CDの総売上枚数は1億枚を超え、グラミー賞も複数回受賞しているアメリカのメタルバンド、メタリカ(Metallica)。現時点において、「世界で最も成功しているメタルバンド」と言って良いだろう。
これまでに約10枚のスタジオ・アルバムをリリースしているが、その中で最も賛否両論ある作品、それが『セイント・アンガー』(St. Anger)だ。
2003年6月に8枚目のアルバムとしてリリースされた今作は、それまでにメタリカが発表した7作品と比べ、多くの点が異なっていた。
まず、このアルバムの収録曲全てにギターソロがないこと。これはメタルアルバムとしては非常に珍しい作品と言える。メタリカのリードギタリストであるカーク・ハメット(Kirk Hammett)のテクニカルなプレイを期待していたファンにとって、落胆するのも無理はない。実際はギターソロを入れる予定だったらしいが、曲に合うソロを挿入することが出来ず、リフを繰り返すことになったようだ。この件に関して、カークは「結果論だけどギターソロは無くてよかったと思う。曲の完成度には満足している。」とインタビューにて答えている。
次の異なる点は、ベーシストが不在の状態で曲が収録されたということ。
今作のレコーディング直前に、10年以上メタリカのベーシストとして活躍していたジェイソン・ニューステッド(Jason Newsted)が脱退。ベースの腕もさることながら、コーラスにも非常に定評のあったジェイソンの離脱は、メタリカにとって痛手となったことだろう。
結局、今作のレコーディングには音楽プロデューサーのボブ・ロック(Bob Rock)が担当することとなった。
そして、よく酷評されるのがラーズ・ウルリッヒ(Lars Ulrich)のドラムサウンド。今作では敢えてドラムの音色を左右するスナッピーを外し、レコーディングを行っている。結果として、かなり独特なスネアのサウンドとなっている為、好みが分かれるのも無理はないだろう。この件に関しローズは、ファンやメディアにドラムの音色を批評された際、「心が狭いね」と答えている。
他にも様々な問題を抱えた状態で制作された今作だが、個人的にはそういった”怒り”が楽曲に見事に表現されているように感じる。1stアルバムとは違った速さと荒々しさがあり、力強さもある。同じリフの繰り返しが多く、聞いていて飽きるという意見が多いのも事実だ。確かに11曲で75分は長すぎるといってよいだろう。アレンジも似ていて単調なものも多い。
しかし、その繰り返しに”怒り”の表現が感じられ、それを”エネルギー”に変えているように感じる。もしあなたが1曲目の"Frantic"を聞いて気に入ったのであれば、他の10曲も全て好きになるはずだ。似ている楽曲も多いが、それほど統一された作品でもある。
また、リードシングルとして発表された2曲目"St. Anger"は2004年グラミー賞のベスト・メタル・パフォーマンス賞(Best Metal Performance)を受賞。この曲のミュージックビデオもMTVビデオミュージックアワードにノミネートされている。
生きていると、大小にかかわらず、どうしようもない怒りに駆られることがある。メタリカ(Metallica)もこのアルバムを作成した際、そういった状況だったのではないだろうか。しかし、彼らはそれを利用し、素晴らしい作品を作り上げた。
「怒りをぶつける先がない」「ストレスのはけ口が無い」「怒りをエネルギーに変えたい」
そんなときにピッタリのアルバムが『セイント・アンガー』(St. Anger)なのだ。
St. Anger - Track Listing
No. | Title | Writer | length |
1. | Frantic | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 5:50 |
2. | St. Anger | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 7:21 |
3. | Some Kind of Monster | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 8:25 |
4. | Dirty Window | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 5:25 |
5. | Invisible Kid | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 8:30 |
6. | My World | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 5:46 |
7. | Shoot Me Again | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 7:10 |
8. | Sweet Amber | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 5:27 |
9. | The Unnamed Feeling | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 7:08 |
10. | Purify | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 5:14 |
11. | All Within My Hands | James Hetfield, Lars Ulrich, Kirk Hammett, Bob Rock | 8:48 |
St. Anger - Credit
ジェイムズ・ヘットフィールド(James Hetfield)- ボーカル、リズムギター
カーク・ハメット(Kirk Hammett)- リードギター
ラーズ・ウルリッヒ(Lars Ulrich)- ドラム
ボブ・ロック(Bob Rock)- ベース、プロダクション、エンジニアリング、ミックス