1980年代に活躍し、ネオロカビリーの火付け役となったバンド、ストレイ・キャッツ(Stray Cats)。
エルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)からの影響を感じさせつつ、更にロックでスウィンギーなそのスタイルは、全米で多くの支持を獲得した。
このバンドでボーカル兼ギタリストを担当し、バンドの中心でもあったのが、ブライアン・セッツァー(The Brian Setzer)だ。
「ブライアンといえばロックンロール・ギタリスト」と想像する方がほとんどだろう。
しかし、実はセッツァーは学生時代にユーフォニアムを演奏しており、スクール・ジャズ・バンドに在籍していた経歴をもっている。
またニューヨークに住んでいたこともあってか、時折ジャズの聖地ヴィレッジヴァンガード(Village Vanguard)へ足を運び、一流のジャズミュージシャンのプレイを楽しんでいたそうだ。
しかし、ご存じのとおり「ロックミュージック」に強く惹かれていたブライアンは、1979年にストレイ・キャッツを結成。
その一年後にはメジャー・デビューを果たし、"Rock This Town"、"Rumble In Brighton"、"Blast Off"など数多くの名曲を生み出した。
しかし、ストレイキャッツはメンバー間の争いや数々の事件を起こし、1984年に一時活動を停止。2年後に再始動するものの、1993年には再び活動を停止するなど空中分解気味だった。
その間、ブライアンは自身の"もうひとつのルーツ"であるジャズ・ミュージックを追求するため、ブライアン・セッツァー・オーケストラ(The Brian Setzer Orchestra)を結成。
ロカビリーとビッグバンドを融合させたオリジナリティ溢れるグループを目指し、活動を開始した。
しかし、ブライアンが追い求めていたサウンドを表現することは簡単ではなかったようだ。
バンドは1994年に1stアルバム『ザ・ブライアン・セッツァー・オーケストラ 』(The Brian Setzer Orchestra)、1995年に2ndアルバム『ギター・スリンガー』(Guitar Slinger)を発表。
しかし、どちらの作品も満足のいく出来とはいかず、また商業的にも失敗に終わってしまった。
そんな停滞気味だったブライアン・セッツァーの復活の狼煙となったのが、今回紹介する3rdアルバム『ダーティー・ブギ』(The Dirty Boogie)だ。
本人も「納得の出来」と語っているこの作品は、ブライアンの得意とするロカビリーにビッグバンドの要素が見事に融合。
商業的にも全米チャートで9位にランクインし、全世界で300万枚を売り上げるなど大成功を収める結果となった。
また翌年にはグラミー賞では、収録曲の2曲が「ベスト・ポップ・インストルメンタル」、「ポップ・ボーカル・デュオ/グループ」を受賞。
各方面で高い評価を獲得した『ダーティー・ブギ』(The Dirty Boogie)は、現在ブライアン・セッツァーを代表する「名盤のひとつ」として数えられている。
The Dirty Boogie - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | This Cat's on a Hot Tin Roof | Brian Setzer | 2:19 |
2. | The Dirty Boogie | Brian Setzer | 2:13 |
3. | This Old House | Stuart Hamblen | 3:06 |
4. | Let's Live It Up | Brian Setzer | 3:41 |
5. | Sleepwalk (instrumental) | Santo Farina, Johnny Farina, Ann Farina | 3:49 |
6. | Jump, Jive an' Wail | Louis Prima | 2:53 |
7. | You're the Boss (featuring Gwen Stefani) | Jerry Leiber, Mike Stoller | 3:43 |
8. | Rock This Town | Brian Setzer | 6:37 |
9. | Since I Don't Have You | Jimmy Beaumont, Wally Lester, Joe Verscharen, Janet Vogel, Jackie Taylor, Joseph Rock, Lennie Martin | 4:09 |
10. | Switchblade 327 | Brian Setzer | 3:30 |
11. | Nosey Joe | Jerry Leiber, Mike Stoller | 2:45 |
12. | Hollywood Nocturne | Brian Setzer | 5:36 |
13. | As Long as I'm Singin | Bobby Darin | 4:03 |
Background & Reception
1曲目に並んだのは、ロカビリーとビッグンバンドが見事に融合した”This Cat's On A Hot Tin Roof”。
オープニングに相応しいダンサンブルなナンバーで、思わず踊りだしたくなるサウンドがたまらない。
ギターソロではブライアン節全開のロックンロールなフレーズを連発している。
タイトル・ナンバーにもなった2曲目"The Dirty Boogie"は、アルバムの中でもおすすめのマイナー・スウィング・ロックチューン。
どことなく品のある曲で、ストレイ・キャッツ的なサウンドも感じられる。
こういったマイナー調の曲も難なくこなせるギタリストは、世界でも数えるほどしかいないだろう。
1曲目に続き、作詞・作曲はブライアン本人によるものだ。
3曲目”This Old House”は、1954年にスチュアート・ハンブレン(Stuart Hamblen)によって書かれた楽曲。
スチュアートはテキサス生まれの俳優であり、「歌うカウボーイ」としてラジオや映画で愛されていた人物だ。
この"This Old House"は現在でもカントリーの名曲として広く愛されており、それ故にブライアンもこの曲をチョイスしたのだろう。
この楽曲のアレンジも例に漏れず「ロカビリー」「ビッグバンド」サウンドが加わり"踊れる"音楽へ形を変えている。
ギター、ホーンセクションのイントロから最高の盛り上がりを見せるのが、4曲目に並んだ"Let's Live It Up"。
メロディーが素晴らしく、楽曲のアクセントも非常に心地がよい。
ギターソロが魅力的なのはもちろんだが、この曲ではサックスのソロにもぜひ注目だ。
作詞・作曲は、もちろんブライアン・セッツァー。
5曲目には、サント&ジョニー(Santo & Johnny)が1959年に作曲した”Sleep Walk”を収録。
多くのミュージシャンから愛されているインストナンバーで、これまでにチェット・アトキンス(Chester Atkins)、ザ・ベンチャーズ(The Ventures)、ジェフ・ベック(Jeff Beck)、国内では横山健(Ken Yokoyama)もカバーしている。
今回収録されたブライアンのバージョンはビッグバンドではなく、ギターをフューチャーしたコンボ編成での演奏。
ロック、ロカビリー、カントリーが熟せるだけでなく、こういったバラード調の楽曲、しかもインストを聞かせることが出来るのはさすがとしか言いようがない。
ブライアンはこの楽曲により、1999年のグラミー賞にて「ベスト・ポップ・インストルメンタル」を受賞している。
6曲目”Jump Jive An' Wail”は、アメリカのジャズトランぺッターであるルイ・プリマ(Louis Prima)が1956年に作曲したスウィング・ナンバー。
この楽曲はオリジナル自体がダンサンブルな楽曲であるため、アレンジは控えめ。
それでもしっかりと"ブライアンらしさ"が随所に現れており、彼のオリジナル曲と言われても違和感を感じないほどだ。
ちなみにこちらも1999年のグラミー賞にて「ポップ・ボーカル・デュオ/グループ」を獲得している。
7曲目はムーディーな雰囲気をもつスローテンポの”You're The Boss”。
オリジナルはブライアンの敬愛するエルヴィス・プレスリー(Elvis Presley)の為に書かれたものだ。
作詞・作曲は、"Love Me"、"Jailhouse Rock"、"Loving You"などエルヴィスに数多くの楽曲を提供しているジェリー・リーバー(Jerry Leiber)とマイク・ストーラー(Mike Stoller)のコンビ。
エルヴィスを敬愛しているブライアンらしいチョイスと言える。
8曲目”Rock This Town”は、ストレイ・キャッツ(Stray Cats)のデビュー・アルバム『涙のラナウェイ・ボーイ』(STRAY CATS)に収録されている名曲中の名曲。
セルフ・カバーとなったこの楽曲だが、はっきりいってこの楽曲だけで本アルバムを買う価値があるといってよいだろう。
ギター、ホーンセクションが絶妙に交わり、パーティー・ロック的な仕上がりで原曲に負けず劣らずの名曲へ仕上がっているのだ。
約1分に及ぶギターソロもブライアン節がさく裂しており、様々なテクニックを披露。ギタリストでなくとも心を弾ませるフレーズを連発している。
「ロック」「ロカビリー」「ビッグバンド」を好まない方にも是非おすすめしたいナンバー、それがこの"Rock This Town"だ。
9曲目に収録されているのは、1958年にジャッキー・テイラー(Jackie Taylor)らによって作曲された"Since I Don't Have You"。
カントリー歌手のロニー・ミルサップ(Ronnie Milsap)がカバーしたことでも有名な楽曲だ。
ちなみにアメリカのロックバンド、ガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N' Roses)も1994年にこの楽曲をカバーしている。
ビッグバンドのサウンドが良いアクセントになっている、心暖まるアレンジ。
ブライアンが作詞・作曲を行った"Switchblade 327"は、10曲目に収録。
アップテンポなマイナーチューンで、切れ味の鋭いサウンドが特徴。
ロック・サウンドが基調となっており、ロック、ロカビリー好きにはたまらない楽曲だろう。
エンディングにはバイクのエンジン音がミックスされている。
11曲目"Nosey Joe"も、You're The Boss”と同じくジェリー・リーバー、マイク・ストーラーのコンビが作曲したナンバー。
この二人が作曲しただけあってロカビリー色が強い楽曲だが、ビッグバンド・サウンドもしっかりとフューチャーされたアレンジとなっている。
ダンサンブルな曲調のため、踊れるミュージックをお探しの方にも是非おすすめしたい。
12曲に並んだ"Hollywood Nocturne"は、ブライアンが作曲したムーディーな雰囲気をもつマイナーチューン。
1970年代を思わせるようなサウンドを意識して作られており、"古き良きアメリカのサウンド"を感じることができる。
サックスのソロやギターのサウンドも素晴らしく、「007」の世界観が好きな方であればきっと気に入る楽曲だろう。
ラストを飾るのは、パーティーサウンド全開の"As Long as I'm Singin'"。
イントロのギターソロはただのロック・ギタリストではないブライアンだからこそのフレーズだろう。
リズム隊の演奏も思わず身体が動き出すようなグルーブを作り出しており、ホーンセクションもしっかりと"煌びやかさ"を演出している。
こちらもダンサンブルなナンバーで「スウィング・ロック」に相応しい楽曲だ。
The Dirty Boogie - Credit
ブライアン・セッツァー(Brian Setzer)- ギター、ボーカル
アーニー・ヌーニェス(Ernie Nunez)- ベース
トニー・ガルニエ(Tony Garnier)- ベース
バーニー・ドレセル(Bernie Dresel)- ドラム、パーカッション
ドン・ロバーツ(Don Robert)- サックス
レイ・ハーマン(Ray Hermann)- サックス
リック・ロッシ(Rick Rossi)- サックス
スティーブ・マーシュ(Steve Marsh)- サックス
ティム・ミシカ(Tim Misica)- サックス
ジョージ・マクマレン(George McMullen)- トロンボーン
マーク・ジョーンズ(Mark Jones)- トロンボーン
マイケル・ヴラトコヴィチ(Michael Vlatkovich)- トロンボーン
ロビー・ヒオキ(Robbie Hioki)- トロンボーン
ダニエル・フォルネーロ(Dan Fornero)- トランペット
デニース・ファリアス(Dennis Farias)- トランペット
ジョン・フモ(John Fumo)- トランペット
ケビン・ノートン(Kevin Norton)- トランペット
[Guest]
グウェン・ステファニー(Gwen Stefani)- ボーカル(Track 7)
マーク・W・ウィンチェスター(Mark W. Winchester)- ベース(Track 7)
エディー・ニコルズ(Eddie Nichols)- バックボーカル(Track 7)
メーガン・アイヴィー(Meghan Ivey)- バックボーカル(Track 7)
ボブ・パー(Bob Parr)- ベース(Track 12)
ロジャー・バーン(Roger Burn)- ピアノ(Track 12)
ボブ・サンドマン(Bob Sandman)- サックス(Track 12)
ジョージ・シェルビー(George Shelby)- サックス(Track 12)
スティーブ・ファウラー(Steve Fowler)- サックス(Track 12)
チャーリー・ビグス(Charlie Biggs)- トランペット(Track 12)
スタン・ワトキンス(Stan Watkins)- トランペット(Track 12)