がクーティ・ウィリアムス(Cootie Williams)のために作曲した"Do Nothin' Till You Hear from Me"
クーティは当時デューク・エリントン楽団に所属していたトランペット奏者で、唸るようなサウンドを奏でることから"ジャングル・スタイル"奏法の使い手として知られていた人物である。
元はインスト・ナンバーだったが、後にボブ・ラッセル(Bob Russell)により歌詞が付けられ、ボーカル曲としても愛されるようになった楽曲だ。
バッキーはこの曲を好んで演奏することが多く、その中でも本アルバムのバージョンは一二を争う完成度の高さ。
息子であるジョン・ピザレリ(John Pizzarelli)と発表したアルバム『ライブ・アット・ビンヤード』(Live at Vineyard)では、ギターデュオにてこの曲を演奏しているため、興味のある方はそちらもチェックしてほしい。

2曲目は、ジャズスタンダードとして世界中で愛されている"I'm Beginning to See the Light"
1944年にデューク、ジョニー・ホッジス(Johnny Hodges)、ハリー・ジェイムス(Harry James)、そしてドン・ジョージ(Don George)により作詞作曲が行われている。
1945年にはエラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)がこの曲をリリースし、6週に渡りポップソング・チャートにランクイン。
現在では「ジャズの楽曲」として知られているが、当時は「ポップソング」という扱いだったらしい。
このアルバムではアップテンポで軽快なアレンジが施されており、バッキーのスウィンギーなプレイがより一層輝いている。

3曲目"Isfahan"は、デュークが1967年にリリースしたアルバム『ファー・イースト・スウィート』(The Far East Suite)に含まれている楽曲。
イスファハーン(Isfahan)とはイランの都市名であり、エリントン楽団がツアーにてイランを訪れた際に作曲されたため、このタイトルが付けられた。
オリジナルではエリントン楽団のサックス奏者、ジョニー・ホッジス(Johnny Hodges)がフューチャーされている。
原曲と同じく、スローテンポでムーディーな雰囲気を演出されているため、落ち着いた曲を好む方におすすめ。

デュークとビリー・ストレイホーン(Billy Strayhorn)が1953年に作曲した4曲目"Satin Doll"は、ジャズ好きであれば是非抑えておきたい有名なナンバー。
これまでに数えきれないほど演奏された楽曲であり、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)やマッコイ・タイナー(McCoy Tyner)、ウェス・モンゴメリー(Wes Montgomery)らもレコーディングを行っている。
エリントン楽団では主にコンサートのラストに演奏されることが多かったそうだ。
デュークが生み出すナンバーは耳に残りやすいものが多く、この"Satin Doll"も一度聞けば忘れないキャッチーなメロディーが特徴。
バッキー、ジェイ、ジョンのトリオはこの雰囲気を壊さず原曲に忠実に演奏を行っている。

1940年にデューク、カール・シグマン(Carl Sigman)が作詞作曲を行った"All Too Soon"は、5曲目に収録。
暖かい雰囲気を持つナンバーで、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)などボーカル曲としても愛されている。
この楽曲では、バッキーの特徴のひとつである暖かいギタートーンに注目してほしい。

6曲目"Don't Get Around Much Anymore"は、バッキーが好んで演奏する可愛らしいメロディーを持つナンバー。
1940年にデュークが作曲を行い、その2年後にボブ・ラッセル(Bob Russel)により歌詞が付けられた。
広い世代から愛される楽曲で1996年にはマイケル・ブーブレ(Michael Bublé)もレコーディングを行っている。
こちらもバッキーの心地よいトーンが楽曲にハマっているため、この曲を演奏する際には非常に参考になるだろう。

7曲目"Passion Flower"は、デュークではなく、ビリー・ストレイホーンが作曲を行った楽曲となっている。
エリントン楽団ではサックス奏者のジョニー・ホッジスをフューチャー。
他の曲と比べると控えめなアレンジとなっているが、ジャズの持つ深みを存分に味わえる演奏だ。

1939年にエリントンが作曲した8曲目"In a Mellow Tone"は、ジャズ好きでなくとも是非聞いてほしい名曲中の名曲。
アート・ヒックマン(Art Hickman)、ハリー・ウィリアムズ(Harry Williams)が1917年に作曲した"Rose Room"をベースに誕生した曲でもある。
一度聴いたら忘れられないキャッチーなメロディーが特徴。
ここでのバッキートリオの演奏は素晴らしく、数ある"In a Mellow Tone"の中でもトップテンに入る完成度を誇っている。
スウィングジャズやギタートリオを好む方であれば必聴の一曲だ。

味わい深いメロディーを持つ"Black Butterfly"は、9曲目に収録。
1936年にデュークが作曲を行いレコーディングを行っているが、その後にサラ・ヴォーンをボーカルに迎えたバージョンも録音されている。
このアルバムでは原曲を忠実に再現し、特に大きなアレンジなどは行われていない。

10曲目"Take the "A" Train"は、このアルバムで最も有名なジャズスタンダード。
1939年にビリー・ストレイホーンに作詞・作曲を行い、1941年にエリントン楽団の演奏でレコードが発売され大ヒットしたナンバーだ。
曲のタイトルにある"A Train"とは、ニューヨークのブルックリン東地区からハーレムを経てマンハッタン北部を結ぶニューヨーク市地下鉄A系統(8番街急行)の名称。
日本でも非常に人気の高い楽曲で、美空ひばりがカバーしたものや、2004年の映画『スウィングガールズ』(Swing Girls)が演奏したバージョンも存在している。
バッキー、ジェイ、ジョンの原曲の軽快さを活かしたスウィンギーな演奏に注目だ。

アルバムのラストを飾るのは、1942年にデュークが作曲した"C Jam Blues"
C音とG音のみを使用したシンプルなメロディーが特徴。
ブルース曲のため、好んで演奏されることも多く、ジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt)やチャールズ・ミンガス(Charles Mingus)らもレコーディングを行っている。
スウィング感溢れる演奏のため、これからジャズを始める方にも大いに参考になるだろう。

Manhattan Swing: A Visit With the Duke - Credit

バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)- ギター
ジェイ・レオンハート(Jay Leonhart)- アップライトベース
ジョン・バンチ(John Bunch)- ピアノ

ジェイ・レオンハート(Jay Leonhart)氏によるコメント

1959年秋、私が11歳のとき、ボルチモアにある小さいクラブで兄ビルとデューク・エリントン楽団(Duke Ellington Orchestra)のライブを見に行ったことがある。

ライブは9時から開始の予定だったので、私達は8時45分頃には会場に到着していたと思う。しかし、そこから30分しても彼らは姿を見せず、なぜかデューク・エリントンのみ9時30分にステージに登場し、ピアノで演奏を始めた。
それは20分間ほど続いたが、私にとってはそれだけで満足してしまうほど、素晴らしいものだったことを覚えている。

その中で気づいたことは、デュークのピアノはとても”滑らか”だということ。まるで絵描きがキャンバスの上にアイデアを乗せていくような感じだった。

それからしばらくして、ベーシストのジミー・ウッド(Jimmy Woode)、ドラマーのルイ・ベルソン(Louie Bellson)が加わり、3人で曲を演奏し始める。

そこから徐々にメンバーが集まっていき、最終的に全員がステージに登場し、そのうちの何名かがソロを取り始めた。

その後、ビッグバンド編成でのパフォーマンスが始まったのだが、11歳の私にとってそれはとても衝撃的だった。
手の届く距離でビッグバンドを見たことはなかったし、しかもそれがかのデューク・エリントン楽団である。その時の私の驚いた顔を写真で取っておきたかったぐらいだ。
まるでテレビで月面着陸を見た時のような顔をしていたに違いない。そのライブでは、どのプレイヤーも楽譜を読まずにプレイしていて、私はそれにも凄く驚いた。
とても大昔のことなのに、ここまで鮮明に覚えている自分にも驚いているけどね。そこで聞いた楽曲の中で、私が知っていた曲は”Satin Doll”だけだったけれど、そこから私の音楽人生は始まったのだ。

30年後、私はマンハッタンにある高級ホテル、ウォルドルフ=アストリアにてトニー・ベネット(Tony Bennett)のバックでベースを弾いていた。ライブ中、トニーはそこをたまたま訪れていたデュークを観客の中から発見し、彼をステージに上げた。

そして私達は”Satin Doll”を演奏することになったのだ。私はソロを取っている後、デュークは笑いながら私を見て「一緒にツアーでも回るかい?」と尋ねてくれた。それは冗談だったと思うが、それでも私はあのデューク・エリントンと1曲演奏することができた。

ジョン・バンチ(John Bunch)とバッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)は、デューク・エリントン(Duke Ellington)を長い間聴き続けていた。
ジョン・バンチはトニー・ベネット(Tony Bennett)のために数年指揮を振っており、バックバンド・メンバーの中にはエリントン楽団のメンバーもいた。

ある時、トニー・ベネットがエリントン楽団をバックにエド・サリヴァン(Ed Sullivan)のショーに出演することがあったそうだ。しかし、デュークが何らかの理由でリハーサルを行うことが出来ず、代わりにジョンがリハーサルの指揮を取ることになったらしい。
デュークはジョンに「君は音楽のあるべき姿を知っているだろう?」と笑いながら話し、スタジオを後にしたとか。そこでジョンはデュークのピアノパートを演奏しながら、バンドの指揮を取った。世界でこれを熟すことができるのは、数えるほどしかいないだろう。

しかし、ジョンによるとジョンとデュークはそこまで親しい仲ではなかったらしい。それはデュークに対する畏敬の念があり、気軽に話しかけることが出来なかったからのようだ。それは十分に理解できる。

バッキーはデュークとザ・トゥナイト・ショーにて何回か共演している。また、デュークのアパートで行われたパーティでは、ジョージ・バーンズ(George Barnes)と共にデュークの伴奏をしていたことも覚えている。残念ながら、この音源は残っていないのだが。

私達がトリオとして活動するとき、エリントン/ストレイホーンの楽曲を演奏することが多い。それは有名なものもあれば、あまり知られていないナンバーを選曲したりもする。

私達は、アメリカ音楽の大天使であるデューク・エリントン(Duke Ellington)の楽曲をプレイすることを、本当に光栄に思う。

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