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ジャズ・フュージョンの名盤でもあり、ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)を代表する一枚となった『ヘッド・ハンターズ』(Head Hunters)

ジャズ・スタイルの最先端を常に走っているハービー・ハンコック(Herbie Hancock)
数多くの個性的なアルバムを世に送り出してきたハービーが1973年にリリースした12枚目のスタジオ・アルバムが『ヘッド・ハンターズ』(Head Hunters)だ。

アルバムの製作にあたり、新しいバンドメンバーを探していたハービー。
最初にメンバーに加わったのはテナーサックス・バスクラリネット・フルート奏者であるベニー・モウピン(Bennie Maupin)。
ベニーはマイルス・デイヴィス(Miles Davis)が生んだ最大のヒット作であり、「フュージョンというジャンルを確立したアルバム」と言われている『ビッチェズ・ブリュー』(Bitches Brew)にも参加。
注目を浴びることは少ないものの、ジャズ/フュージョン界きっての縁の下の力持ちとして活躍しているプレイヤーだ。

ドラムには、後にフォープレイ(Fourplay)の一員として活躍するハーヴィー・メイソン(Harvey Mason)を選出。
ハーヴィーもジャズ/フュージョン界で活躍する名プレイヤーであり、日本では渡辺貞夫、カシオペアとも共演している。

もう一人のリズム隊は、「ミュージシャンズ・ミュージシャン」としても知られるポール・ジャクソン(Paul Jackson)。
ポールもジョージ・ベンソン(George Benson)、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)、ソニー・ロリンズ(Sonny Rollins)らと共演している素晴らしいベーシストだ。

アルバムにはギターが一切使用されておらず、代わりに電気式キーボードのクラビネットが大活躍している。リズムセクションがフューチャーされている楽曲が多いが、これはファンキーな要素を強めることで幅広いファンにアピールすることが目的だったようだ。結果として、ジャズファンだけでなく、R&Bやファンク好きな人々にも受け入れられた作品となり、ハービー・ハンコック名義では初の全米ジャズチャートで1位、総合チャートでも13位と商業的にも大きな成功を収めた。

Head Hunters - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.ChameleonHerbie Hancock15:41
2.Watermelon ManHerbie Hancock6:29
3.SlyHerbie Hancock10:15
4.Vein MelterHerbie Hancock9:09

Background & Reception

1曲目"Chameleon"は15分を超える、ジャズ・フュージョンを代表する曲のひとつ。
ファンキーなベースラインを中心に曲が展開していく「ジャズ・ファンク・フュージョン」が融合したナンバーだ。
現在ではスタンダード曲として定着しており、メイシオ・パーカー(Maceo Parker)、バディ・リッチ(Buddy Rich)、スタンリー・ジョーダン(Stanley Jordan)などもカバー。
日本国内でも、フュージョン中心のセッションでは定番中の定番曲と言えるだろう。
ハービー・ハンコックのキーボードソロに加え、ハーヴィー・メイソン(Harvey Mason)のスリリングなドラムにも注目だ。
ちなみにイントロの特徴的な音色はアナログ・シンセのアープ・オデッセイ(ARP Odyssey)によるもの。

次の"Watermelon Man"も、セッションではお馴染みのファンク・フュージョン・ナンバー。
この曲と言えば、『ヘッド・ハンターズ』(Head Hunters)のバージョンを思い浮かべる方がほとんどだろう。
しかしこのナンバー、実はハービーのセルフ・カバー曲であることを知っている人は少ないのではないだろうか。

オリジナルの"Watermelon Man"は1962年、ハービーの1stアルバム『テイキン・オフ』(Takin' Off)に収録されている。
それから11年後、ハービー・ハンコックはそれにファンク・アレンジを加え、本アルバムへ収録。
現在ではハービーを代表するまでに成長したのだ。

"Chameleon"に続きこちらもイントロが特徴的だが、これはパーカッション奏者のビル・サマーズ(Bill Summers)が、ビール瓶で演奏したもの。これはアフリカ・ピグミー族のヒンデウフー(Hindewhu)と呼ばれる音楽スタイルを模して作られた音色で、曲中を通してアフリカのパーカッションがフューチャーされた曲でもある。

ファンク音楽のパイオニア的存在であるスライ&ザ・ファミリー・ストーン(Sly & The Family Stone)に捧げられた曲が3曲目に並んだ"Sly"
スライっぽい雰囲気もあるが、この曲はまさに「フュージョンの完成形」
ハービーとベニー・モウピン(Bennie Maupin)のソロも素晴らしいが注目はリズム隊。特にテンポアップ後のハーヴィー・メイソン(Harvey Mason)のドラミングは常にソロ状態。ドラマーで無くとも必聴の一曲だ。

最後のナンバーである"Vein Melter"ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)とモウピンがフューチャーされた楽曲。ここではハービーは基本的にローズ・ピアノを演奏しており、時折シンセサイザーもプレイしている。

Conclusion

"ジャズ・フュージョン"を代表する名盤となった『ヘッド・ハンターズ』(Head Hunters)
1973年にリリースされたとは思えないほど、フュージョン作品として完成している。
特に現代ジャズ・ジャズフュージョンとジャンル分けされる音楽は、マイルス・デイヴィス(Miles Davis)が1969年にリリースした「イン・ア・サイレント・ウェイ」(In A Silent Way)、1970年の『ビッチェズ・ブリュー』(Bitches Brew)、そしてこの『ヘッド・ハンターズ』(Head Hunters)に影響を受けているものがほとんどではないだろうか。

1963年から5年程マイルス・デイヴィス・カルテットの一員として活躍したハンコック。モダン・ジャズの帝王からの影響も存分に感じることもできる今作は、ジャズファンでなくとも楽しめる一枚に仕上がっている。

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