『Come Away with Me』は、ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)が2002年2月にリリースしたアルバムである。
アルバム解説の前に、まずはノラ・ジョーンズの略歴を紹介しておこう。
ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)は、1979年3月30日生まれの歌手兼ピアニスト。
テキサス州のグレープバインで生まれ育ち、7歳の頃からボーカル、ピアノレッスンを始める。
学生時代からジャズに関心があり、ビル・エヴァンス(Bill Evans)、ビリー・ホリデイ(Billie Holiday)を好んで聞いていた。
1996年、ノラはアメリカ合衆国の音楽雑誌であるダウン・ビートが主催のコンペティションにて「最優秀ジャズボーカリスト賞」を受賞。
その翌年にも連続で同じ賞を受賞し、徐々に頭角を現し始める。
高校卒業後、ノラは北テキサス大学へ入学。
ジャズピアノと声楽を専攻し、ジャズへの理解を深めていく。
後にコンビを組むことになるジェシー・ハリス(Jesse Harris)とは、大学のバンドを通して知り合ったようだ。
高校卒業後、北テキサス大学に入学し、ジャズ・ピアノを専攻。
大学3年の夏、ニューヨークのマンハッタンに旅行。
1か月の予定だったが、ここの音楽に刺激されたノラは、大学へ戻らずニューヨークで音楽活動を始める。
それからすぐにソングライターのジェシー・ハリス(Jesse Harris)、ベースのリー・アレクサンダー(Lee Alexander)、ドラムスのドン・リーザー(Dan Rieser)とバンドを結成。
ノラはボーカルとピアノを担当した。
2000年10月、彼らはバンドのデモ音源を作成するため、ブルーノートでレコーディングを行う。
そしてこれを聞いたブルース・ランドヴァル(Bruce Lundvall)が、ノラの素質を見抜き、2001年1月、ノラはブルーノートと契約することとなった。
※この音源は『ファースト・セッションズ』(First Sessions)としてリリースされており、"Don't Know Why"や"Come Away with Me"も収録されている。
2002年2月、ここで登場するのが、ノラ・ジョーンズのデビュー・アルバム『Come Away With Me 』である。
発売当時は大きな話題にはならず、同月の全米アルバム・チャートでは139位にランクイン。
しかし、その後に行ったツアーやローリングストーン誌の批評により、徐々に売上枚数が上昇。
同年8月には100万枚を突破し、アルバム発表から約1年後の2003年1月に全米アルバム・チャート1位を獲得することとなった。
2003年2月23日に行われた第45回グラミー賞は、ノラ・ジョーンズのための授賞式といっても過言ではないだろう。
まず、デビュー・アルバムとなった『Come Away With Me 』が「最優秀アルバム賞」、「最優秀ポップ・ヴォーカル・アルバム賞」「最優秀録音賞」の3部門を受賞。
そしてノラ・ジョーンズ自身が「最優秀新人賞」、収録曲である"Don't Know Why"が「最優秀レコード賞」「最優秀楽曲賞」「最優秀女性ポップ・ヴォーカル・パフォーマンス賞」を獲得。
新人ながら、グラミー賞8部門にノミネートされ、全て受賞するというこの年のグラミー賞の話題をさらうことになった。
『Come Away With Me 』は、グラミー賞の翌週だけで60万枚以上の売上枚数を突破。
その後もコンスタントに記録を伸ばしていき、2005年にはアメリカ国内だけで1,000万枚以上、2016年には全世界で2,700万枚を売り上げる偉業を達成した。
これにより、本作は「史上一番売れたアルバムTOP50」にもランクインしている。
さて、ここからはアルバムの内容について紹介していこう。
本作は発売当初、違う意味で話題となった。
それはこの作品がジャズ専門レーベルの名門ブルノート・レコード(Blue Note Records)からリリースされたのにも関わらず、ジャズ・アルバムではなかったからだ。
敢えてジャンル分けをするなら「ポップ・ミュージック」であり、その証拠にグラミー・アワードでも「最優秀ポップ・ボーカル・アルバム賞」を受賞している。
しかし『Come Away With Me 』はポップ・ソングを軸に、ジャズやブルース、フォーク、カントリーの要素も含んだ幅の広い作品なのだ。
それ故に多方面の音楽ファンから愛され、ここまで爆発的に売り上げを伸ばす結果となったと認識している。
プロデューサーとしてアリフ・マーディン(Arif Mardin)が参加していることも忘れてはならない。
アリフはダニー・ハサウェイ(Donny Hathaway)、チャカ・カーン(Chaka Khan)、ジョージ・ベンソン(George Benson)、ダイアナ・ロス(Diana Ross)の作品を世に送り出してきたレジェンドの一人。
ノラ・ジョーンズ自身もアルバム収録の際は緊張していたそうだが、「思いのほか気さくで、たくさんのアイデアを出してくれた」と語っている。
ここから先は、全14曲それぞれの楽曲を解説していこう。
Come Away With Me - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Don't Know Why | Jesse Harris | 3:06 |
2. | Seven Years | Lee Alexander | 2:25 |
3. | Cold Cold Heart | Hank Williams | 3:38 |
4. | Feelin' the Same Way | Lee Alexander | 2:55 |
5. | Come Away with Me | Norah Jones | 3:18 |
6. | Shoot the Moon | Jesse Harris | 3:57 |
7. | Turn Me On | John D. Loudermilk | 2:33 |
8. | Lonestar | Lee Alexander | 3:05 |
9. | I've Got to See You Again | Jesse Harris | 4:13 |
10. | Painter Song | Lee Alexander, JC Hopkins | 2:41 |
11. | One Flight Down | Jesse Harris | 3:03 |
12. | Nightingale | Norah Jones | 4:11 |
13. | The Long Day Is Over | Norah Jones, Jesse Harris | 2:44 |
14. | The Nearness of You | Hoagy Carmichae, Ned Washington | 3:09 |
Background & Reception
アルバムのオープニングを飾るのは、バンドメンバーのジェシー・ハリス(Jesse Harris)が作曲した"Don't Know Why"。
ノラ・ジョーンズの曲として認識している人が多いだろうが、オリジナルはジェシーが1999年にリリースした『Jesse Harris & the Ferdinandos』に収録されている。
下記にリンクを貼り付けておくので、興味のある方は視聴してみてほしい。
ポップ・ソングではあるが、ジャズの要素が効果的に使われており、美しいメロディーラインとイントロが特徴である。
2003年に最も愛された楽曲と言っても過言ではなく、2003年のグラミー賞では「最優秀楽曲賞」、「最優秀レコード賞」、「最優秀女性ポップボーカルパフォーマンス」の3部門を受賞。
本作のみならず、ノラ・ジョーンズを代表する楽曲と言ってよいだろう。
シングルとしてもリリースされており、世界での売り上げ枚数は200万枚を突破。
レコーディングにはギタリストとしてジェシー・ハリス本人が参加している。
次の"Seven Years"は、ベーシストのリー・アレクサンダー(Lee Alexander)が作曲したナンバー。
暖かみのある楽曲で、アコースティックギターがフューチャーされている。
ギターを担当しているのは、カントリーからフュージョンまで弾きこなすカナダ出身のギタリスト、ケビン・ブレイト(Kevin Breit)。
ハンク・ウィリアムズ(Hank Williams)が1951年にリリースした楽曲のカバー曲"Cold Cold Heart"は、3曲目に収録。
原曲はカントリーだが、このアレンジではジャズの要素が加えられており、ムーディーなサウンドを楽しむことができる。
ここではボーカルだけでなく、ピアノもノラ・ジョーンズが担当。
4曲目"Feelin' the Same Way"は、ポップとカントリーの要素を持つミディアム・テンポの楽曲。
"Seven Years"と同じく、リー・アレクサンダーが作曲しており、ギタリストとしてケビン・ブレイトが参加している。
暖かみのあるウーリッツァー・エレクトリック・ピアノのサウンドが効果的に使われている点にも注目してほしい。
スローバラード調の5曲目"Come Away with Me"は、ノラ・ジョーンズ本人による作詞・作曲。
"Don't Know Why"に次ぎ人気が高く、アルバムのタイトル・ナンバーとしても愛されている。
シングルとしてもリリースされており、アメリカ国内だけで200万枚以上の売り上げを記録。
ギターソロはジャズギタリストのアダム・レビー(Adam Levy)によるものだ。
6曲目"Shoot the Moon"は、"Don't Know Why"を作曲したジェシー・ハリス(Jesse Harris)が生んだチューン。
サウンドが美しく、優しく流れるようなメロディーラインが特徴。
サム・イエール(Sam Yahel)が奏でるハモンドオルガンの音色も楽曲にマッチしている。
7曲目に収録されている"Turn Me On"は、本作3曲目となるカバー曲。
ジョン・D・ラウダーミルク(John D. Loudermilk)が1961年に作曲したものがオリジナルとなっており、カントリー要素の強い楽曲となっている。
ゆったりと歌い上げるノラの歌声を好む方にお勧めのナンバーだ。
リー・アレクサンダー(Lee Alexander)が作曲した8曲目"Lonestar"は、ミッドテンポのギターが心地よい楽曲。
リーが作曲したものはアコースティックギターが効果的に使われていることが多く、この"Lonestar"も全体を通してギターがフューチャーされている。
彼の生楽器やカントリーに対する愛が伝わってくるようなナンバーだ。
9曲目"I've Got To See You Again"は、これまでとは違う雰囲気を持つマイナー・チューン。
古き良き時代を思わせるサウンドで構成されており、ジェニー・シェインマン(Jenny Scheinman)がバイオリニストとして参加。
ブライアン・ブレイド(Brian Blade)のパーカッションも、楽曲に良いテイストを加えている。
10曲目"Painter Song"は、リー・アレクサンダー(Lee Alexander)に加え、J・C・ホプキンズ(JC Hopkins)が作曲に参加。
"Lonestar"ではハーモニウムで参加していたロブ・バーガー(Rob Burger)だが、ここではアコーディオンをプレイ。
ノスタルジックな雰囲気が演出されており、注目されることは少ないものの完成度の高い楽曲だ。
美しく暖かいサウンドが特徴の"One Flight Down"は、11曲目に収録。
日本好みのキャッチーなメロディーラインを持ち、ハモンドオルガンやバイオリンの音色も非常に心地がよい。
もちろん、ノラ・ジョーンズのピアノも負けず劣らず素晴らしいのは、言うまでもないだろう。
ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)自身が作詞・作曲した12曲目"Nightingale"は、ギターとピアノが美しく交わるナンバー。
毎回素晴らしいプレイを聞かせてくれるアダム・レビーだが、ここでも広がりのあるギターソロを披露。
また、ブライアン・ブレイドのタイトなドラミングもこの曲に不可欠な要素だろう。
13曲目"The Long Day Is Over"は、このアルバム唯一となるノラ・ジョーンズとジェシー・ハリスの共作。
ゆったりしたバラード調のナンバーで、ノラのボーカルが堪能できる作品に仕上がっている。
ドラムはこの曲のみジャズドラマーとして有名なケニー・ウォルセン(Kenny Wollesen)が参加。
アルバムのラストを飾るのは、1940年にホーギー・カーマイケル(Hoagy Carmichael)、ネッド・ワシントン(Ned Washington)が作詞作曲を行った"The Nearness of You"。
グレン・ミラー(Glenn Miller)のレコーディングがきっかけで有名になり、邦題では「あなたのそばに」のタイトルで愛されている楽曲でもある。
この曲の最も有名な録音は、1956年のエラ・フィッツジェラルド、ルイ・アームストロング、オスカー・ピーターソン、レイ・ブラウン、ハーブ・エリス、バディ・リッチの演奏だろう。
※アルバム『Ella and Louis』に収録されているため、興味のある方は是非チェックしてみてほしい
ノラ・ジョーンズのピアノ弾き語りスタイルで演奏されており、アルバム内で最もジャズの要素を色濃く感じるナンバー。
Come Away with Me - Credit
ノラ・ジョーンズ(Norah Jones)- ボーカル、ピアノ(Tracks 2, 4, 8を除く)、ウーリッツァー(Track 4)
サム・イエール(Sam Yahel)- ハモンドオルガン(Tracks 6, 7, 11)
ロブ・バーガー(Rob Burger)- ポンプオルガン(Track 8)、アコーディオン(Track 10)
ジェシー・ハリス(Jesse Harris)- アコースティックギター(Tracks 1, 5, 6, 9, 11–13)、エレキギター(Track 1)
アダム・レビー(Adam Levy)- エレキギター(Tracks 3, 5, 6, 9, 11, 12)、アコースティックギター(Tracks 8, 10)
ケビン・ブレイト(Kevin Breit)- アコースティックギター(Tracks 2, 4)、ナショナルギター(Track 2)、エレキギター(Tracks 4, 13)
アダム・ロジャース(Adam Rogers)- ギター(Track 7)
トニー・シェル(Tony Scherr)- スライドギター、アコースティックギター(Track 8)
ビル・フリゼール(Bill Frisell)- エレキギター(Track 13)
ジェニー・シェインマン(Jenny Scheinman)- バイオリン(Tracks 9, 11)
リー・アレキサンダー(Lee Alexander)- ベース(Track 14を除く)
ブライアン・ブレイド(Brian Blade)- ドラム(Tracks 2, 4, 6, 8–10, 12)、パーカッション(Tracks 2, 9)
ダン・リーサー(Dan Rieser)- ドラム(Tracks 1, 5, 7, 11)
ケニー・ウォルセン(Kenny Wollesen)- ドラム(Track 13)