『ソウルトレーン』(Soultrane)は、サックス奏者ジョン・コルトレーン(John Coltrane)が4枚目のアルバムとしてリリースしたアルバムである。
1958年2月にヴァン・ゲルダー・スタジオ (Van Gelder Studio)にて録音された今作は、同年10月にプレスティッジ・レコード(Prestige Records)からリリース。
現在ではコルトレーンを代表する名盤の一つとして数えられており、また彼独自のスタイル「シーツ・オブ・サウンド」を堪能できる作品として有名だ。
このシーツ・オブ・サウンドとは、ダウン・ビート・マガジンのジャーナリスト、アイラ・ギトラー(Ira Gitler)が作った造語。
意味としては、「敷き詰められた音」と表現するのがよいだろう。
コルトレーンのスタイルの一つとして、高速でアルペジオとスケールパターンをプレイし、小節いっぱいに音を詰め込むものがある。
これは時折16分音符以上にも及び、グリッサンドのように聞こえる場合もあるほどだ。
『ソウルトレーン』(Soultrane)に収録された”Russian Lullaby”を聞いたアイラは、コルトレーンの超絶技巧に驚愕し、彼のスタイルを「シーツ・オブ・サウンド」と表現。この言葉を本作のライナーノートして使用したのだ。
また、本作が名盤たる所以はそれだけではない。
高い技術はもちろん、コルトレーンの深みのあるサウンドも楽しめ、聴きやすい収録曲が並んでいる。
1曲目”Good Bait”は、ムーディーな雰囲気のある”いかにもジャズらしい”楽曲。ピアニストのタッド・ダメロン(Tadd Dameron)が作曲し、コード進行は"I've Got Rhythm"から引用されている。
コルトレーンのメロディアスでテクニカルな奏法が楽しめるナンバーだ。
2曲目に並んだのは、ジョン・コルトレーンの代名詞ともいえる"I Want to Talk About You"。
深く厚みのあるサウンドが心に染みるバラードナンバーである。
コルトレーンはこの楽曲を幾度となく演奏しているが、特に有名なのは1963年に行ったバードランドでのライブだろう。
この時の音源は、1964年にリリースされた『ライブ・アット・バードランド』(Live at Birdland)にて収録されているため、興味のある方は聴いてみてほしい。
そして最もおすすめなのは、やはりシーツ・オブ・サウンドという造語を作るきっかけとなった”Russian Lullaby”だろう。
「敷き詰められた音」という言葉を理解するのは、この楽曲を聞くのが一番だ。
初期コルトレーンを代表するテクニカルな演奏が堪能でき、テナーサックス奏者であれば必聴の楽曲。
プロデューサーのボブ・ウェインストック(Bob Weinstock)は、この楽曲をレコーディングした経緯について、以下のように語っている。
「メンバーがセッションを楽しんでいる最中、私がジョンに尋ねたんだ。”昔のスタンダード曲を演奏してみてはどうだい?”ってね。そしたら彼は”分かった。”とだけ言って、”Russian Lullaby”を速いテンポで演奏し始めたんだ。」
結果、”Russian Lullaby”はコルトレーンを象徴するナンバーとして広く愛されることとなった。
他にもスウィング感溢れる"You Say You Care"、ロマンチックなバラード曲"Theme for Ernie"など、どの曲も個性溢れるものになっている。
今作に参加しているアーティストも非常に豪華。
ベースには、サイドマンとして数々の名演を残したポール・チェンバース(Paul Chambers)。
僅か33歳でこの世を去っているものの、メロディアスなベースラインで多くのフォロワーを持つ才能豊かなベーシストだ。
ピアノにはブロックコードの代名詞であるレッド・ガーランド(Red Garland)、ドラムにはいぶし銀のアート・テイラー(Art Taylor)が選ばれている。
彼ら3人はそれぞれがリーダーとしてもアルバムをリリースするほど優秀なプレイヤー。
今作ではジョン・コルトレーンのプレイだけでなく、彼ら3人のプレイにも注目してほしい。
ちなみにアルバムのタイトル”Soultrane”は、1956年にタッド・ダメロン(Tadd Dameron)が発表したアルバム『メーティングコール』(Mating Call)の収録曲から引用されている。
Soultrane - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Good Bait | Tadd Dameron | 12:08 |
2. | I Want to Talk About You | Billy Eckstine | 10:53 |
3. | You Say You Care | Leo Robin, Jule Styne | 6:16 |
4. | Theme for Ernie | Fred Lacey | 4:57 |
5. | Russian Lullaby | Irving Berlin | 5:33 |
Soultrane - Credit
ジョン・コルトレーン(John Coltrane)- テナーサックス
レッド・ガーランド(Red Garland)- ピアノ
ポール・チェンバー(Paul Chambers)- ベース
アート・テイラー(Art Taylor)- ドラム