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マイケルの最高傑作。800万枚を売り上げ、グラミー賞を受賞した名盤『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)- マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)

crazy love album マイケルブーブレ

『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)は、カナダ出身のシンガー、マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)が2009年にリリースしたアルバムである。
発表から僅か3日で132,000枚を売り上げ、7か国の音楽チャートにて1位を獲得。勢いそのままに世界各国でセールス枚数を伸ばし続け、トータルセールス枚数は2021年時点で800万枚を突破した。
現在10枚のアルバムをリリースしているマイケルだが、その中でも『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)は「マイケルの最高傑作」と呼ばれるアルバムである。

本作のレコーディングに費やされた期間は、約6か月。場所はロサンゼルス、ニューヨーク、バンクーバーの3か所で行われた。
プロデューサーは前作同様デイヴィッド・フォスター(David Foster)、ボブ・ロック(Bob Rock)の両名である。
そして今作では、セリーヌ・ディオン、マイケル・ジャクソンとも共作歴のあるフンベルト・ガティカ(Humberto Gatica)も参加。
プロデューサーだけで見ても、非常に豪華な面々が揃うこととなった。

そんな素晴らしいプロデューサー達を迎えた6枚目のアルバム、『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)。
マイケルはこのアルバムの制作にあたり、以下のコメントを残している。

「レコーディングが始まってすぐに"今作はこれまでのアルバムとは違うものになる"って分かったんだ。これまでよりも更に深く、そして中身のある作品にするよう努力した。"真実"を歌うことにフォーカスし、その違いはみんなにも分かると思う。
僕が好きだったアイドル達がやっていた歌い方やレコーディングの仕方を参考にして、よりオーガニックなアルバムになるようにも意識したよ。まるで僕と同じスタジオで音楽を聴いているような作品に仕上がっていると思うね。
録音に多くのミュージシャンが参加しているけど、僕らはサウンドは交わって一つになっていた。完璧すぎず、それが最高に心地よかったんだ。」

6枚目のアルバムとなった『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)だが、スタイルとしてはこれまでの作品と大きくは変わっていない。
ただひたすらにマイケルがジャズ・スタンダードや、人気のあるポップソングを歌い上げているアルバムとなっている。
ここまで人気が出た理由としては「アレンジの素晴らしさ」と「キャッチーなキラーチューン」が含まれていることが大きな理由だろう。
"Georgia on My Mind""Heartache Tonight"、特に"Cry Me a River"のアレンジはマイケルの楽曲の中でも最高の出来栄えと言っても過言ではない。
キラーチューンで言えば、後に妻となるルイサナ・ラピラト(Luisana Lopilato)のために書き上げた"Haven't Met You Yet""Hold On"などがそれにあてはまる。2曲共にキャッチーさの中に深みのある、マイケルらしい楽曲だ。

また、『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)はイギリスでの人気が高いことも忘れてはならない。
UKビルボード・チャートではもちろん1位を獲得しており、UK国内のみの売上で300万枚を記録。リリース当初は毎日のように"Cry Me a River""Haven't Met You Yet"がテレビで流れていた。
イギリス人に愛された理由はいくつか考えられるが、著者が考える大きな理由としては、このアルバムが持つ「気品」「優雅」といった要素が、彼らの心に響いたのだと思う。
今作に収録されている楽曲達は「古き良きサウンドとアレンジ」が多く、それがイギリス、もしくはヨーロッパで高く評価されたのでは大きな要因ではないだろうか。
マイケル自身、このアルバムを製作しているあたりは名実共に油の乗っていた時期でもあったため、それも理由の一つと言えるだろう。

結果、この『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)は800万枚という驚異的な売り上げを記録し、第53回グラミー賞では「ベスト・トラディショナル・ポップ・ボーカル・アルバム」を受賞。
マイケル・ぶーブルのアルバム中、2番目に大きな成功を収めたアルバムとなった。(1番目は1,200万枚を売り上げた『クリスマス』(Christmas)である)

Crazy Love - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Cry Me a RiverArthur Hamilton4:14
2.All of MeGerald Marks, Seymour Simons3:07
3.Georgia on My MindHoagy Carmichael, Stuart Gorrell3:08
4.Crazy LoveVan Morrison3:31
5.Haven't Met You YetMichael Bublé, Alan Chang, Amy Foster, Connor, Makropoulos4:05
6.All I Do Is Dream of YouNacio Herb Brown, Arthur Freed2:32
7.Hold OnMichael Bublé, Alan Chang, Amy Foster4:05
8.Heartache TonightDon Henley, Glenn Frey, Bob Seger, J. D. Souther3:52
9.You're Nobody till Somebody Loves YouRuss Morgan, Larry Stock, James Cavanaugh3:07
10.Baby (You've Got What It Takes)Clyde Otis, Murray Stein3:20
11.At This MomentBilly Vera4:35
12.Stardust (featuring Naturally 7)Hoagy Carmichael, Mitchell Parish3:13
13.Whatever It Takes (featuring Ron Sexsmith)Ron Sexsmith4:35

Background & Reception

オープニングを飾るのは、1953年にアーサー・ハミルトン(Arthur Hamilton)が作曲した"Cry Me A River"
現在ではジャズスタンダードとして広く愛されており、特にボーカリストが好む楽曲である。
『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)がイギリスで売上を伸ばしたのは、この曲のおかげといっても過言ではないだろう。
リリース当初、UK国内では昼夜問わずラジオやテレビでこの曲がプレイされており、多くの人を熱狂させていた。
ストリングスを基調としたアレンジが非常に素晴らしく、個人的にはこれまでに聞いたどの"Cry Me A River"よりも聞いていて心地がよい。
ジャズ好きでなくとも一度は聞いていただきたいナンバーだ。

2曲目"All Of Me"は、1931年にジェラルド・マークス(Gerald Marks)とセイモア・シモンズ(Seymour Simons)によって作曲された楽曲。
こちらもジャズスタンダードとして愛されており、毎日どこかのジャズクラブで演奏されているほど人気の高い曲である。
ビッグバンドを基調とした、こちらも"Cry Me A River"と同様にシンプルで上品なアレンジが特徴。
この曲を聴けばまるで自分がどこかのジャズバーにでもいるような雰囲気を味わうこともできる。
マイケルのリスペクトするフランク・シナトラ(Frank Sinatra)もカバーした名曲。

3曲目に並んだのは、ブルージーなメロディーが特徴の"Georgia On My Mind"
作詞・作曲はステュアート・ゴレル(Stuart Gorrell)、ホーギー・カーマイケル(Hoagy Carmichael)で1930年に誕生した楽曲だ。
昔から愛されていた曲ではあったが、世界中に知られたのは1960年にレイ・チャールズ(Ray Charles)がカバーしてから。
1979年にはジョージア州歌にも選ばれており、第26回アトランタ・オリンピック開会式ではチャールズ自身が出演し、この楽曲を歌唱している。
ストリングスのアレンジが非常に美しく、上品で優雅なアレンジが施されているのが特徴。

4曲目"Crazy Love"は、タイトルナンバーにも選ばれたバラード調の楽曲。
原曲は1970年にヴァン・モリソン(Van Morrison)によって作詞作曲されている。
これまではゴージャスにアレンジした楽曲が多かったが、このナンバーでは楽器隊のサウンドは抑えめ。
その代わり、よりマイケルの美しい歌声が堪能できる楽曲とも言えるだろう。
この曲もレイ・チャールズやロッド・スチュアート(Rod" Stewart)がカバーしている名曲である。

ブーブレとアラン・チャン(Alan Chang)の共作した"Haven't Met You Yet"は、今作屈指の名曲。
マイケルが一目惚れしたアルゼンチンの女優、ルイサナ・ラピラト(Luisana Lopilato)の為に書き上げ、この曲のミュージック・ビデオで共演。その後、二人は見事ゴールインしている。
アルバム内で最初にシングルカットされた曲で、各国の音楽チャートにランクイン。『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)自体の売上にも大きく貢献した楽曲だ。
このアルバムはもちろん、マイケル・ブーブレを代表するナンバー。
日本ではサントリーコーヒー「CRAFT BOSS」のCMに使われていたので、耳にしたことのある方も多いだろう。
個人的には「死ぬ前に聴きたいランキングTOP10」に入る名曲中の名曲である。

6曲目は1934年にナシオ・ハーブ・ブラウン(Nacio Herb Brown)が作曲した"All I Do Is Dream Of You"
作詞は映画プロデューサーのアーサー・フリード(Arthur Freed)で映画『蛍の光』(Sadie McKee)の為に書かれた楽曲である。
スウィングを基調したアレンジで、ビッグバンドのサウンドが心地よいナンバー。

7曲目"Hold On"も、"Haven't Met You Yet"と同じくブーブレとアラン・チャンが作曲したオリジナルナンバー。
スローテンポの楽曲で、マイケルの暖かい歌声がフューチャーされた楽曲だ。
シングルとしてもリリースされており、アメリカのアダルトコンテンポラリー・チャートでは9位を獲得している。
バラード好きにおすすめであり、イギリスのTVドラマシリーズ『ダンシング・オン・アイス』(Dancing on Ice)で使用されたこともあるようだ。

8曲目"Heartache Tonight"は、1979年にイーグルス(Eagles)が作曲した曲。
イーグルスの楽曲、しかもこのナンバーを選曲するのがマイケル・ブーブレらしい。
バンドサウンドとビッグバンドのサウンドが見事に融合した素晴らしいアレンジだ。
原曲をリスペクトした編曲でもあるため、イーグルスファンにも是非ご視聴いただきたい。

9曲目"You're Nobody Till Somebody Loves You"は1944年に作曲されたポップ・ソング。
ラス・モーガン(Russ Morgan)、ラリー・ストック(Larry Stock) 、アーチー・ジェイムス・キャヴァナー(James Cavanaugh)の3名により作曲されている。
最も知られているアレンジは、1960年にディーン・マーティン(Dean Martin)が発表したものだろうか。
マイケルのこの編曲ではムーディーな雰囲気が強調されており、バーにピッタリの楽曲へ仕上がっている。
ちなみにマイケルの尊敬するザ・ミルズ・ブラザーズ( the Mills Brothers )も1954年にカバーしているため、興味のある方はそちらも要チェックだ。

10曲目は、ファンク&ソウルシンガーのシャロン・ジョーンズ(Sharon Jones)が参加している"Baby(You've Got What It Takes)"。
アレンジもR&Bを基調したものになっており、これまでの楽曲とは違ったテイストを持つ楽曲だ。
作詞作曲はクライド・オーティス(Clyde Otis)とマリー・ステイン(Murry Stein)によって行われており、1950年に誕生したナンバー。
R&B/ソウルの楽曲を好む人であれば気に入ること間違いなしだろう。

11曲目"At This Moment"は、ビリー・ヴェラ(Billy Vera)が1981年にリリースしたバラード曲。
『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)には"Hold On""Crazy Love"などいくつかのバラードが含まれているが、全て高い完成度を誇っている。
この"At This Moment"も、ホーンセクションやストリングスがマイケルのボーカルと上手く絡み合った素晴らしいアレンジだ。

"Stardust"は、1927年に書かれた楽曲で作詞作曲はミッチェル・パリッシュ(Mitchell Parish)、ホーギー・カーマイケル(Hoagy Carmichael )によって行われいる。
ジャズスタンダードとしても有名であり、1931年にビング・クロスビー(Bing Crosby)がカバーしたことにより広く知られるようになった。
日本でもザ・ピーナッツや、あの美空ひばりさんもカバーした有名な曲である。
マイケルのこのバージョンでは、度々彼の作品に登場するナチュラリー7(Naturally 7)がバックボーカルとして参加。
12曲に収録するのがもったいないほど、聞いていて心地よい楽曲だ。

アルバムのラストを飾るのは、カナダ出身のシンガーソングライター、ロン・セクスミス(Ron Sexsmith)が作曲した"Whatever It Takes"
今作では唯一のラテン・ナンバーであり、作曲したロンもボーカルとして参加している。
二人のボーカルの絡みが心地よい、シンプルで耳当たりのよい楽曲だ。
ある意味、『クレイジー・ラブ』(Crazy Love)らしくないナンバーとも言えるだろう。

Crazy Love - Credit

マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)- ボーカル
デイブ・ガイ(Dave Guy)- トランペット
ブライアン・リップス(Bryan Lipps)- トランペット
ジャスティン・レイ(Justin Ray)- トランペット
ジュマーニ・スミス(Jumaane Smith)- トランペット
ブラッド・ターナー(Brad Turner)- トランペット
リック・バプテスト(Rick Baptist)- フリューゲルホルン
ジェレミー・バークマン(Jeremy Berkman)-トロンボーン
ジョシュア・ブラウン(Joshua Brown)-トロンボーン
ニック・ヴァイェナス(Nick Vayenas)-トロンボーン
ニール・ニコルソン(Neil Nicholson)-バストロンボーン
キャンベル・リガ(Campbell Ryga)- アルトサックス
マイク・アレン(Mike Allen)- テナーサックス
スティーブ・カルデスタッド(Steve Kaldested)- テナーサックス
ジェイコブ・ロドリゲス(Jacob Rodriguez)- バリトンサックス
イアン・ヘンドリクソン・スミス(Ian Hendrickson-Smith)- バリトンサックス
ロブ・ウィルカーソン(Rob Wilkerson)- サックス
ニール・シュガーマン(Neal Sugarman)- サックス
トム・コルクロフ(Tom Colclough)- クラリネット
ウォーレン・トーマス(Warren Thomas)- クラリネット、ギター、ボーカル
ガーフィールド・バックリー(Garfield Buckley)- ハーモニカ、ボーカル
ビクター・アクセルロッド(Victor Axelrod)- キーボード、ピアノ
アラン・チャン(Alan Chang)- ピアノ、チェレスタ、プロデューサー
デイヴィッド・フォスター(David Foster)- キーボード、プロデューサー
ピアノ - タミール・ヘンデルマン(Tamir Hendelman)
ピアノ - ルー・ポマンティ(Lou Pomanti)
ハープ - ヨチェム・ファン・デア・サーグ(Jochem van der Saag)
ラスティ・アンダーソン(Rusty Anderson)- ギター
トム・ブレネック(Tom Brenneck)- ギター
グラハム・デクター(Graham Dector)- ギター
ビンキー・グリップタイト(Binky Griptite)- ギター
エリック・ナイト(Eric Knight)- ギター
マイケル・ランドウ(Michael Landau)- ギター
ディーン・パークス(Dean Parks)- ギター
ジャマル・リード(Jamal Reed)- ギター、ボーカル
キース・スコット(Keith Scott)- ギター
ジョエル・シアラー(Joel Shearer)- ギター
ラモン・スタナーロ(Ramón Stagnaro)- ギター
マイケル・トンプソン(Michael Thompson)- ギター
ブライアン・ブロンバーグ(Brian Bromberg)- ベース
ポール・ブシュネル(Paul Bushnell)- ベース
ネイザン・イースト(Nathan East)- ベース
ニック・モブション(Nick Movshon)- ベース
クレイグ・ポラスコ(Craig Polasko)- ベース
ヴィニー・カリウタ(Vinnie Colaiuta)- ドラム
ピーター・アースキン(Peter Erskine)- ドラム
ジョシュ・フリーズ(Josh Freese)- ドラム
ジョー・ラバーベラ(Joe LaBarbera)- ドラム
ジョン・ロビンソン(John Robinson)- ドラム
ホーマー・スタインウェイス(Homer Steinweiss)- ドラム
レニー・カストロ(Lenny Castro)- パーカッション
ラファエル・パディーラ(Rafael Padilla)- パーカッション
フェルナンド・ヴェレス(Fernando Velez)- パーカッション
ブライアン・アダムス(Bryan Adams)- バックボーカル
シャロン・ジョーンズ(Sharon Jones & the Dap-Kings)- バックボーカル
アンジェラ・フィッシャー(Angela Fisher)- バックボーカル
オニタ・ハットン(Onita Hutton)- バックボーカル
ナチュラリー7(Naturally 7)- バックボーカル
ロン・セクスミス(Ron Sexsmith)- バックボーカル
ティファニー・スミス(Tiffany Smith)- バックボーカル
ドワイト・スチュワート(Dwight Stewart)- バリトンボーカル
ロジャー・トーマス(Roger Thomas)- バリトンボーカル
サンドラ・ウィリアムズ(Saundra Williams)- ボーカル

Conclusion

紹介したとおり、カバー曲が中心のアルバムで、尚且つ昔の楽曲が多い。伝統的な音楽を聞き、それを自分の中で消化できていることが、マイケルが広い世代から愛される理由のひとつだろう。マイケルの楽曲は、昔から愛される曲の良さを残しつつ、現代風にアレンジ出来ている印象がある。もちろん、オリジナルも素晴らしく、アルバムに必ず1~2曲は彼の書いた曲が含まれており、人気が高いものが多い。このアルバムでは"Haven't Met You Yet""Hold On"がオリジナルだがどちらも本当に素晴らしい曲だ。
世界中で愛されているアルバム"Crazy Love"。是非あなたもマイケルの歌声に聞き惚れてほしい。

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