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ジャズ初心者にもおすすめ。「力強さ」と「美しさ」を兼ね備えたアルバム『恋のチャンス』(Taking a Chance on Love)- ジェーン・モンハイト(Jane Monheit)

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「ジャズに興味はあるが、どこから聞き始めればよいか分からない」

そんな方におすすめなのが、ジェーン・モンハイト(Jane Monheit)が2004年に発表した『恋のチャンス』(Taking a Chance on Love)だ。
彼女を知らない方達の為に、まずは簡単にジェーンの経歴について説明していこう。

ジェーン・モンハイト(Jane Monheit)は、1977年11月3日生まれのジャズシンガー。
ジェーンの父はバンジョーとギターを演奏しており、母もまたシンガーとして活躍していた。
ジェーンも早い段階で音楽に興味を持ち、高校生になる頃には既にプロの歌手として活動を開始していたという。

2000年には若干22歳にてデビュー・アルバム『ネバー・ネバー・ランド』(Never Never Land)をリリース。
バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)、ロン・カーター(Ron Carter)らが参加したこのアルバムは、各方面から高い評価を獲得し、ジェーンの名をジャズ業界に広く知らしめることとなった。

その後、2001年に2ndアルバム『カム・ドリーム・ウィズ・ミー』(Come Dream with Me)、2002年に3rdアルバム『イン・ザ・サン』(In the Sun)を発表。
1stアルバムに続きどちらも安定した実力を見せつけ、「ジャズシンガー」としての立ち位置を盤石のものとした。

今回紹介する『恋のチャンス』(Taking a Chance on Love)は、そんなジェーンが2004年にリリースした4枚目のアルバムである。
ここからは、なぜ今作が「ジャズ初心者にお勧めなのか」を説明していこう。

まず大きな要因の一つが、「ジェーンの歌唱力」である。

ジェーンの歌声は聴き心地が良く、力強い。
またメロディーラインも良い意味で癖が無いため、ジャズ初心者にとって”聴きやすい”のだ。
これはジャズに慣れていない方達にとって非常に重要な部分である。

ジャズボーカルのアルバムをすすめる際に真っ先に挙がるシンガーと言えば、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)、ビリー・ホリディ(Billie Holiday)だろう。
しかし、全くジャズを聴いたことのない方々に彼女達を勧めるのは少し疑問がある。
この三人が「ジャズ・ボーカリスト」として素晴らしいのは、もちろん賛成だ。
しかし「ジャズ初心者」にとって聞きやすいシンガーかと言えば、そうではない。
ロックで言えば、ギターを始めたことにない人にいきなりジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)をすすめるようなものだ。
その点、ジェーン・モンハイトは本格的なジャズシンガーながら、万人受けする歌唱力を持ち、ジャズに興味のない方でも「心地よい」と思わせる力を持つミュージシャンなのだ。
この能力を持つ人物は、ジャズ業界に限らずとも中々いないのではないだろうか。

次の要因が「アレンジがシンプルで、1曲の平均時間が適正である」ことだ。
ジャズ・アルバムが一般の方にとって敬遠される理由のひとつとして、「演奏時間が長い」ことが挙げられる。
これは”ジャズ”という音楽の性質上仕方がないことなのだが、ソロを奏者毎で回すため、どうしても1曲が5~10分程度になってしまう。
これではいくら良いソロを演奏していても、楽器に興味のない方やジャズに興味のない方にとっては長すぎる。
その点『恋のチャンス』(Taking a Chance on Love)は、ボーカルを中心とした曲構成になっており、演奏時間は3~5分のものがほとんど。
「ジェーンの歌声に魅了されている間に曲が終わっていた」と感じるのに、丁度いい時間なのである。

また、ボーカルだけでなく周りを固めるサイドメンバーも非常に豪華な点も見逃せない。
ベーシストにはジャズ業界の大御所、ロン・カーター(Ron Carter)。
ロンはジャズ・ベーシストとしてTOP5に入る腕前の持ち主であり、ここ日本でも非常に人気の高いベーシストである。
彼が参加しているというだけで、本アルバムの価値も非常に高いものなっているのだ。

本作では他にもベースシストが参加しており、その一人がクリスチャン・マクブライド(Christian McBride)である。
クリスチャンはこれまでに6回のグラミー賞受賞経験を持ち、暖かみのあるサウンドを奏でる凄腕ベーシスト。
今作でもジャズらしいサウンドを聞かせており、楽曲の完成度を飛躍的に向上させている。

また、他にもサックス奏者のジョエル・フラーム(Joel Frahm)、ドナルド・ハリソン(Donald Harrison)、ピアニストにはジェフリー・キーザー(Geoffrey Keezer)、マイケル・カナン(Michael Kanan)が並ぶなど、本物のジャズメン達が揃っている。

レコーディングに参加した素晴らしいミュージシャン達はクレジット欄に記載しているため、興味のある方は是非チェックしてみてほしい。

さて、ここまで『恋のチャンス』(Taking a Chance on Love)がなぜジャズ初心者にお勧めなのかを説明してきた。
そしてここからは、その収録曲について解説していこう。
言うまでもないが、今作には「ジャズ初心者でも楽しめる、ジャズの名曲達」がズラリと並んでいる。

Taking a Chance on Love - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Honeysuckle RoseAndy Razaf, Fats Waller3:39
2.In the Still of the NightCole Porter5:06
3.Taking a Chance on LoveVernon Duke, John Latouche, Ted Fetter3:19
4.BillJerome Kern, P. G. Wodehouse, Oscar Hammerstein II5:16
5.I Won't Dance (duet with Michael Bublé)Jerome Kern, Otto Harbach, Oscar Hammerstein II, Jimmy McHugh, Dorothy Fields3:36
6.Too Late NowAlan Jay Lerner, Burton Lane5:21
7.Why Can't You Behave?Cole Porter4:08
8.Do I Love You?Cole Porter4:53
9.Love Me or Leave MeGus Kahn, Walter Donaldson3:34
10.Embraceable YouGeorge Gershwin, Ira Gershwin3:47
11.Dancing in the DarkHoward Dietz, Arthur Schwartz5:04
12.Over the RainbowHarold Arlen, E.Y. Harburg3:54

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、ジャズボーカル曲として人気の高い"Honeysuckle Rose"
ファッツ・ウォーラー(Fats Waller)、アンディー・ラザフ(Andy Razaf)が1929年に作詞作曲を行って以降、世界中で広く演奏されている名曲だ。
注目はクリスチャン・マクブライド(Christian McBride)のスウィンギーなベースと、ジェーンの歌唱力。
オリジナルに忠実な演奏を行っており、「ジャズ音楽のかっこよさ」が詰め込まれている。
個人的には本作で最もお勧めの楽曲。

2曲目"In the Still of the Night"は、1937年にコール・ポーター(Cole Porter)が作曲したナンバー。
元々はミュージカル映画『ロザリー』(Rosalie)の為に作られた楽曲で、こちらもジャズボーカル曲として世界各国で広く演奏されている。
このアルバムのバージョンではボサノヴァ調のアレンジが施されており、スムースなジェーンの歌声に心躍る

アルバムのタイトルにもなっている"Taking a Chance on Love"は、3曲目に収録。
ヴァーノン・デューク(Vernon Duke)、ジョン・ラトゥーシュ(John La Touche)とテッド・フェッター(Ted" Fetter)の3名が1940年に作詞作曲を行ったナンバー。
シンプルで力強くスウィングしており、"Honeysuckle Rose"と並び本作でもおすすめの楽曲だ。
ちなみにフランク・シナトラ(Frank Sinatra)、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、トニー・ベネット(Tony Bennett)らもこの楽曲を演奏している。

4曲目"Bill"は、1927年に公開されたミュージカル『ショー・ボート』(Show Boat)のために作曲されたナンバー。
作詞作曲はジェローム・デヴィッド・カーン(Jerome David Kern)、P・G・ウッドハウス(Pelham Grenville Wodehouse)の2名によって行われている。
これまではコンボ編成での演奏だったが、ここではピアノとボーカルのみのデュオ編成。
その分ジェーンの滑らかな歌声が堪能できるアレンジが施されており、バラード曲を好む方にお勧めの楽曲だ。

ジェローム・カーンが1935年に作曲したナンバー"I Won't Dance"は、5曲目に収録。
この楽曲ではカナダ出身の歌手マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)がボーカリストとして参加している。
マイケルもジャズを基調とする歌手であり、二人の相性は抜群。
ビッグバンドが心地よい、煌びやかなスウィングが楽しめるボーカルデュオ・ナンバー。

6曲目に並んだのは、バートン・レイン、アラン・ジェイ・ラーナーが作詞作曲を行った"Too Late Now"
1951年のミュージカル映画『ロイヤル・ウェディング』(Royal Wedding)のために作曲が行われた楽曲だ。
暖かく響くベースとピアノ、そしてジェーンの歌声が見事に調和したスローバラード・ナンバー。

7曲目"Why Can't You Behave?"は、1948年にコール・ポーター(Cole Porter)がミュージカル映画『キス・ミー・ケイト」(Kiss Me, Kate)の為に書き上げた曲。
エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)、ビング・クロスビー(Bing Crosby)のバージョンが有名である。
ジェーンのこのバージョンでは艶っぽい雰囲気が醸し出されており、まさに「大人のジャズ」といった感じだ。

8曲目に並んだ"Do I Love You?"も、コール・ポーターが作曲したバラード・ナンバー。
こちらは1939年のブロードウェイ・ミュージカル『デュ・バリー・ワズ・ア・レディー』(Du Barry Was a Lady)で使用されている。
ミュージカル映画でそのまま使用出来そうな、ストーリー性のある曲構成に注目。

ウォルター・ドナルドソン(Walter Donaldson)が1928年に作曲した"Love Me or Leave Me"は、9曲目に収録。
ここにきて初のマイナー調の楽曲が並び、ジェーンの艶のあるセクシーな歌声を堪能することができる。
ホーンセクションも追加されており、サックスの掛け合いソロも最高にクールだ。

10曲目"Embraceable You"は、クラシック界、ジャズ界共に知名度の高いジョージ・ガーシュウィン(George Gershwin)が1928年に作曲した曲。
現在でもジャズ・スタンダードとして世界中で愛されており、ナット・キング・コール(Nat King Cole)、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)らもレコーディングを行っている。
バッキングはギターのみとシンプルな編成になっており、ジェーンの力強く厚みのある歌声が楽しめるバラード・ナンバーだ。

11曲目"Dancing in the Dark"は、1931年に作られたポピュラー・アメリカン・ソング。
作曲はアーサー・シュワルツ(Arthur Schwartz)、作詞はハワード・ディーツ(Howard Dietz)によって行われている。
ジャズ界では知名度の高い曲でチャーリー・パーカー(Charlie Parker)やデューク・エリントン(Duke Ellington)もカバー。
このアルバムのアレンジではミュージカル音楽的な側面が強く残っており、「ジャズ」というよりも「ミュージカル曲」として楽しんだほうがよいかもしれない。

アルバムのラストを飾るのは、誰もが一度は耳にしたことがあるであろう名曲"Over the Rainbow"
この名曲を書いたハロルド·アーレン(Harold Arlen)は生涯で500曲以上を手掛け、その中からジャズスタンダードとして愛されているものも多く存在する。
"Over the Rainbow"もその中のひとつで、むしろこの曲がジャズスタンダードだと言うことに驚く人のほうが多いかもしれない。
こちらもミュージカル曲としての要素が色濃く残っており、ミュージカル音楽を愛する方には是非ご視聴いただきたい楽曲だ。
1939年のミュージカル『オズの魔法使い』(The Wizard of Oz)で使用された歴史残るナンバー。

Taking a Chance on Love - Credit

ジェーン・モンハイト(Jane Monheit)- ボーカル
マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)- ボーカル
ロン・カーター(Ron Carter)- ベース
クリスチャン・マクブライド(Christian McBride)- ベース
オーランド・ル・フレミング(Orlando le Fleming)- ベース
ホメロ・ルバンボ(Romero Lubambo)- ギター
マイルス・オカザキ(Miles Okazaki)- ギター
ジェフリー・キーザー(Geoffrey Keezer)- ピアノ
マイケル・カナン(Michael Kanan)- ピアノ、アレンジャー
ロブ・マウンシー(Rob Mounsey)- ピアノ、アレンジャー
ジョエル・フラーム(Joel Frahm)- アルト、ソプラノ、テナーサックス
ドナルド・ハリソン(Donald Harrison) - アルトサックス
マイケル・デイヴィス(Michael Davis)- トロンボーン
ローレンス・フェルドマン(Lawrence Feldman)- サックス
ジム・ハインズ(Jim Hynes)- ホーン
ボブ・マラック(Bob Malach)- サックス
ロジャー・ローゼンバーグ(Roger Rosenberg)- サックス
アンディ・スニッツァー(Andy Snitzer)- サックス
ルー・ソロフ(Lew Soloff)- トランペット
デイビッド・テイラー(David Taylor)- トロンボーン
リック・モンタルバーノ(Rick Montalbano)- ドラム
ルイス・ナッシュ(Lewis Nash)- ドラム

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