今回紹介する『デュエット』(Duet)は、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)とシルヴァン・リュック(Sylvain Luc)が、1999年にリリースしたギターデュオ・アルバムである。
まずは簡単に、両名の紹介をしておこう。
ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)は、1966年9月4日生まれのフランス人ギタリスト。4歳になるころにギターを始め、その3年後には既にアドリブでの演奏を行っていた。幼少期からジプシージャズの創始者である「ジャンゴ・ラインハルト(Django Reinhardt)の再来」と呼ばれ、レコーディングや国外ライブに参加。
10代の後半にはフュージョンの世界にも触れ、ジャコ・パストリアス (Jaco Pastorius)やスタンリー・クラーク(Stanley Clarke)らとも共演している。
シルヴァン・リュック(Sylvain Luc)は、1965年4月7日生まれのギタリスト。
シルヴァンもビレリと同じくフランス出身であり、4歳からギターを学び始めている。
9歳になるころには2人の兄とトリオを組み、アルバム制作やコンサートに出演。15歳からはソロ活動を開始し、作曲家・編曲家としても活躍している。
1988年からはパリに拠点を移し、カトリーヌ・ララ(Catherine Lara)、リシャール・ガリアーノ(Richard Galliano)を含む多くのフランス人アーティストと共演。リーダー、又はサイドマンとして数多くの作品に参加している。
2人の大きな共通点、それは「ジプシージャズ・ギタリストである」ということだ。
ビレリはメロディアスながら速弾きも得意とする、ジャンゴ・ラインハルトのスタイルに近いギタリスト。
一方のシルヴァンはスケール・アウトしたフレーズやコードソロを得意とする、指弾きギタリストである。
2人の「ギターを通した会話」が楽しめる作品、それがデュオ・アルバム『デュエット』(Duet)なのだ。
比較的弾きすぎてしまうことが多いビレリだが、今作での音数は少なめ。シルヴァンの音を聴いて精密にソロやコードを組み立てている。これにより、ビレリのメロディアスな部分が更に引き立っているのだ。
シルヴァンの楽曲に合わせたサウンドとコードワークは”繊細さ”に溢れており、非常に聴き心地が良い。
収録曲もフランス人の2人らしい、オシャレで味のある楽曲が並んでいる。
OPを飾るのは、シンディ・ローパー(Cyndi Lauper)の名曲”Time After Time”。原曲に忠実なアレンジが施されており、暖かさのあるナンバーに仕上がっている。歌心溢れる曲間のギターソロにも注目だ。
2曲目にはジャンゴ・ラインハルトが作曲した”Douce Ambiance”を収録。ジプシージャズ・ギタリストらしい選曲と言えるだろう。
“Made in France”は、ビレリ・ラグレーンが作曲した3拍子の楽曲。メロディアスで気品に溢れ、タイトルのとおりフランスを連想させる名曲だ。
6曲目にはスティービー・ワンダー(Stevie Wonder)の名曲”Isn't She Lovely”をチョイス。アルバムの中で最も「ギターで会話する」ことが表現されており、ギタリストは必聴の楽曲だ。
また、ジャズ業界ではカバーされることの少ないビートルズ・ソング”Blackbird”も選曲されている。原曲のアルペジオを中心に曲が展開していく、美しくも少し寂しげなアレンジだ。
これはアルバム全体に言えることだが、今作ではジプシージャズ特有バッキングである”ラポンプ”は殆ど使用されていない。
またアレンジもあくまで「ギター・デュオ」に重きを置いたものだ。
そのため、”典型的なジプシージャズ・アルバム”を求めている人は肩透かしを食らうかもしれない。
しかし、アコースティックな作品やギター・デュオ、音楽による会話を楽しみたい方であれば必ず楽しめる作品だろう。ひょっとすると、ジプシージャズ・アルバムも聴きやすいアルバムとも言えるかもしれない。
ジャケットのビレリ・ラグレーンはエレキギターと共に映っているが、全曲を通してマカフェリ・ギターを演奏しているので、その点は注意してほしい。
ギタリストはもちろん、生楽器のサウンドに癒されたい方にもおすすめできる名盤、それが『デュエット』(Duet)なのだ。
Duet - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Time After Time | Cyndi Lauper, Rob Hyman | 4:14 |
2. | Douce Ambiance | Django Reinhardt | 4:01 |
3. | Estate | Bruno Martino | 4:10 |
4. | Made in France | Biréli Lagrène | 3:18 |
5. | La ballade irlandaise | Edmond Bacri | 6:41 |
6. | Isn't She Lovely | Stevie Wonder | 4:02 |
7. | Road Song | Wes Montgomery | 4:18 |
8. | Zurezat | Sylvain Luc | 4:12 |
9. | Stompin' at the Savoy | Benny Goodman | 5:43 |
10. | Les amoureux des bancs publics | Georges Brassens | 4:37 |
11. | Blackbird | John Lennon, Paul McCartney | 3:22 |
12. | Syracuse | Bernard Dimey, Henri Salvador | 4:21 |
13. | Looking Up | Michel Petrucciani | 1:58 |
Duet - Credit
ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)- ギター
シルヴァン・リュック(Sylvain Luc)- ギター