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ギター片手に世界を魅了する、英国フォーク・シンガーのデビュー・アルバム『プラス』(+ / Plus)- エド・シーラン(Ed Sheeran)

『プラス』(Plus)- エド・シーラン(Ed Sheeran)

『プラス』(+ / Plus)は、エド・シーラン(Ed Sheeran)が2011年にリリースしたアルバムである。
"The A Team"、"You Need Me, I Don't Need You"、"Lego House"など数々の名曲が含まれた本アルバムは、初週で102,000枚の売上枚数を記録。
アメリカのビルボードチャートでもトップ10入りを果たし、トータルセールス枚数は400万枚を突破している「フォーク・ポップの名盤」だ。

鮮烈なデビューを果たして以降、世界有数のシンガー兼ギタリストとして数えられているエド・シーラン(Ed Sheeran)。
彼の知名度を一気に世界へ広めるきっかけとなった本アルバム紹介の前に、彼の生い立ちについて簡単に紹介しておこう。

エド・シーラン(Ed Sheeran)は1991年2月17日、イングランド北部にあるハリファクスで生まれている。
エドの父はカートライト・ホールで学芸員として、そして母はマンチェスター市立美術館に勤務。
両親の出張でロンドンを訪れる機会が多かったエドは、ポップ、ソウル、フォーク、ジャズなど様々なジャンルの音楽をライブを現地で楽しんだ。
また、車中では父が好んで聞いていたボブ・ディラン、エリック・クラプトンなどが流れていそうだ。
エドのアコースティックギターの感性は、こういった幼少期の体験からきているのかもしれない。
(ちなみにエドにはマシューという1歳上の兄がおり、現在は作曲家として活動中。家族そろって芸術一家へと成長している。)

そういった環境もあってか、エドが音楽を始めたのはとても早かった。
4歳で地元の教会の合唱団で歌を歌い始め、同じころにギターを開始。
エドは当時の様子を以下のように語っている。

「ギターが僕に音楽と歌を歌うことの楽しさを教えてくれたんだ。」

彼は幼少期に行った手術が原因により、弱視、そして人前で話そうとすると口が固まり声が発せなくなるという病気を抱えていた。
また視力の関係から大きな眼鏡も掛けており、小学生時代はクラスメイトからバカにされることもあったという。

なんとか人前で話せるようになるため、両親と共にスピーチセラピーにも通ったものの、改善が見られなかったエド・シーラン。
残りの人生もこのまま終わってしまうのかと不安だった彼を救ったのは、父が買ってきたエミネム(Eminem)のレコードだった。
エドはエミネムの高速ラップに感動し、10歳になるまでにはこれを完コピできるまでに成長。
また、11歳からはバックステージで英国人歌手ダミアン・ライス(Damien Rice)と話をしたことがきっかけで、作曲も行うようになった。
この二つが大きなきっかけとなり、エドはスピーチ問題を克服。
ライブも頻繁に行うようになり、多い時には週に12回もの公演をこなすほど人前に立つことに慣れたそうだ。

エドはミルズ・ハイ・スクールに入学し、この間も精力的に活動。
高校のレポートではエドを「ナチュラル・パフォーマー」として評価しており、クラスメイトの殆どが彼を「有名になるだろう」と予想していた。
この時点で既に大物の雰囲気を醸し出していたのだろうか。
彼らの予想は数年後に現実のものとなる。

2008年に入ると、エドはロンドンへ移住し、本格的に音楽活動を開始。
しかし、都会での生活は厳しく、家賃が払えなかった彼は路上生活を強いられる。知人の家や地下鉄、時には野外で夜を過ごさなければならない夜もあったそうだ。

それでも精力的にライブをこなし、2009年には300回以上のライブを行うなど、着実に実力をつけていったエド。
大きな転機となったのは、ソーシャルメディアが盛んになった2010年である。
いち早くこのツールに目を付けたエドは、自身のビデオや楽曲を投稿。
これがラップ好きや彼の才能を見抜いた人達の目に留まることになり、イギリス国内外からも注目を集めるようになった。

そして同年、エドは住む場所も確保せぬままLAへ移動。
作曲したナンバーをテレビやラジオを送り、演奏場所を探し求めた。
すると、その中のひとつのラジオ局が彼に興味を持ち、エドにステージを用意。
ここで彼は客席からスタンディングオベーションを浴びるほど素晴らしいパフォーマンスを行った。
このラジオ局を運営していたジェイミー・フォックス(Jamie Foxx)もエドに興味を持ち、自身が所有していたスタジオと住居を提供。
暫くの間、エドは演奏活動を行いながらここで生活をすることとなった。

翌年、エドはイギリスへ戻り、2011年1月にEPアルバム『No.5コラボレーション・プロジェクト』( No. 5 Collaborations Project)をリリース。
これは大手メジャーレベールと契約することを目的として作成されたEPだったそうだ。
全くプロモーション等を行っていないのにもかかわらず、この作品は初週で7000枚の売上を達成。
結果、エドは見事にアサイラム・レコード(Asylum Records)との契約を勝ち取り、遂にフル・アルバムの制作に取り掛かることになった。

そして遂に2011年9月9日、エドはデビュー・アルバムとなる『プラス』(+ / Plus)をリリース。
初週で102,000枚を売り上げ、同年までに791,000枚のセールス枚数を記録。
現在は400万枚以上の出荷枚数を突破しており、「2010年代のおいて、イギリス国内で9番目に売れたアルバム」として歴史に名を刻んでいる。

ここからは、素晴らしい名曲達がズラリとならんだ『プラス』(+ / Plus)の楽曲達を紹介していこう。

Plus - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.The A TeamEd Sheeran4:18
2.DrunkEd Sheeran, Jake Gosling3:20
3.U.N.I.Ed Sheeran, Jake Gosling3:48
4.Grade 8Ed Sheeran, Jake Gosling, Robert Conlon, Charlie Hugall2:59
5.Wake Me UpEd Sheeran, Jake Gosling3:49
6.Small BumpEd Sheeran4:19
7.ThisEd Sheeran, Gordon Mills Jr.3:15
8.The CityEd Sheeran, Jake Gosling3:54
9.Lego HouseEd Sheeran, Jake Gosling, Chris Leonard3:05
10.You Need Me, I Don't Need YouEd Sheeran3:40
11.Kiss MeEd Sheeran, Justin Franks, Julie Frost4:40
12.Give Me LoveEd Sheeran, Jake Gosling, Chris Leonard8:46

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、エド・シラーンの名を世界へ広めるきっかけとなった”The A Team”
この曲はエドが18歳の時、ホームレスシェルターで演奏を行った際に書かれたものだ。
歌詞の中に登場するエンジェル(Angel)とは、このシェルターで話しをした実際に存在する人物である。
タイトルの意味は、ヘロインやコカインなどのAクラスに分類される薬物に依存している人々のことを差す。
リードシングルとしてリリースされており、売り上げ枚数は250万枚以上。
この楽曲をきっかけに『プラス』(+ / Plus)を購入したファンの方も多いだろう。
美しいメロディーと虚無感が見事に表現されたフォークバラードソングだ。

2曲目“Drunk”は、暖かい雰囲気のあるポップソング。
明るいメロディーに対し、歌詞は失恋の悲しさからお酒に逃げる男性を歌っている。
作曲には英国出身のジェイク・ゴスリング(Jake Gosling)も参加。
ジェイクはレディー・ガガ(Lady Gaga)、ワン・ダイレクション(One Direction)などもプロデュースしている大物アーティストだ。
この楽曲のミュージックビデオには猫が登場しており、エド自身も大の猫好きとして知られている。
(自身のメインギターであるマーティンのアコースティック・ギターにも、猫の肉球シールを張り付けているほど)

エドのラップと心地よいバッキングが特徴の"U.N.I."は、3曲目に収録。
作詞作曲はエドに加え、2曲目と同じくジェイク・ゴスリングが参加している。
メロディーも美しく、“Drunk”とは違った暖かさのあるフォークポップソングだ。

4曲目"Grade 8"は、トゥルー・タイガー(True Tiger)の二人が作曲に参加したマイナー調のラップ・ソング。
ここではアコースティックギターのサウンドは控えめとなっており、リズムが強調されたヒップホップ色の強い楽曲に仕上がっている。
ヒップホップが苦手な人にとっても、エドのサウンドはマイルドなので聴きやすいと感じる人が多いだろう。

バッキングがほぼピアノのみで構成された5曲目"Wake Me Up"は、ボーカルが強調されたバラード曲。
エドが爆発的に成功した理由のひとつとして、ラップだけでなくこういった美しいバラード・ナンバーも歌いこなせるところにある。
同じくイギリス出身のヴァン・モリソン(Van Morrison)を彷彿とさせるナンバーと紹介されたこともある楽曲だ。

6曲目"Small Bump"は、エドが親友のために書いたフォーク・ナンバー。
5番目にシングルとしてリリースもされており、トータルセールス枚数は200万枚を突破している。
ライブの際にルーパーとアコギのみでバッキングを構築することが多いエド・シーラン。
"Small Bump"は、その手法がピッタリとハマるトラック構成の楽曲でもある。

Gordon Mills Jr.(ゴードン・ミルズ・ジュニア)が作曲に参加した"This"は、7曲目に収録。
本アルバムで最も弾き語りのスタイルに近く、フォーク・サウンドを好む方には是非おすすめの楽曲だ。
ボーカルばかりに耳がいきがちだが、エドの暖かく心地よいギターのサウンドにも注目してほしい。

8曲目"The City"では、エドがホームレスだった時のことを歌ったラップ・ソング。
辛い状況ではあったのにもかかわらず、歌詞の所々に強さを感じられる楽曲だ。
作詞作曲はエド・シーラン、ジェイク・ゴスリングの2人。

暖かく美しいメロディーが印象的な"Lego House"は、9曲目に収録。
セカンドシングルとして発表され、250万枚以上を売り上げた人気のポップソングだ。
『プラス』(+ / Plus)を代表する楽曲のひとつといってよいだろう。
この曲のミュージックビデオには、ハリーポッターのロン役を演じたルパート・グリント(Rupert Grint)が登場している。
彼が抜擢された理由は、「2人の容姿が似ている」からだそうだ。

“The A Team”に続いて人気の高いナンバーが、10曲目”You Need Me, I Don't Need You”
エドのラップを楽しむのにもってこいの、ノリのよい楽曲に仕上がっている。
CD音源では様々なトラックが追加されているが、ライブでのアコギ、ルーパーを使用したパフォーマンスは圧巻の一言。
「ラップ」と「ギター」は"エド・シーランの代名詞"とも呼べる組み合わせになっているが、それを決定づけた楽曲が”You Need Me, I Don't Need You”だ。

11曲目"Kiss Me"も、本アルバムらしい暖かさのあるバラード調の楽曲。
"Wake Me Up"と同じく、こちらもヴァン・モリソン(Van Morrison)のナンバーに近い雰囲気を持っている。
作曲にはジャスティン・フランクス(Justin Franks)、ジュリー・フロスト(Julie Frost)の両名も参加。

アルバムのラストを飾る”Give Me Love”は、6枚目にシングルカットされたフォーク・バラード。
単体での売り上げ枚数は300万枚を突破しており、『プラス』(+ / Plus)を代表する楽曲のひとつでもある。
ミュージックビデオは”Lego House”、 "You Need Me, I Don't Need You"も担当したエイミル・ナヴァ(Emil Nava)が作成。
またアルバムバージョンのみではあるが、この曲の最後にはエドが歌うスコットランド民謡”The Parting Glass”を聴くことができる。

Plus - Credit

エド・シーラン(Ed Sheeran)- ボーカル、アコースティックギター、エレキギター(Track  1, 2, 4, 6, 8-11, 14)ビートボックス(8, 10)、ハンドクラップ(12)、パーカッション(10)、ピアノ(5, 10)

ジェイク・ゴスリング(Jake Gosling)- バックボーカル(Track 12)、ドラム(10)、ハンドクラップ(12)、キーボード(2, 3, 6, 8, 14)、ピアノ(1, 4, 9)、プログラミング(1, 2, 4, 6, 8-10, 12-16)、ストリングスアレンジメント(12)
クリス・レオナルド(Chris Leonard)- アコースティックギター(Tracks 3, 4, 9, 12)、バックボーカル(12)、ベース(3, 9)、エレキギター(3-5, 7, 15)、ハンドクラップ(12)
レドラ・チャップマン(Anna Leddra Chapman)- バックボーカル(Track 3)
ルイザ・フラー(Louisa Fuller)- バイオリン(Track 12)
トム・グリーンウッド(Tom Greenwood)- ピアノ(Track 10)
サリー・ハーバード(Sally Herbert)- ストリングスアレンジメント(Track 12)
ベン・ホーリングスワース(Ben Hollingsworth)- ドラム(Track 10)
チャーリー・ヒューガール(Charlie Hugall)- ドラム&パーカッション(Track 10)
オリー・ラングフォード(Oli Langford)- バイオリン(Track 12)
ジョン・メトカーフ(John Metcalfe)- ヴィオラ(Track 12)
クリス・ウォーシー(Chris Worsey)- チェロ(Track 12)

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