
1926年にニュージャージー州で生まれ、17歳からプロギタリストとしての活動を開始したバッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)。伝統的なジャズギタースタイルで60年以上に渡り活躍し、数々の名盤を残してきた。
特にサイドマンとしての活躍は素晴らしく、ベニー・グッドマン(Benny Goodman)、サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)、ステファン・グラッペリ(Stéphane Grappelli)などと共演。
職人気質なバッキングでバンドを支え、フレディ・グリーン(Freddie Green)に次ぐリズムギタリストとして、歴史に名を刻んだ演奏家でもある。
そしてバッキーの息子ジョン・ピザレリ(John Pizzarelli)も、父と同じ道を歩んでいるジャズミュージシャンだ。ジョンは数年に一度日本でも公演を行っているため、国内ではバッキーよりも知名度は高いだろう。父譲りの四つ切りバッキングと、それにのった小粋なボーカルはジャズの枠を超え、多くの人々から高い人気を獲得している。
バッキー&ジョン・ピザレリ親子はこれまでに10作以上のアルバムで共演しており、今回紹介する『ファミリー・フーガ』(Family Fugue)もそのうちのひとつだ。
2011年にリリースされた今作は、7弦ギター2本によるギターデュオアルバム。
バッキーとジョンはジャズギタリストとしては特殊な低音弦が追加された7弦ギターをメインに使用している。
2人はこの7弦をバッキングで使用することが多く、このアルバムでも低音を活かした軽快なフレーズを披露。楽曲に活力を与えており、デュオ作品ながら厚みのあるスウィンギーな演奏を聴くことができる。
収録された楽曲は2人が好んで演奏するものがズラリと並んでいる。
”All The Things You Are”から始まり、”Body And Soul”、”What's New”などは彼らの他のアルバムでもよく聴くことのできるスタンダードナンバー。”Sweet Georgia Brown”、”Stompin' At The Savoy”に関して言えば、最早ピザレリ親子、特にバッキーの代名詞といって良いほど好んで演奏している楽曲だ。
アルバムの最後には”Sing, Sing, Sing”を含むベニー・グッドマンのメドレー(Benny Goodman Medley)を選曲。こちらはコンボでの演奏となっており、15分を超える超大作となっている。
バッキー&ジョン・ピザレリ(Bucky & John Pizzarelli)は、デュオアルバムとして計5枚ほど作品をリリースしている。
その中でも、『ファミリー・フーガ』(Family Fugue)は最も完成度の高い「ギターデュオ・アルバムの名盤」と言えるだろう。
ジャズのギターデュオアルバムとして歴史に名を刻んだ一枚、是非多くの方に楽しんでもらいたいと思う。
Family Fugue - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | All the Things You Are | Oscar Hammerstein II, Jerome Kern | 5:37 |
2. | Without You | Osvaldo Farrés | 4:55 |
3. | Body and Soul | Frank Eyton, Johnny Gren, Edward Heyman, Robert Sour | 6:09 |
4. | Sweet Georgia Brown | Ben Bernie, Kenneth Casey, Maceo Pinkard | 4:15 |
5. | It Could Happen to You | Johnny Burke, James Van Heusen | 5:06 |
6. | Stardust | Hoagy Carmichael, Mitchell Parish | 4:20 |
7. | Golden Earrings | Ray Evans, Jay Livingston, Victor Young | 4:24 |
8. | What's New | Johnny Burke, Bob Haggart | 6:38 |
9. | Cry Me a River/Girl Talk | Arthur Hamilton, Neal Hefti, Bobby Troup | 7:53 |
10. | On Green Dolphin Street | Bronislaw Kaper, Ned Washington | 3:15 |
11. | Put Your Dreams Away | Ruth Lowe, Paul Mann, Stephan Weiss | 1:04 |
12. | Benny Goodman Medley: Stompin' at the Savoy/Memories of You/Sing, Sing, Sing | Eubie Blake, Benny Goodman, Louis Prima, Andy Razaf, Edgar Sampson, Chick Webb | 15:51 |
Family Fugue - Credit
バッキー・ピザレリ(Bucky Pizzrelli)- ギター
ジョン・ピザレリ(John Pizzarelli)- ギター
マーティン・ピザレリ(Martin Pizzarelli)- ベース
トミー・テデスコ(Tony Tedesco)- ドラム(Track 12)
ラリー・フラー(Larry Fuller)- ピアノ(Track 2)
エド・ラウプ(Ed Laub)氏のコメント
私がまだ若いころ、運よくボビー・ドメニク(Bobby Domenick)からギターを教わる機会があった。ボビーはバッキー・ピザレリ(Bucky Pizzarelli)の祖父であり、彼にギターを教えた人物でもある。
私のレッスンの後には、バンジョーを習っている幼い子がいた。彼は自分のレッスン以外の時、いつも小さい窓から他の生徒のレッスンを覗いていた。しかし、その小さい窓は、彼にとって高すぎたようで、ジャンプしないと届かないような場所だった。私のレッスンを受けている間は、彼の頭が見え隠れしていたこと覚えている。
その好奇心旺盛な子供は、バッキーの息子であるジョン・ピザレリ(John Pizzarelli)だった。
16歳の時、初めてバッキーからレッスンを受けることができた。とても緊張しながら、私のアイドルである彼の前で1曲演奏したことを、今でも鮮明に覚えている。私は運がよく彼の生徒になることができ、そしてすぐに7弦ギターを買いにいったのだ。そこから私達はとても親しい友人になり、その関係は約42年にも及んでいる。
その長い間、バッキーから受けたアドバイスのうち、もっとも印象に残っているものがある。それは今でも私がギターを弾く時や、バッキーのギターを聴くときに思い浮かぶ。
「誰かと演奏するとき、可能な限り彼らが上手く聞こえるように伴奏するのが、君の仕事だ」
バッキーのプレイを聞いたことがある人であれば、このアドバイスの意味を深く理解することができるだろう。特に彼の息子ジョンとのデュオ作品などではこれが顕著に見える。また、ジョンともう一人の息子マーティンも、バッキーの教えを忠実に学び、プレイに活かしているのが分かる。彼らの演奏を聴くと、バッキーの特徴を受け継いでいることが顕著だ。
『ファミリー・フーガ』(Family Fugue)は、『コントラスト』(Contrasts)、トゥーギャザー(TwoGether)、『ジェネレーションズ』(Generations)に並ぶ、ピザレリ親子が生んだギター・デュオアルバムである。12曲のジャズ・ナンバーが含まれており、2本のギターがひとつの心に交わったような演奏だ。
多くの方がご存じのとおり、バッキーとジョンはユニークな楽器、つまり7弦ギターを使用している。ジャズ界では、1930年代にジョージ・ヴァン・エプス(George Van Eps)がA音が追加された7弦ギターを使用し始めたのが最初と言われている。ジョージは時折この楽器を「ラップ・ピアノ」とも形容していた。
この歴史がバッキー、そしてジョンに受け継がれ「ラップ・オーケストラ」にまで進化したのだ。
このアルバムはシングルノートのインプロヴィゼーションから始まる”All the Things You Are”から始まる。1939年のミュージカルVery Warm for May用にオスカー・ハマースタイン2世、ジェローム・カーンが作曲した美しいジャズ・スタンダードだ。
曲が始まるとすぐに6弦ギターにはないダイナミックなレンジを感じることができるだろう。その後も2本のギターとは思えない広がりとサウンドを楽しめる。
“Without You (Tres Palabras)”でのバッキーとジョンの演奏を聴けば、この曲がギターで演奏されるのに適した楽曲であることが分かるだろう。柔らかいハーモニーと7弦ギターを活かした多彩なコードワークとベースラインが特徴だ。バッキーはゆっくりと、それでいて優しくメロディーを奏でている。ウェストニューヨーク出身のオズワルド・ファレスによって作曲された楽曲。今回はマンハッタンから川を挟んだここニュージャージーで演奏されることとなった。
※バッキーとジョンはニューヨークの隣に位置するニュージャージー州出身
“It Could Happen to You”では、ジョンがジョージ・ヴァン・エプスを彷彿とさせる美しいメロディーとコード演奏を見せている。ジョンは歌手としても成功しているため、「ギタープレイヤーではない」と思う方もいるかもしれない。しかし、この演奏を聴けばジョンが如何に優れたジャズ・ギタリストであるかが分かるだろう。
加えて、”Golden Earrings”ではバッキーのナイロンギターを使用したソロギターを堪能することができる。リッチでメロウなサウンドは、バッキーならではだ。
ホーギー・カーマイケルが1923年に作曲した”Stardust”は、1,500回以上に渡りレコーディングされ、「20世紀で最も録音された楽曲」のひとつ。何回きいても飽きがこない美しいメロディーを、バッキーとジョンは忠実にギターで再現している。聴いていて飽きがこないのは彼らの演奏も同じだが。
ジュリー・ロンドンのヒット曲”Cry Me A River”でジョンが行ったイントロのメロディーは、バーニー・ケッセル(Barney Kessel)のものを引用したようだ。その後はニール・ヘフティ(Neal Hefti)とボビー・トゥループ(Bobby Troup)が作曲した”Girl Talk”。このメドレーのアレンジは、バッキーが数年前にリリースしたアルバム『グリーン・ギター・ブルース』(Green Guitar Blues)を元にしているのだろう。
ボーナストラックでは、Stompin' at the Savoy, Memories of You, Sing, Sing, Singのベニー・グッドマン(Benny Goodman)のメドレーが収録されている。タングルウッドでのライブを録音したもので、この楽曲のみクインテットでの演奏。もちろん一発録りだ。ベーシストはバッキーの息子であり、ジョンの弟であるマーティン・ピザレリ。ジョンとは長い間一緒に活動を行っており、息の合ったプレイを見せている。
ドラマーはトニー・テデスコ(Tony Tedesco)、ピアニストはラリー・フラー(Larry Fuller)でクインテットとは思えない、ビッグバンドのような厚みのサウンドが特徴だ。
『ファミリー・フーガ』(Family Fugue)はピザレリ親子の最高のマジックだ。
あなた方がこの作品を楽しんでくれますように!
エド・ラウプ 2010年11月
エド・ラウプ(Ed Laub)は、7弦ギタリストとして活躍しているプロ・ミュージシャン。バッキー・ピザレリ、ジョン・ピザレリ、ジーン・バートンチーニ、ハワード・オルデン、フランク・ヴィニョーラ、ジャック・ウィルキンズらと共演。