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キング・オブ・ポップとしての1stアルバム。クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)との初共演で生まれた名盤『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)- マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)

オフ・ザ・ウォール(Off The Wall)- マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)

「最も有名な音楽アーティストは誰か?」

私がこの質問を受けた際、真っ先に名の挙がる人物と言えばやはり、マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)だろう。
マイケルが発表した音楽作品の売上枚数は7億万枚を超え、ギネス・ワールド・レコーズは彼を「人類史上最も成功したエンターテイナー」として認定。
2009年にこの世を去ったのにもかかわらず、生前の利益から2016年には年収892億を超え「音楽業界で最も稼いだ人物」にも選出されている。

そんなマイケルが大きな注目を集めるきっかけとなった作品、それが5thアルバム『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)である。
今作の特徴はなんといってもクインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)がプロデューサーとして参加していることだろう。

きっかけとなったのは、1978年に公開された映画『ウィズ』(原題: The Wiz)。
この映画の主役として活躍していたマイケルは、制作現場にて音楽を担当していたクインシーと出会う。
当時マネージャーを探していたマイケルは、クインシーにこの役割を担ってもらうこととなった。

そうして2人は1978年12月より『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)の制作を開始する。
この作品以前、マイケルは基本的にジャクソンズや父と共に作曲・プロデュースを行っていた。
しかし、5thアルバムは「ジャクソンズとは違う、これまでに生み出したアルバムより創造的で自由なものにする」と決意。
マネージャーを務めていたマイケルの父ジョセフや、兄弟の力は借りずに制作を進めることにした。
ジャクソンズのメンバーは作曲に携わることを希望していたようだが、マイケルの意志は固く、それも叶わなかったようだ。

そして制作開始から半年後となる1979年6月、マイケル・ジャクソンとクインシー・ジョーンズはアルバム『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)をリリース。
R&B、ディスコ、ファンクなどのブラック・ミュージックをポップに昇華した今作は、11ヵ国でプラチナ・ディスクを獲得。翌年にはグラミー賞R&Bボーカルパフォーマンスも受賞し、マイケルは一気にトップ・スターの仲間入りを果たした。

2021年時点での売り上げ枚数は脅威の2,000万枚
また2020年にローリングストーン誌が行った「歴代最高のアルバム」500選では36位に選出されるなど、現在でも高い評価を獲得している。

この作品以降、マイケルは『スリラー』(Thriller)、『バッド』(Bad)など歴史に名を刻む名盤を生み出すことになる。
『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)は、初めてマイケルが「マイケル・ジャクソン」としての道を切り開いた、ある種の1stアルバムと呼べる作品なのだ。

「キング・オブ・ポップ」の名に恥じない名盤中の名盤『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)
以下ではその収録曲を紹介していこう。

Off The Wall - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Don't Stop 'Til You Get EnoughMichael Jackson6:02
2.Rock with YouRod Temperton3:38
3.Working Day and NightMichael Jackson5:10
4.Get on the FloorMichael Jackson, Louis Johnson4:42
5.Off the WallRod Temperton4:11
6.GirlfriendPaul McCartney3:08
7.She's Out of My LifeTom Bahler3:41
8.I Can't Help ItStevie Wonder, Susaye Greene4:28
9.It's the Falling in LoveCarole Bayer Sager, David Foster3:52
10.Burn This Disco OutRod Temperton3:39

Background & Reception

1曲目を飾るのは、マイケル自身が作詞・作曲を行った”Don't Stop 'Til You Get Enough”
マイケルはこの曲のメロディーをロスアンゼルス・エンシノにあるジャクソン宅にいる際、思い付いた。
そこで自宅にいた9男のランディ・ジャクソン(Randy Jackson)に、メロディーをピアノで演奏してもらい、完成させた楽曲である。
マイケルの母キャサリン・ジャクソン(Katherine Jackson)は、初めに”Don't Stop 'Til You Get Enough”の歌詞を聞いた際、余りにも性的すぎるため、ショックを受けた。
しかしマイケルは母に対してこう回答している。

「セックスに対する歌じゃないよ。捉え方は人ぞれぞれだけど。」

”Don't Stop 'Til You Get Enough”は先行シングルとしてもリリースされており、5ヵ国以上の音楽チャートで1位を獲得。
売り上げ枚数も400万枚を超えており、1980年のグラミー賞では最優秀R&B・パフォーマンス賞を受賞している。
また、「マイケル・ジャクソンが初めて自分の意志で自由に作曲した曲」としても有名。
マイケルのファルセット、管楽器のサウンドが輝かしいディスコ・ファンクソングだ。

2曲目”Rock with You”は、ロッド・テンパートン(Rod Temperton)作詞・作曲によるR&Bとポップが融合した楽曲。
ロッドらしいキャッチーなメロディーと、1980年代R&Bを象徴するようなサウンドが特徴だ。
こちらはアルバムの発表から約1ヶ月後にシングルとしてリリース。”Don't Stop 'Til You Get Enough”ほどではないものの、250万枚を売り上げ、1980年にビルボード誌が行った年間ランキングでは7位を獲得している。
ローリングストーン誌のJ・エドワード・キース(J. Edward Keyes)は”Rock with You”を以下のように評している。

「”Rock with You”の素晴らしい点は、どのトラックも出過ぎていないところ。滑らかなストリングセクション、僅かに聴こえるギターのサウンド、マイケルの歌はその上をウインクしながら滑走しているようだ。」

また、音楽評論家のロバート・クリストガウ(Robert Christgau)は"Rock with You”を「スムースなバラード曲」と表現している。

シングルとしてリリースされていないのにもかかわらず、高い人気を博しているのが” Working Day and Night”
ラジオや映画などでも再生されることが多く、またライブでも頻繁に歌われた楽曲だ。
”Working Day and Night”も、マイケル・ジャクソンによる作詞・作曲。
彼が書いた曲の特徴として、リズミカルでダンサンブルな楽曲が多いことが挙げられる。
メロディーももちろん素晴らしいが、”Don't Stop 'Til You Get Enough”、”Working Day and Night”はリズムに重きが置かれており、まさに「歌って踊れるマイケルらしい曲」だといえるだろう。

世界で最も優れたベーシストの1人であるルイス・ジョンソン(Louis Johnson)が作曲に参加したのがディスコ・ナンバー"Get on the Floor"
ルイスはラリー・グラハムと共に、現在では主流となっている「スラップ(チョッパー)双方の始祖」と呼ばれている伝説的ベーシストである。"Get on the Floor"でも、ライスらしいグルーブ感溢れる演奏が堪能できるため、ベーシストは必聴のナンバーだ。

5曲目には、タイトル・ナンバーとなった”Off the Wall”を収録。
作曲はお馴染みのロッド・テンパートンによるものだ。
元はカーペンターズ (Carpenters)のカレン・カーペンター(Karen Carpenter)に提供される予定だったが、彼女がこれを拒否。結果として、マイケルにこの楽曲を託すことになった。
”Rock with You”と同じく、1980年代R&Bを象徴する都会的でスムースなサウンドが特徴。
歌詞はタイトルのとおり、「型破りに生きていく」ことを力強く歌った内容だ。

今作ではカバー曲が2曲含まれており、そのうちのひとつが6曲目の“Girlfriend”
この曲はポール・マッカートニー(Paul McCartney)がマイケルのために書き上げており、本来はマイケルのバージョンが先に発表されるはずだった。しかし、ポールが自身のバンド、ウイングス(Wings)でレコーディングを完成させ、本アルバムの1年前である1978年にリリースしたようだ。
ポールが歌う“Girlfriend”は、アルバム『ロンドン・タウン』(London Town)に収録されている。
暖かいメロディーとサウンドが特徴で、まさに「ポールが作った曲」といった感じだ。
他のナンバーのようにダンサンブルではないが、チークタイムにはぴったりの楽曲と言えるだろう。

トム・バーラー(Tom Bahler)が作曲した"She's Out of My Life"は、7曲目に収録。
トムはこの楽曲をロンダ・リベラ(Rhonda Rivera)という女性と別れた際に作曲している。
クインシーはこの曲をフランク・シナトラ(Frank Sinatra)のためにキープしておいたようだが、マイケルの歌声を聞き、彼に提供することを決めたそうだ。
歌詞の内容は失恋についてのものだが、美しさのあるバラード曲である。

8曲目"I Can't Help It"は、スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)が作曲したジャズの要素を持つR&Bナンバー。彼がそのまま歌っても全く違和感がないほど、スティーヴィー節が炸裂している楽曲だ。
クインシーはこの曲を歌ったマイケルについて、自伝で以下のように語っている。

「私はこれまでにエラ・フィッツジェラルド(Ella Jane Fitzgerald)、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)、サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)など偉大なジャズシンガーと共に仕事をしてきた。マイケルは彼らと同じ才能を持っている。」

R&B歌手パティ・オースティン(Patti Austin)をゲストに迎えたのが9曲目”It's the Falling in Love”
オリジナルはニューヨーク生まれの作詞・作曲家キャロル・ベイヤー・セイガー(Carole Bayer Sager)が作曲したものだ。
キャロルのバージョンは彼女が1978年にリリースしたアルバム『トゥー』(...Too)に収録されている。
自然と耳に入ってくる、美しいメロディーを持つ楽曲だ。

アルバムのラストを飾るのは、グルーブ感溢れるディスコ・ソング"Burn This Disco Out"
この楽曲もロッド・テンパートンが作曲しており、キャッチー&ファンキーなサウンドが特徴。
"Don't Stop 'Til You Get Enough"、”Working Day and Night”と並び、ダンサンブルなナンバーに仕上がっている。

Off The Wall - Credit

パティ・オースティン(Patti Austin)- ボーカル(Track 9)
トム・バーラー(Tom Bahler)- リズムアレンジ(Track 6)、ボーカルアレンジ(Track 9)
マイケル・ボディカー(Michael Boddicker)- シンセサイザー(Track 2)、プログラミング(Tracks 5, 8)
ラリー・カールトン(Larry Carlton)- ギター(Track 7)
パウリーニョ・ダ・コスタ(Paulinho Da Costa)- パーカッション(Tracks 1, 3-5, 8, 10)
ジョージ・デューク(George Duke)- シンセサイザー、シンセサイザープログラミング(Tracks 5, 6)
デイヴィッド・フォスター(David Foster)- シンセサイザー(Tracks 6, 9)、リズムアレンジ(Track 9)
ジム・ギルストラップ(Jim Gilstrap)- バックボーカル(Tracks 1, 4)
ケーリー・グラント(Gary Grant)- トランペット(Tracks 1-6, 8-10)
リチャード・ヒース(Richard Heath)- パーカッション(Track 1)
マーロ・ヘンダーソン(Marlo Henderson)- ギター(Tracks 1, 2, 5, 6, 9, 10)
ジェリー・ヘイ(Jerry Hey)- ホーンアレンジ、トランペット、フリューゲルホルン(Tracks 1-6, 8-10)
キム・ハッチクロフト(Kim Hutchcroft)- バリトンサックス、テナーサックス、フルート(Tracks 1-6, 8-10)
マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)- ボーカル(All tracks)、バックボーカル(Tracks 1-6, 9, 10)、プロデュース(Tracks 1, 3, 4)、パーカッション(Tracks 1, 3)、ボーカルアレンジ(Tracks 1, 3, 4, 6)、リズムアレンジ(Tracks 1, 3)
ランディ・ジャクソン(Randy Jackson)- パーカッション(Track 1)
モートーネット・ジェンキンス(Mortonette Jenkins)- バックボーカル(Tracks 1, 4)
オーギー・ジョンソン(Augie Johnson)- バックボーカル(Tracks 1, 4)
ルイス・ジョンソン(Louis Johnson)- ベース(Tracks 1, 3-10)、リズムアレンジ(Track 4)
クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)- プロデュース(All tracks)、リズムアレンジ(Tracks 4, 6, 9)、ボーカルアレンジ(Tracks 6, 9)
ジョニー・マンデル(Johnny Mandel)- ストリングスアレンジ(Tracks 7, 8)
ポーレット・マクウィリアムス(Paulette McWilliams)- バックボーカル(Tracks 1, 4)
グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)- エレキピアノ(Tracks 1, 3, 5-10)、シンセサイザー(Tracks 1, 2, 5, 8)、クラビット(Track 4)、リズムアレンジ(Tracks 1, 3, 6, 8)
スティーヴ・ポーカロ(Steve Porcaro)- シンセサイザープログラミング(Tracks 6, 9)
ビル・ライヒェンバッハ・ジュニア(Bill Reichenbach Jr.)- トロンボーン(Tracks 1-6, 8-10)
ジョン・ロビンソン(John Robinson)- ドラム(Tracks 1-6, 8-10)、パーカッション(Track 3)
ブルース・スウェーデン(Bruce Swedien)- レコーディングエンジニア、ミックス(All tracks)
ロッド・テンパートン(Rod Temperton)- リズム&ボーカルアレンジ(Tracks 2, 5, 10)
フィル・アップチャーチ(Phil Upchurch)- ギター(Track 3)
ジェラルド・ヴィンチ(Gerald Vinci)- コンサートマスター(Tracks 1, 2, 4, 7, 8)
ボビー・ワトソン(Bobby Watson)- ベース(Track 2)
ワー・ワー・ワトソン(Wah Wah Watson)- ギター(Tracks 4, 6, 9)
デヴィッド・ウォリアムス(David Williams)- ギター(Tracks 1-3, 5, 10)
ラリー・ウィリアムズ(Larry Williams)- テナーサックス、アルトサックス、フルート(Tracks 1-6, 8-10)、アルトサックスソロ(Track 6)
ゼドリック・ウィリアムズ(Zedrick Williams)- バックボーカル(Tracks 1, 4)
ハーク・ボランスキー(Hawk Wolinski)- フェンダーローズ(Track 2)
スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)- リズムアレンジ(Track 8)
ベン・ライト(Ben Wright)- ストリングスアレンジ(Tracks 1, 2, 4)

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