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ロック・ロカビリー・ビッグバンドが融合したアルバム『ヴァヴーム!』(Vavoom!)- ブライアン・セッツァー・オーケストラ(The Brian Setzer Orchestra)

vavoom ブライアン・セッツァー

『ヴァヴーム!』(Vavoom!)は、アメリカン・スウィングバンドであるブライアン・セッツァー・オーケストラ(The Brian Setzer Orchestra)が2000年にリリースしたアルバムである。

1992年にブライアン・セッツァーを中心に結成した彼らは、その2年後にデビュー・アルバム『ザ・ブライアン・セッツァー・オーケストラ 』(The Brian Setzer Orchestra)、1996年に2ndアルバム『ギター・スリンガー』(Guitar Slinger)を発表。
しかし、どちらの作品も求めていたサウンドを表現できず、商業的にも成功を収めることができなかった。

そんな状態を脱却するきっかけとなったのが、1998年にリリースした3rdアルバム『ダーティー・ブギ』(The Dirty Boogie)である。
ブライアン本人もようやく「納得」できる完成度となったこのアルバムは、アメリカでダブル・プラチナ・ディスクを獲得する大ヒットを記録し、全世界でのトータルセールスは300万枚を突破。
1999年には、収録曲の”Sleep Walk”がグラミー賞「ベスト・ポップ・インストルメンタル」、”Jump Jive An' Wail”がグラミー賞「ポップ・ボーカル・デュオ/グループ」を獲得し、名実ともに「歴史に残るスウィング・ロックの名盤」となった。

今回紹介する『ヴァヴーム!』(Vavoom!)は、そんな『ダーティー・ブギ』(The Dirty Boogie)の2年後に発表されたアルバムとなる。

前作があまりにも大きな成功を収めたため、この4thアルバムは大きな注目を集める作品ではないことは否めない。
しかし、実際は3rdアルバムに負けず劣らずの完成度であり、『ダーティー・ブギ』(The Dirty Boogie)を気に入った方であれば必ず気に入ること間違いなしの名盤なのだ。

本アルバムの特徴は、前作同様「ロック」「ロカビリー」「ビッグバンド」の要素が絶妙にブレンドされていることと、ジャズスタンダード曲が多く含まれていることだろう。
特にデューク・エリントンが作曲した"Caravan"のアレンジでは、ラテンとロックを融合させた素晴らしい演奏を披露し、2000年にはグラミー賞「最優秀ポップ・インストゥルメンタル」を獲得。
アレンジャーとしての才能も高く評価させることとなった。

さて、それではここからは楽曲の解説に移っていこう。

Vavoom! - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Pennsylvania 6-5000Bill Finegan, Jerry Gray, Carl Sigman, Mike Himelstein3:04
2.Jumpin' East of JavaBrian Setzer3:03
3.AmericanoRenato Carosone3:01
4.If You Can't Rock MeBrian Setzer2:38
5.Gettin' In the MoodMike Himelstein3:10
6.Drive Like Lightning (Crash Like Thunder)Brian Setzer, Mark Winchester4:11
7.Mack the KnifeMarc Blitzstein, Kurt Weill, Bertolt Brecht2:48
8.CaravanIrving Mills, Duke Ellington, Juan Tizol2:25
9.The Footloose DollBrian Setzer3:52
10.From Here to EternityBrian Setzer, Rick Bell2:52
11.That's the Kind of Sugar Papa LikesBrian Setzer2:19
12.49 Mercury BluesBrian Setzer2:51
13.JukeboxBrian Setzer3:09
14.GloriaEsther Navarro3:52

Background & Reception

1曲目の"Pennsylvania 6-5000"は、1940年にグレン・ミラー楽団(Glenn Miller Orchestara)が収録し、有名となった楽曲。
作曲はジェリー・グレー(Jerry Gray)、作詞はカール・シグマン(Carl Sigman)によって行われた。
ジャズやビッグバンドでは定番曲だが、ブライアンはこれに「スウィング・ロック」の要素を加え、ご機嫌なナンバーにアレンジしている。

セッツァーのオリジナル曲である"Jumpin' East of Java"は、2曲目に収録。
管楽器とギターソロの掛け合いが素晴らしく、聞いているだけで踊りだしたくなるような楽曲だ。
曲間のソロでは、ブライアンのギターとケビン・ノートン(Kevin Norton)のトランペットのソロに注目してもらいたい。
また、ケビンがソロの最後に聞かせるハイ・トーンは、トランペット奏者であれば気持ちが高まること間違いなし。

3曲目の"Americano"は、イタリアのシンガーであるレナート・キャロソン(Renato Carosone)が1956年に作曲した楽曲。
レナートは、戦後で初めて「英語を使用せず、レコードとツアーを行ったイタリアのアーティスト」として数えられている著名なシンガーだ。
曲調はラテンの要素を含んだオシャレな雰囲気があり、サウンド的には前アルバムに収録されていた"Dirty Boogie"に通ずるものがある。
「ビッグバンド」「ロック」のこの絶妙なバランス感は、ブライアン・セッツァーにしか表現できないだろう。

ポップ、ビッグバンドの要素が色濃く感じられるのが、4曲目に並んだ"If You Can't Rock Me"
この曲は1999年のアメリカ合衆国の映画『スチュアート・リトル』(Stuart Little)の劇中でも使用されている。
アメリカン・サウンド全開なシンプルで心地よい楽曲だ。

5曲目"Gettin' In the Mood"は、ジョー・ガーランドが作曲したジャズの定番曲。
1939年にグレン・ミラー楽団が演奏し、広く知られることとなった。
ジャズで最も有名な曲であり、タイトルだけだとピンとこない人もメロディーを聞けば耳にしたことがある方がほとんどだろう。
ライオン、本田技研工業「ライフ ダンク」、キリンビール、スズキ「ワゴンR」など数多くの企業がこのナンバーをCMの挿入歌に使用している。
シンプルながらブライアン・セッツァー・オーケストラを象徴するアレンジで「本アルバムの目玉曲」といってもよいだろう。
ミュージック・ビデオもアメリカンな雰囲気満載の仕上がりだ。

"Drive Like Lightning (Crash Like Thunder)"は、ブライアンとベーシストのマーク・ウィンチェスター(Mark Winchester)との共作。
そのためか、アルバム内で最もロック色が強いナンバーに仕上がっている。
サウンドもロック感満載で「アメリカンバイク」が似合うような雰囲気がたまらない。
ロック好きであれば、きっと気に入ること間違いなしの楽曲だ。

7曲目の"Mack the Knife"は、1928年にミュージカル用に書かれたジャズ・スタンダード・ナンバー。
作曲はクルト・ヴァイル(Kurt Weill)、作詞はベルトルト・ブレヒト(Bertolt Brecht)によって行われている。
ジャズの定番曲としても有名だが、日本でもCMなどで多く使われているため、耳にしたことがあるかもしれない。
カントリー色が強く、アルバムの中で唯一、歪んでいないサウンドで始まる曲でもある。

"Gettin' In the Mood"と並び、本アルバムの目玉曲が8曲目"Caravan"
デューク・エリントン(Duke Ellington)が1936作曲し、現在でも世界各国で演奏されている有名なジャズスタンダード。
オリジナルはラテンの香りとスウィングのリズムが融合した必聴のナンバーだが、ブライアンのアレンジではこれらに「ロック」の要素が追加されている。
ギタリスト以外からも高く評価されたこのアレンジは、2000年のグラミー・アワードにて、並み居る強豪を抑え「最優秀ポップ・インストゥルメンタル」を受賞。現在ではブライアンを代表する曲のひとつとして数えられている。
※ちなみにドラムが目立つ曲でもあるため、映画『セッション』のエンディングでも主人公が演奏していた。

9曲目"The Footloose Doll"は、ブライアンが作曲したマイナー調のスウィング・ロック・ナンバー。
管楽器とギターのユニゾンや、ブライアンのオブリガードが心地よい楽曲だ。
ギターソロではブライアンらしい"コード感溢れる"メロディアスなラインに注目してほしい。

10曲目"From Here to Eternity"も、"The Footloose Doll"と似た雰囲気があるが、こちらはビッグンバンド色が強く表れている。
メロディーに重きを置いた曲で、日本人好みの泣かせるラインが特徴。そのため、ギターサウンドは抑え気味でギターソロも含まれていない。
2ndコーラスから登場するフルートも良い味付けになっており、楽曲としての完成度を高めている。

"That's the Kind of Sugar Papa Likes"は、アメリカンな楽曲。
1950年代に広く愛されていたドゥーワップの要素が含まれており、ポップでダンサンブルなナンバーに仕上がっている。
ギターソロでは、ロックンロールなサウンド全開でまさに"ブライアン節全開"といった感じだ。

10曲目"From Here to Eternity"も、"The Footloose Doll"と似た雰囲気があるが、こちらはビッグンバンド色が強く表れている。
メロディーに重きを置いた曲で、日本人好みの泣かせるラインが特徴。そのため、ギターサウンドは抑え気味でギターソロも含まれていない。
2ndコーラスから登場するフルートも良い味付けになっており、楽曲としての完成度を高めている。

"That's the Kind of Sugar Papa Likes"は、アメリカンな楽曲。
1950年代に広く愛されていたドゥーワップの要素が含まれており、ポップでダンサンブルなナンバーに仕上がっている。
ギターソロでは、ロックンロールなサウンド全開でまさに"ブライアン節全開"といった感じだ。

ストレイ・キャッツ(Stray Cats)色の強い楽曲が、12曲目に収録されている"'49 Mercury Blues"
ロカビリーを代表するギタリストらしいギターサウンド、ギターソロはさすがの一言。ちなみにタイトルに"Blues"が含まれているものの、ブルース進行ではない。
もちろんブライアン・セッツァーのオリジナル・ナンバー。

13曲目"Jukebox"は、このアルバムを象徴するかのような「ロック」「ロカビリー」「ビッグバンド」が融合したナンバー。
これはこの楽曲に限らずだが、ギターと管楽器のバランスが非常に素晴らしい。
ギター、ギターソロ、ホーンセクション、コーラス、どの個所を聞いても楽しめる楽曲だ。

アルバムの最後を飾るのは、14曲目"Gloria"
1940年代にレオン・レネ(Leon René)が作曲し、1948年にミルズ・ブラザーズ(The Mills Brothers)がカバーして以来、ドゥーワップ・スタンダードとして世界中で愛される楽曲となった。
1975 年にマンハッタントランスファー(The Manhattan Transfer)がカバーしたバージョンも有名だろう。
アルバムで唯一のバラード・ナンバーであり、ブライアンのボーカル力も感じられるアレンジに仕上がっている。
アルバムのラストを飾るに相応しい、壮大でゆったりとした楽曲だ。

Vavoom! - Credit

ブライアン・セッツァー(Brian Setzer)- ギター、ボーカル
バーニー・ドレセル(Bernie Dresel)- ドラム、パーカッション
レイ・ハーマン(Ray Hermann)- サックス
ジョージ・マクマレン(George McMullen)- トロンボーン
ティム・ミシカ(Tim Misica)- サックス
マークウィンチェスター(Mark Winchester)- ベース
ロビー・ヒオキ(Robbie Hioki)- トロンボーン
ケビン・ノートン(Kevin Norton)- トランペット
マイク・ヒムルスタイン(Mike Himelstein)- バックボーカル

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