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植松氏本人による、ハードロックアレンジ。FF音楽好きは必聴のアルバム『黒魔導士』(THE BLACK MAGES)- ザ・ブラックメイジーズ(THE BLACK MAGES)

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『黒魔導士』(THE BLACK MAGES)は、植松伸夫率いるザ・ブラックメイジーズ(THE BLACK MAGES)が2003年にリリースしたアルバムである。

シリーズ全タイトルの世界累計出荷数が1億5,900万本以上を達成しており、世界的な人気を誇るファイナルファンタジーシリーズ(Final Fantasy Series)
このゲームタイトルの音楽を担当していたのが、偉大な作曲である植松伸夫だ。
ここで簡単にではあるが、植松氏のプロフィールを紹介しておこう。

植松伸夫は、1959年3月21日高知県高知市生まれ。
12歳のころからピアノを初め、すぐに作曲活動を開始する。
世界に名の知れる作曲家達は音楽関係の学校へ進学することが多いが、植松氏は高知学芸高等学校、大学は神奈川大学外国語学部と特に芸術系の授業を受けずに育っている。
こういった部分が植松氏に自由な発想を与え、結果として世界に名の知れる作曲家となった要因のひとつかもしれない。

在学中、また卒業後も作曲活動を続けていた植松伸夫はある日『ファイナルファンタジーシリーズ』の生みの親となる坂口博信と出会う。
植松氏は元々坂口氏の会社へアルバイトで出入りしていたため、二人は顔見知りであった。
当時作曲家を探していた坂口博信は植松伸夫に「社員にならないか?」と声を掛け、植松氏がこれを承諾。
1986年、植松伸夫は27歳になる年にゲーム会社スクウェアへ入社することとなった。

そして入社から約1年が経ち、植松伸夫は自身の人生のみならず、スクウェアの運命も変えることなったRPG『ファイナルファンタジー』(FINAL FANTASY、略称:FF)の音楽を担当する。
1987年12月に発売されたこのゲームは、ストーリー、戦闘システム、グラフィック、そしてもちろん音楽などが高く評価され、50万本の出荷を記録。
それまで大きなヒット作が生み出せずにいたスクウェアだったが、ここからヒット作を連発し世界有数のゲーム会社へと成長することになる。
ちなみにファイナルファンタジーのタイトルの由来について「このタイトルが外れたら、最後のソフトとなるから」という噂があったのをご存じだろうか。
実際のところ、経営を危なく倒産寸前ではあったが、坂口博信が否定したことによりこの説はデマということになった。

そこから植松伸夫は『ファイナルファンタジーシリーズ』にてその才能を遺憾なく発揮し、世界中のファンを魅了。
1999年には『ファイナルファンタジー8』で作曲した"Eyes On Me"のシングルが50万枚の売上を記録し、第14回日本ゴールドディスク大賞にてゲーム音楽として初の「ソング・オブ・ザ・イヤー」(洋楽部門)を受賞した。
また、2007年にはゲーム音楽の作曲家としては異例の「世界が尊敬する日本人100人の1人」にも選ばれている。
植松伸夫は名実ともに、世界中に多くのファンを持つ偉大な作曲家なのだ。

そんな植松氏の音楽の特徴といえば、やはり「かっこいいロックサウンド」と「心を掴むメロディー」だろう。
現在では数多くのゲーム音楽の作曲がいるものの、植松伸夫ほどロックサウンドを理解出来ている作曲家はいない。
特にプログレッシブロックに関して言えば、自身を「プログレ博士」を自称するほどプログレ好きであり、楽曲にもそれが随所に現れている。
好きなミュージシャンについてもディープパープル(Deep Purple)、レッド・ツェッペリン(Led Zeppelin)、キング・クリムゾン(King Crimson )、ジェネシス(Genesis)、エマーソン・レイク・アンド・パーマー(Emerson, Lake & Palmer)などロックミュージシャンばかりだ。
これはゲーム音楽の作曲家としては非常に珍しく、またそれが植松氏の音楽にオリジナリティを与えている要因のひとつでもある。

さて、今回紹介するアルバム『黒魔導士』(THE BLACK MAGES)は、そんな植松伸夫氏が自身で作曲した『ファイナルファンタジー』をアレンジした作品となる。
メンバーは当時のスクウェアの社員で構成されており、ベース、ドラムを除く音源は全て生演奏によるものだ。
元々ロックサウンドが土台となっている楽曲達なだけあり、本当にロックアレンジがよく似合う。サウンド的には1980年代のハードロックといった感じだろうか。
セルフアレンジのため、全ての楽曲がオリジナルに勝るとも劣らない完成度を誇っているため、FF音楽好き、またはゲーム音楽を好む方であれば購入して絶対に後悔はないだろう。
ロックやハードロックを愛する方にも、是非ご視聴いただきたいアルバムだ。

THE BLACK MAGES - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Battle Scene (「戦闘シーン」FINAL FANTASY I)Nobuo Uematsu4:19
2.Clash on the Big Bridge (「ビッグブリッヂの死闘」FINAL FANTASY V)Nobuo Uematsu4:16
3.Force Your Way (「Force Your Way」FINAL FANTASY VIII)Nobuo Uematsu3:51
4.Battle, Scene II (「戦闘シーン2」FINAL FANTASY II)Nobuo Uematsu3:52
5.The Decisive Battle (「決戦」FINAL FANTASY VI)Nobuo Uematsu4:02
6.Battle Theme (「戦闘」FINAL FANTASY VI)Nobuo Uematsu3:21
7.J-E-N-O-V-A (「J-E-N-O-V-A」 FINAL FANTASY VII)Nobuo Uematsu6:08
8.Those Who Fight Further (「更に闘う者達」FINAL FANTASY VII)Nobuo Uematsu4:25
9.Dancing Mad (「妖星乱舞」FINAL FANTASY VI)Nobuo Uematsu12:04
10.Fight With Seymour (「シーモアバトル」FINAL FANTASY X)Nobuo Uematsu5:05

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、1987年に発売された『ファイナルファンタジー』の戦闘曲"Battle Scene"
打ち込みとは思えない力強いドラミングを基調とした、80年代ハードロックを連想させる激しいアレンジが施されている。
FFの戦闘曲の代名詞である「ララララララソソ」のイントロが初めて使用されたもの、もちろんこの楽曲が初めてだ。

2曲目"Clash on the Big Bridge"(ビッグブリッヂの死闘)は、1992年に発売された『ファイナルファンタジーV』で使用された楽曲。
ギルガメッシュとの戦闘で使用されるナンバーであり「ファイナルファンタジー人気曲ランキング」では2位を獲得するほど高い人気を誇っている。
イントロの高速アルペジオに注目が集まることが多く、よく「弾いてみた」系の動画で演奏される曲でもある。(本来のこの曲の良さはメロディーだと思うが…)
ちなみに植松氏本人はそこまでお気に入りの曲ではないようで、
「あと一曲外さなきゃならんかったらビッグブリッヂを外していた。ただのアルペジオの連続なのに」
と語っている。

『ファイナルファンタジーVIII』のボス戦で使用された"Force Your Way"は、3曲目に収録。
他のシリーズと比べ、FF8はロック調の曲は少なめだが逆にプログレの要素が強い音楽が多く並んでいるのが特徴だ。
この"Force Your Way"も原曲はロックサウンドは控えめなものの、このアレンジではハードロック・サウンドを基調としつつメロディーが強調された楽曲に形を変えている。
完成度が非常に高いため、FF8をプレイした人はもちろん、ゲーム音楽好きは必聴のナンバーだ。

"Battle, Scene II"は、1988年に発売された『ファイナルファンタジーII』の戦闘曲。
メロウなメロディーが特徴の楽曲で、このアルバムでは珍しくスロー~ミドルテンポの編曲となっている。
注目は曲間でプレイされるクラシカルなギターソロ、キーボードソロ。
ハードロックというよりメタル寄りのサウンドのため、重いサウンドを好む方にもおすすめのナンバーだ。

"The Decisive Battle"は、1994年に日本で発売された『ファイナルファンタジーVI』のボス戦で使用されている楽曲。
邦題は「決戦」と呼ばれ「ビッグブリッヂの死闘」と共に「ファイナルファンタジー人気曲ランキング」で必ず上位に入るナンバーだ。
FF6はロック調の曲が多く、このハードロックアレンジも最高にハマっている。
タイトなリズム感が心地よく、バンドサウンドが前面に押し出されており、原曲に負けず劣らずの"神曲"と言えるだろう。

6曲目に並んだ"Battle Theme"も、『ファイナルファンタジーVI』の戦闘曲として知られるナンバー。
こちらは通常の戦闘で使用された楽曲で、クールなメロディーラインが特徴の楽曲だ。
原曲よりスローテンポで重いアレンジが施されており、よりメロディーが強調された仕上がりになっている。

7曲目"J-E-N-O-V-A"は、1997年に発売された『ファイナルファンタジーVII』のジェノバ戦で使用された楽曲だ。
プログレッシブロックの要素を持つ植松伸夫らしい戦闘曲で、オリジナルより更にロック・サウンドが強調されているのが特徴。
打ち込みのドラミングが楽曲に疾走感を与えており、ボス戦らしい緊張感も伝わってくる。
植松氏の曲はロックが基調となっているため、どんな楽曲でもロックアレンジが合うのだろう。

『ファイナルファンタジーVII』の通常ボス戦で使用されたのが、8曲目"Those Who Fight Further"(更に闘う者達)
ロック色の少ない楽曲が並んでいるエフエフ7だが、その中でもこのFF7は最も「ロックしている」ナンバー。
ハードロックアレンジが最高にマッチしており、アルバムの中でも1~2位を争う完成度を誇っている。
こちらも「ファイナルファンタジー人気曲ランキング」でも必ずTOP10に選ばれる人気の楽曲。
ゲーム音楽好きでなくとも一度はご視聴いただきたい最高のハードロック・アレンジだ。

9曲目"Dancing Mad"は、1994年に発売された『ファイナルファンタジーVI』で使用された楽曲。
ラスボスであるケフカ戦で使用されるナンバーで、邦題は「妖星乱舞 」と名付けられている。
原曲は18分もある超大作でクラシック曲のように4つの楽章に分かれているナンバー。
このアレンジでは10分程度に収まっているものの、プログレの要素を存分に含んだ飽きさせない曲構成となっている。

アルバムの最後を飾るのは2001年に発売された『ファイナルファンタジーX』の楽曲"Fight With Seymou"
シーモア戦の曲で流れる戦闘曲であり、こちらもプログレの要素を含んだ複雑ながらキャッチーな曲だ。
特に曲の中間で変拍子になるパートは、植松氏の才能が遺憾なく発揮されている。
原曲に匹敵するほど素晴らしいアレンジで、FF10をプレイした人であれば必ずご視聴いただきたい。

THE BLACK MAGES - Credit

植松伸夫(Nobuo Uematsu)- アレンジ
関戸剛(Tsuyoshi Sekito)- ギター
福井健太郎(Kentaro Fukui)- キーボード、ギター

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