1904年にニュージャージー州で生まれ、20歳代前半からプロとしてのキャリアを開始したカウント・ベイシー(Count Basie)。
50年以上に渡る活動期間の中で数多くの名盤・名曲を誕生させ、グラミー賞も9回受賞している伝説的ピアニスト兼バンドリーダーである。
今回紹介するのは、そんなカウント・ベイシーを代表する一枚、『エイプリル・イン・パリ』(April in Paris)だ。
レコーディングが行われたのは、1955年7月26日、そして1956年1月4~5日の計3日間。
レーベルはノーマン・グランツ(Norman Granz)が設立したヴァーヴ・レコード(Verve Records)からリリースされている。
ヴァーヴ・レコードは1955年の設立以来、オスカー・ピーターソン、ルイ・アームストロングを含むジャズ・レジェンド達の作品を数多く生み出しており、今作もその名盤のうちの一枚である。
『エイプリル・イン・パリ』(April in Paris)がリリースされたのは、1957年。
発表されてから現在に至るまで高い評価を獲得しており、ビッグバンドというジャンルを語る際には必ず話題に挙がるアルバムとして知られている。
その理由として挙げられるのは、やはり収録曲の素晴らしさが最も大きな要因ではないだろうか。
収録曲の殆どは現在でも世界中のビッグバンド楽団が演奏しており、これからビッグバンドに入団する方達も必聴の作品だ。
それでは、ここから『エイプリル・イン・パリ』(April in Paris)に収録された楽曲達を紹介していこう。
April in Paris - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | April in Paris | Vernon Duke, E.Y. "Yip" Harburg | 3:47 |
2. | Corner Pocket | Freddie Green | 5:15 |
3. | Didn't You? | Frank Foster | 4:43 |
4. | Sweetie Cakes | Ernest Brooks "Ernie" Wilkins | 3:58 |
5. | Magic | Frank Wess | 3:06 |
6. | Shiny Stockings | Frank Foster | 5:14 |
7. | What Am I Here For | Duke Ellington, Frankie Laine | 3:19 |
8. | Midgets | Joe Newman | 3:13 |
9. | Mambo Inn | Mario Bauzá, Edgar Melvin Sampson, Bobby Woodlen | 3:23 |
10. | Dinner with Friends | Neal Hefti | 3:05 |
Background & Reception
オープニングを飾るのは、アルバムのタイトル・トラックとなった”April in Paris”。
1932年に誕生した楽曲で、作詞作曲はヴァーノン・デューク(Vernon Duke)、イップ・ハーバーグ(Yip Harburg)の両名によって行われている。
元はブロードウェイ・ミュージカル『ウォーク・ア・リトル・ファスター』(Walk a Little Faster)のために作られた楽曲だが、カウント・ベイシー楽団が演奏したことにより世界中で知られるナンバーとなった。
ベイシーの軽快なピアノのイントロから始まり、それに続く滑らかなメロディーラインは、まさにパリの香り漂う優雅なサウンド。
トランペット奏者、サド・ジョーンズ(Thad Jones)が行う"Pop Goes the Weasel"のメロディーを含んだユーモアに溢れるソロも素晴らしい。
また、トロンボーン奏者であれば、ベニー・パウエル(Benny Powell)がブリッジで奏でる心地よいサウンドにも注目だ。
余談ではあるが、1974年には映画『ブレージングサドル』(Blazing Saddles)で使用するために今作とは異なるバージョンを収録しなおしているため、興味のある方は確認してみてほしい。
2曲目”Corner Pocket”は、ギタリストのフレディ・グリーン(Freddie Green)が作曲したメロディーが印象的なナンバー。
フレディが作曲した楽曲で最も有名な曲であり、楽譜の上を流れるようなメロディーラインが特徴だ。
こちらもトランペットが素晴らしく、ソロはサド・ジョーンズ 、ジョー・ニューマン(Joe Newman)の順で行っている。
1981年にはこの楽曲にジョン・ヘンドリックス(Jon Hendricks)が作詞を付けたものをマンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer)がカバー。
彼らはこのカバー曲により第24回グラミー賞「最優秀ジャズ・ヴォーカル・パフォーマンス賞・グループ部門」を受賞した。
"April in Paris"に続き、世界中のビッグバンド奏者が一度は演奏したことがあるであろう名曲。
フランク・フォスター(Frank Foster)が作曲した"Didn't You?"は、3曲目に収録。
フランクは1953年にカウント・ベイシー楽団に入団し、それ以降バンドに欠かせない存在として活躍したテナーサックス奏者だ。
作曲者としての能力も高く、"Down for the Count"、"Blues Backstage"、"Back to the Apple"などの名曲を生み出している。
この楽曲自体はあまり有名ではないものの、フランクの楽曲らしい艶のあるナンバーだ。
4曲目"Sweetie Cakes"は、アーニー・ウィルキンス(Ernie Wilkins)が作曲した楽曲。
アーニーはカウント・ベイシー楽団はもちろん、トミー・ドーシー(Tommy Dorsey)、ハリー・ジェイムス(Harry James)、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)らにも楽曲を提供している作曲者である。
ベイシーのピアノとホーンセクションの絡みが心地よいビッグバンド・チューン。
アップテンポな5曲目"Magic"は、マルチ・プレイヤーとして有名なフランク・ウェス(Frank Wess)が作曲したナンバー。
フランクは1953年からカウント・ベイシー楽団に加入し、退団する1964年まで活躍したミュージシャンだ。
テナーサックス奏者として入団しているが、後期はフルート奏者としても活躍。
特に1959~1964年には「ベスト・ジャズ・フルーティスト」にも選ばれるほど優れたプレイヤーである。
華やかなスウィング感に溢れたブルース調の楽曲だ。
フランク・フォスターが作曲した"Shiny Stockings"は、6曲目に収録。
軽快にスウィングしたリズムの上を流れる艶やかなメロディーが特徴の楽曲だ。
エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)が1963年に歌詞を付けて歌い始めて以降、ボーカル曲としても広く愛されることとなった。
プロアマ問わず世界中のビッグバンド楽団から演奏されている「名曲中の名曲」なので、まだ聴いたことのない方は是非試聴してみてほしい。
7曲目"What Am I Here For"は、デューク・エリントン(Duke Ellington)、フランキー・レイン(Frankie Laine)が1942年に作曲したミディアム・テンポの楽曲。
デューク自身は1965年にエラ・フィッツジェラルドをボーカルに迎えたバージョンもリリースしており、コンボ編成でもよく演奏されているナンバーだ。
ジョー・ニューマン(Joe Newman)が作曲を行った8曲目"Midgets"は、アップテンポでノリの良いスウィング・チューン。
注目はフランク・ウェスのフルート、そしてベイシーの軽快なピアノのサウンド。
シンプルな曲構成だからこそ、一人一人の実力を顕著に感じることができる楽曲だ。
本作唯一のラテン・ナンバーが9曲目に収録されている"Mambo Inn"。
タイトルが示すとおり、踊りだしたくなるリズムとメロディーが特徴の楽曲だ。
こちらもプロアマ問わず広く演奏されており、日本では熱帯JAZZ楽団のアルバム『ライブ・イン・ヨコハマ』(LIVE IN YOKOHAMA)にも収録している。
アルバムのラストを飾るのは、ビッグバンドのダイナミクスを存分に感じることのできる"Dinner with Friends"。
作曲は数多くの名曲をカウント・ベイシーに提供した男、ニール・ヘフティ(Neal Hefti)。
ニールの曲らしくキャッチーで艶のあるナンバーのため、アルバム内でも人気の高い楽曲だ。
日本では『人志松本のすべらない話』のオープニングに使われていたため、耳にしたことのある方も多いのではないだろうか。
"ビッグバンドらしい楽曲"を探している方には是非おすすめのナンバー。
April in Paris - Credit
カウント・ベイシー(Count Basie)- ピアノ
ウェンデル・カリー(Wendell Culley)- トランペット(Tracks 1-7 & 9-16)
ルーナルド・ジョーンズ(Reunald Jones)- トランペット(Tracks 1-7 & 9-16)
サド・ジョーンズ(Thad Jones)- トランペット(Tracks 1-7 & 9-16)
ジョー・ニューマン(Joe Newman)- トランペット(Tracks 1-7 & 9-16)
ヘンリー・コーカー(Henry Coker)- トロンボーン(Tracks 1-7 & 9-16)
ビル・ヒューズ(Bill Hughes)- トロンボーン(Tracks 1-7 & 9-16)
ベニー・パウエル(Benny Powell)- トロンボーン(Tracks 1-7 & 9-16)
マーシャル・ロイヤル(Marshall Royal)- アルトサックス、クラリネット(Tracks 1-7 & 9-16)
ビル・グラハム(Bill Graham)- アルトサックス(Tracks 1-7 & 9-16)
フランク・ウェス(Frank Wess)- アルトサックス、テナーサックス、フルート、クラリネット
フランク・フォスター(Frank Foster)- テナーサックス、クラリネット(Tracks 1-7 & 9-16)
チャーリー・フォークス(Charlie Fowlkes)- バリトンサックス、バスクラリネット(Tracks 1-7 & 9-16)
フレディ・グリーン(Freddie Green)- ギター
エディ・ジョーンズ(Eddie Jones)- ベース
ソニー・ペイン(Sonny Payne)- ドラム
ホセ・マングアル(Jose Mangual)- パーカッション(Track 9)
ウバルド・ニエト(Ubaldo Nieto)- パーカッション(Track 9)