イヴァン・リンス(Ivan Lins)は、ブラジル出身のミュージシャンであり、ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック (MPB) を世界に広めた著名な作曲家。イヴァンがこれまでに作曲した曲はクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)、ジョージ・ベンソン(George Benson)、エラ・フィッツジェラルド(Ella Jane Fitzgerald)、マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)など、多くのミュージシャンにカバーされており、特にジャズ界隈での評価が高い人物でもある。
活動期間は30年以上に渡り、これまでに20枚以上のアルバムをリリース。ラテン・グラミー賞を複数回受賞しているブラジルが世界に誇るアーティストだ。
多くの作品を発表しているイヴァン・リンスの中で、名盤として必ず挙げられるのが1977年にリリースされた『今宵楽しく』(Somos Todos Iguais Nesta Noite)。
このアルバムはイヴァンがEMI-ODEONに移籍してから初めてリリースされたアルバムで、彼がミュージシャンとして油の乗っていた時期に発表された作品でもある。
ブラジル音楽は1970年前後から、カエターノ・ヴェローゾ(Caetano Veloso)、ジルベルト・ジル(Gilberto Gil)などの活躍により、ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック(MPB)と呼ばれるジャンルが市場を占めるようになっていた。そんな彼らに負けじと、イヴァン・リンスが発表した『今宵楽しく』(Somos Todos Iguais Nesta Noite)は、30年以上経った今も世界中で愛され続けている名盤となった。
ブラジル音楽の為、全曲を通してポルトガル語で歌われているので、日本人にとっては耳馴染みのない言語ではある。しかし、自然と耳に入ってくる心地よいメロディーは多くのリスナーを魅力し、日本人でも今作のファンは非常に多い。
ラテン音楽のひとつであるブラジリアン・ポピュラー・ミュージック(MPB)の入門編としても是非おすすめの一枚だ。
Somos Todos Iguais Nesta Noite - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Quadras De Roda | Ivan Lins | 3:38 |
2. | Um Fado | Ivan Lins | 2:12 |
3. | Dinorah, Dinorah | Ivan Lins | 3:15 |
4. | Aparecida | Ivan Lins | 4:22 |
5. | Velho Sermao | Ivan Lins | 3:11 |
6. | Choro Das Aguas | Ivan Lins | 2:42 |
7. | Somos Todos Iguais Nesta Noite | Ivan Lins | 3:09 |
8. | Maos De Afeto | Ivan Lins | 5:27 |
9. | Dona Palmeira | Ivan Lins | 2:51 |
10. | Ituverava | Ivan Lins | 3:07 |
11. | Qualquer Dia | Ivan Lins | 1:48 |
Background & Reception
1曲目"Quadras De Roda"は、イヴァン・リンスの軽快なピアノから始まる曲。ブラジル音楽らしいコード・サウンドと自然と耳に入ってくるメロディーはまさに「ザ・ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック」。オープニングに相応しい心地の良いナンバーだ。
"Um Fado"はブラジルの旧宗主国であるポルトガルの伝統音楽「ファド」。クラシックギター(ポルトガルではヴィオラと呼ばれる)がフューチャーされた、ミッドテンポのゆったりとした曲。
次の"Dinorah, Dinorah"はジャズギタリストのジョージ・ベンソン(George Benson)がカバーし、広く知られるようになった曲。ジョージ・ベンソンも惚れた美しいメロディーラインとコード進行は一聴の価値あり。
ブラジルの作曲家マウリシオ・タバジョス(Mauricio Tapajos)と共作した"Aparecida"は、日本人好みのマイナー調でメロディアスなナンバー。美しいガットギターのバッキングはイヴァン・リンス本人によるもの。世界的に有名なブラジルのハーモニカ奏者、マウリシオ・エインニョルン(Mauricio Einhorn)のソロも楽曲をより情緒溢れるものにしている。
5曲目"Velho Sermao"はアップテンポなブラジリアン・ミュージック。イヴァンの軽快なギターに加え、ブラジル北東部出身の名アコーディオン奏者であるシヴーカ(Sivuca)のサウンドにも注目。
"Choro Das Aguas"は日本語へ訳すると「水のショーロ」。ショーロはポルトガル語で泣くという意味で、曲もまさに鳴きのメロディーが入っているナンバーだ。
アルバムのタイトルにもなっている"Somos Todos Iguais Nesta Noite"はライブでよく演奏される大人気の曲。クラリネットの名手、アベル・フェレイラ(Abel Ferreira)の独特のクラリネットサウンドにも注目。イヴァン・リンスとブラジリアン・ミュージックの良いところが詰まったナンバーだ。
"Maos De Afeto"はスローテンポでメロウなバラード曲。序盤はピアノとボーカルがフューチャーされ、後半になるにつれ、ストリングスが追加され、壮大さが増していく。
次の"Dona Palmeira"はまだサンバが誕生する前、カーニバルで歌い踊られていた「マルシャ」と呼ばれる音楽のリズムが使用された渋さ満点の曲。リカルド・ポンチス(Ricardo Pontes)のフルートもこの曲にピッタリのサウンドだ。
ブラジリアン・ミュージックらしい独特のコード進行が使用されている"Ituverava"は、のんびりとしたスローテンポの曲。クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)から「世界で指折りのアレンジャー」と称されたジルソン・ペランゼッタ(Gilson Peranzzetta)がアコーディオンで参加している。
最後の"Qualquer Dia"は1:48と短い曲ながらラストを飾るに相応しい、ゆったりとした曲。イヴァン・リンスらしい転調も見られ、曲が終わると少しさびしさを感じるようなナンバー。
Conclusion
このアルバムはイヴァン・リンス(Ivan Lins)が32歳の時に製作された作品。曲の完成度を聞けば、音楽家として油の乗っていた時期であることは疑う余地もない。ゲストも素晴らしいブラジリアン・ミュージシャンが揃えられており、ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック(MPB)の名盤として歴史に名を刻んだ一枚と言えよう。
いい音楽であれば、日本だろうが英語だろうが構わない。
それを感じさせてくれる作品がこの『今宵楽しく』(Somos Todos Iguais Nesta Noite)なのだ。