『ミスター・リズム』(Mr. Rhythm)は、フレディ・グリーン(Freddie Green)が1955年にリリースしたアルバムである。
カウント・ベイシー(Count Basie)楽団に所属し、約50年に渡りリズム・セクションを支えたギタリスト、フレディ・グリーン。
人々は彼を「世界ナンバーワンのリズム・ギタリスト」と称し、現在でも数多くのジャズ・ギタリストに大きな影響を与えた人物として広く愛されている。
今回はフレディ・グリーンの経歴を紹介した後、フレディ唯一のリーダー・アルバムである『ミスター・リズム』(Mr. Rhythm)について語っていこう。
フレディ・グリーン(Freddie Green)は、1911年3月31日にアメリカ合衆国サウスカロライナ州南東部に位置するチャールストンで生まれている。
幼少期の頃から音楽に興味を持ち、バンジョーを学び始めたフレディは、10代でギターへ転向。
彼の父の友であるサム・ウォーカー(Sam Walker)から譜面の読み方や奏法を学び、ギタリストの基礎を築いていった。
また、サムが主催者を務めたイベントではギタリストとして参加し、初のステージ演奏を経験。
ちなみにフレディの初ライブとなったこのイベントには、後にデューク・エリントン(Duke Ellington)楽団のトランペット奏者として活躍するキャット・アンダーソン(Cat Anderson)も参加していたそうだ。
両親が亡くなって以降、フレディは叔父が住んでいたニューヨークへ移住。
フレディはここで数多くの音楽に触れながらクラブで演奏を行い、知名度を高めていく。
ある日、フレディの演奏を聴き、彼のポテンシャルを感じ取ったミュージシャンがいた。
それが、ジャズ音楽に多大な影響を与えた人物、ジョン・ハモンド(John H. Hammond)である。
ジョンはフレディの存在をカウント・ベイシー(Count Basie)に伝え、ベイシーとその仲間達はフレディのライブを見に行くことに。
結果、ベイシーはすぐにフレディのギターに魅了され、すぐに自身のバンドに加わってくれるようオファー。
フレディ・グリーンはこれを承諾し、1937年、カウント・ベイシー楽団に最高のリズム・ギタリストが参加することとなった。
ビッグバンドでプレイすることについて、フレディ・グリーンはギターの存在を以下のように語っている。
「ビッグバンドにおいて、ギターとしての音が聞こえることは無い。ギターはドラムの一部であるべきで、ドラマーがコードをプレイしているようなサウンドであるべきだ。スネアがAで、ハイハットがDmみたいな感じでね。」
フレディはリズムギターに拘っていたため、ソロを取ることが殆どなかった。
そんな彼がソロを演奏した記録が残っているのが、1938年1月16日。
場所はカーネギーホールで、ベニー・グッドマン(Benny Goodman)をフューチャーしたライブの時である。
奏者はフレディ・グリーン、ウォルター・ページ(Walter Page)、そしてデューク・エリントン楽団のメンバーで曲は”Honeysuckle Rose”。
ジョニー・ホッジス(Johnny Hodges)がソロをプレイした後、グッドマンがフレディにサインを出したため、フレディがソロを取ったそうだ。
もし映像が残っているのなら、一度見てみたいものである。
フレディはその後もリズム・ギタリストとしてのみ活躍し続け、『エイプリル・イン・パリ』(April in Paris)、『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)、『ベイシー・プレイズ・ヘフティ』(Basie Plays Hefti)など数々の名盤をベイシーと共に生み出した。
その後、約50年に渡りカウント・ベイシー楽団を支え続けたフレディは、1987年3月1日に心臓発作が原因でこの世を去ってしまう。
フレディが75歳になる年だった。
そんなフレディ・グリーン唯一のリーダー・アルバムが、今回紹介する『ミスター・リズム』(Mr. Rhythm)である。
今作の面白い点は、「リーダー作にも関わらず、フレディはソロを取っていない」ところだ。
しかし、それがフレディ・グリーンがリズム・ギター職人と言われている所以でもあるだろう。
逆に言えば、フレディのリズム・ギターを学ぶのに本作ほど適した作品は無いと断言できる。
カウント・ベイシー楽団の作品では若干聴きづらいギターサウンドも、この『ミスター・リズム』(Mr. Rhythm)ではギターが聴きやすいミックスが施されているのだ。
そういった意味では、ビッグンバンドでギタリストとして活躍する人にとっては”マスト・アイテム的アルバム”と言えるだろう。
ベイシー楽団で作曲をすることが少なかったフレディだが、今作ではほとんどの楽曲を自身で作曲。
参加したアーティストも「オール・アメリカン・リズム・セクション」のジョー・ジョーンズ(Jo Jones)や、同じくベイシー楽団からトランペット奏者のジョセフ・ニューマン(Joe Newman)。
他にもヘンリー・コーカー(Henry Coker)、ウディ・ハーマン楽団のサックス奏者アル・コーン(Al Cohn)、マニー・アルバム(Manny Albam)、アーニー・ウィルキンス(Ernie Wilkins)など豪華な面々が集結している。
メンツを見て分かるとおり、ジャズギタリストでなくとも、ビッグバンドを愛する人であれば楽しめること間違いなしの作品だ。
Mr. Rhythm - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Up in the Blues | Freddie Green | 2:33 |
2. | Down for the Double | Freddie Green | 3:58 |
3. | Back and Forth | Freddie Green | 2:16 |
4. | Free and Easy | Freddie Green | 3:23 |
5. | Learnin' the Blues | Dolores Vicki Silvers | 3:29 |
6. | Feed Bag | Freddie Green | 2:58 |
7. | Something's Got to Give | Johnny Mercer | 2:50 |
8. | Easy Does It | Sy Oliver, Trummy Young | 3:44 |
9. | Little Red | Freddie Green | 2:06 |
10. | Swinging Back | Freddie Green | 3:21 |
11. | A Date with Ray | Freddie Green | 4:50 |
12. | When You Wish Upon a Star | Leigh Harline, Ned Washington | 2:36 |
Mr. Rhythm - Credit
フレディ・グリーン(Freddie Green)- リズムギター
ジョセフ・ニューマン(Joe Newman)- トランペット
ヘンリー・コーカー(Henry Coker)- トロンボーン
アル・コーン(Al Cohn)- テナーサックス
ナット・ピアース(Nat Pierce)- ピアノ
ミルトン・ヒントン(Milt Hinton)- ベース
オシー・ジョンソン(Osie Johnson)- ドラム
ジョー・ジョーンズ(Jo Jones)- ドラム
ナット・シャピロ(Nat Shapiro)のコメント
フレディ・グリーンは私が知っている中で最も偉大なリズム・ギタリストだ。
カウント・ベイシーはビッグバンドでないコンボでの演奏の際もフレディを起用していた。
その理由についてベイシーに尋ねたところ、彼はこう答えた。
「フレディ・グリーンは正確なリズムを刻むだけでなく、バンドをひとつにまとめる能力を持っている。1937年にジョン・ハモンド(John Hammond)からフレディを紹介され、それからすぐに私のバンドに誘ったんだ。それから20年経つけど、彼はカウント・ベイシー楽団に安定感を与えてくれ、最高のスウィングバンドの一員として貢献してくれているんだ。ソロを取っているところは見たことがないけどね。」
フレディ・グリーンはリズム・ギターについて、以下のように語っている。
「私は長い間リズムギターを演奏している。僕にとって、伴奏というのはギターソロと同じぐらい重要なことなんだ。私は"リズム・ウェーブ"と呼んでいるんだけど、リズムギターは曲にスムーズに、より正確にする力があるんだよ。プレイするときはいつもビートに乗り、音楽がスムーズになるように心がけている。もしバンドがスムーズに演奏出来れば、何も考えずに弾けるんだけど、それはめったにないね。」
このアルバムについて、驚くべき点が2つある。
まずひとつは、フレディの長い活動の中で初めてリーダー作としてリリースされたアルバムであること。
そしてもうひとつは、このアルバムがリリースされるまで、誰もこの素晴らしい男を『ミスター・リズム』(Mr. Rhythm)と呼ばなかったことだ。
ひとつだけ驚かなかったことと言えば、この作品が「スウィング」していることぐらいだろうか。
参加しているミュージシャンも素晴らしいメンバーが揃っている。
トランペット奏者のジョセフ・ニューマン(Joe Newman)は1943年にカウント・ベイシー楽団に入団して以来、リードトランペッターとして活躍している。
トロンボーン奏者のヘンリー・コーカー(Henry Coker)も同じくベイシー楽団に欠かせない存在となりつつある実力派。
ベテランのサックス奏者ベニー・カーター(Benny Carter)、ピアニストのエディ・ヘイウッド(Eddie Heywood)もフレディの楽曲をより良いものにしている。
ウディ・ハーマン楽団のアレンジャーとして有名なナット・ピアース(Nat Pierce)や「フォア・ブラザーズ」のひとりであるアル・コーン(Al Cohn)も参加。
ベーシスト、ミルトン・ヒントン(Milt Hinton)のアプローチは、私達をハッピーで健康的なジャズへと導いてくれているようだ。