『プリーズ・リクエスト』(We Get Requests)は、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)が1964年にリリースしたアルバムである。
レコーディングに参加したのは、1958年からトリオを組んでいるレイ・ブラウン(Ray Brown)、エド・シグペン(Ed Thigpen)。
オスカーはこのトリオで『ナイト・トレイン』(Night Train)、『カナダ組曲』(Canadiana Suite)、『オスカー・ピーターソン+ 1』(Oscar Peterson + 1)など数々の名盤を生み出している。
その中でも、ヴァーヴ・レコード(Verve Records)からリリースした『プリーズ・リクエスト』(We Get Requests)は、「歴史に残る名盤」として現在も広く愛されている。
アルバムの内容は、タイトルが示す通り”オーディエンスからリクエストを聴いて演奏したような、ジャズの定番曲”を多く収録。楽曲に派手なアレンジなどはなく、演奏時間も大半が3~4分と短めになっている。
ジャズ・アルバムは全員がソロを取ることが多く、どうしても楽曲が長くなりがちだが、このアルバムは違う。ソロはほぼオスカーのみであり、そのオスカーも1コーラス程度のソロのみなのだ。これは楽曲のメロディーを大切にしたゆえの結果だと思う。
オスカーのピアノは全曲でメロディーを大事に歌い上げており、聴き心地の良いスウィング感溢れる演奏を披露しているのだ。
キャッチーな楽曲も揃っているため、「ジャズをこれから聴き始めたい」という方にもおすすめできるアルバムとも言えるだろう。
それではジャズ界の歴史に残る名盤中の名盤『プリーズ・リクエスト』(We Get Requests)の楽曲達を紹介していこう。
We Get Requests - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Quiet Nights Of Quiet Stars (Corcovado) | Antonio Carlos Jobim | 2:45 |
2. | The Days of Wine and Roses | Henry Mancini, Johnny Mercer | 2:40 |
3. | My One and Only Love | Robert Mellin, Guy Wood | 5:06 |
4. | People | Bob Merrill, Jule Styne | 3:29 |
5. | Have You Met Miss Jones? | Lorenz Hart, Richard Rodgers | 4:10 |
6. | You Look Good to Me | Seymour Lefco, Clement Wells) | 4:49 |
7. | The Girl from Ipanema | Jobim, Vinicius de Moraes, Norman Gimbel) | 3:51 |
8. | D & E | John Lewis | 5:10 |
9. | Time and Again | Stuff Smith | 4:34 |
10. | Goodbye J.D. | Oscar Peterson | 2:35 |
1曲目に選ばれたのは”Corcovado”、英語表記では”Quiet nights of Quiet Stars”の名で愛されているボサノヴァ調の楽曲。
作曲を行ったのはブラジル出身のアントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)であり、カルロスは”The Girl From Ipanema”、”Wave”など数々の名曲を生み出している。
ブラジリアン・ミュージックはメロディーが印象的な楽曲が多いが、この”Corcovado”も例に漏れず耳に残るメロディーが特徴。
オスカーはこの弾むようなメロディーを活かしつつソロを展開しており、完璧に自分の楽曲として消化している。
2曲目“Days of Wine and Roses”は、ピアニストのみならず、全てのジャズ・ミュージシャンが聴くべきと言ってよいほどの完成度を誇る名演。約2分40秒とかなり短い演奏時間ながら、メロディーの聞かせ方、ソロの入り方などどこを切り取っても隙がない。僅か3分足らずでここまで感情を込めることができるミュージシャンは、世界でも数えるほどしかいないだろう。
1952年にガイ・ウッド(Guy Wood)によって作曲された楽曲が3曲目”My One and Only Love”。ジャズスタンダードとして長い間愛されており、ジャムセッションでもよくコールされる人気のバラードナンバーだ。
ここでもオスカーはメロディーを元にソロを組み立てており、原曲の美しいメロディーを大切に歌い上げている。
4曲目”People”は、ブロードウェイ・ミュージカル『ファニー・ガール』(Funny Girl)の主題歌として使用された楽曲。作曲はジュール・スタイン(Jule Styne)であの有名なクリスマス・ソング”Let it Snow”を作ったコンポーザーでもある。
こちらもメロディーが暖かく美しい楽曲であり、オスカーのピアノと絶妙にマッチしている。
ジャズスタンダートとして広く愛されている”Have You Met Miss Jones?”は、5曲目に収録。
一見地味な演奏だが、レイ・ブラウンとの絡みが素晴らしく、さすがのコンビネーションである。派手なプレイはないものの、”聞かせる”演奏がオスカーらしい。
6曲目”You Look Goot to Me”は、イントロのレイ・ブラウンの弓弾きとクラシック調のピアノが印象的な楽曲。この曲でのオスカーは、弾むような可愛らしいピアノをプレイ。ダイナミックな演奏だけでなく、キュートな演奏も熟せるオスカーならではの名演だ。
アントニオ・カルロス・ジョビン(Antonio Carlos Jobim)が作曲を行い、ジャズの定番中の定番となった”The Girl From Ipanema”は7曲目に並んでいる。
シンプルな演奏ではあるが、この3人には特別なアレンジなど必要ないらしい。それぞれの音が絶妙に絡み合い、心地よいサウンドを響かせている。
8曲目にはジャズ・ピアニスト、ジョン・ルイス(John Lewis)が作曲した”D & E”を収録。
ジョンはモダン・ジャズ・カルテット(Modern Jazz Quartet)と呼ばれるグループの一員であり、レイ・ブラウンはこのグループでベースを弾いた経験を持つ。オスカーも先輩ジャズ・ピアニストの楽曲だからか、良い意味で緊張感のある演奏をしていることが分かる。
9曲目“Time and Again”は、黒人バイオリニストであるスタッフ・スミス(Stuff Smith)が作曲したバラード・ナンバー。それぞれのメンバーがしっとりとした雰囲気づくりを心掛けており、我々が想像する”ジャズ・バーで流れそうな”音楽に仕上がっている。
アルバムの最後を飾るのは、唯一のオリジナルソングである”Goodbye D.J”。
この曲はオスカーがプロデューサー、ジム・デイビス(Jim Davis)へ感謝の意を込めて作曲したそうだ。
楽曲自体はアップテンポでノリが良く、最高にスウィングしたジャズ・ナンバー。
アルバムも最もオスカーの超絶技巧が楽しめるため、是非一度は視聴していただきたい。
We Get Requests - Credit
オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)- ピアノ
レイ・ブラウン(Ray Brown)- ベース
エド・シグペン(Ed Thigpen)- ドラム