レッチリが発表した作品の中で、ここ日本で最も知名度の高いアルバム。それが今回紹介する『バイ・ザ・ウェイ』(By the Way)だ。
ドラック中毒から復活したジョンを向かえ、リリースされた前作『カリフォルニケイション』(Californication)は、現在までに1,500万枚の売上を突破している名盤中の名盤。
しかし、「日本国内の知名度」という点においては、7thアルバムの約3年後に発表された『バイ・ザ・ウェイ』(By the Way)の方が優位に立っている。
この大きな理由として挙げられるのが「前作より更にポップで、メロディアスな楽曲が並んでいる」という点だろう。
そしてこの原因となったのが、ギタリストのジョン・フルシアンテ(John Frusciante)である。
これまでのアルバムと違い、今作の楽曲製作や方向性は、ほとんどジョンに委ねられていた。
ジョンが目標としていたのは、次の新作を2種類の異なるタイプの音楽で構成することである。
まずひとつが、”イギリスらしさ”のあるメロディアスな楽曲。
これについては、ビーチ・ボーイズ(The Beach Boys)やビートルズ(The Beatles)の音楽、またドゥーワップ・グループのハーモニーを参考にしたようだ。
そしてもうひとつが、パンク・ロックのサウンドが強調された楽曲。
こちらについても、ジョンは参考にしたバンドを二つ挙げている。
まずは、セックス・ピストルズ(Sex Pistols)、ザ・クラッシュ(The Clash)と並び、三大パンク・バンドの一つとして有名なダムド (The Damned)。
そしてイギリスのハードコア・パンクバンド、ディスチャージ(Discharge)。
『バイ・ザ・ウェイ』(By the Way)の製作にあたり、ジョンがインスピレーションを受けたバンドを見てみると、今作はUKロックから大きな影響を受けていることが分かる。
そしてそれこそが、これまでのアルバムよりも”ポップでメロディアス”な理由だろう。
また、エフェクターを多用した分厚い音作りも忘れてはならない。
今作において、ジョンは感情的で、心に訴えるような音作りを目指していた。
そこで参考にしたギタリストが、ヴィニ・ライリー(Vini Reilly)とジョン・アレクサンダー・マッギオーク (John Alexander McGeoch)である。どちらもイギリス出身のギタリストだ。
ジョンが『バイ・ザ・ウェイ』(By the Way)で見せるディレイ、ワウ、コーラスなど多種多様なサウンドにも、是非注目してもらいたい。
レッチリはジョンを中心に新しいスタイルへ進んでいくことになるが、これをよく思わない人物が一人いた。ベーシストのフリー(Flea)である。
フリーは8枚目となるアルバムを「これまで通りファンク・スタイルでの作品にしたい」と考えていた。
しかし、ジョンは「ファンク・スタイルの追究はやり尽くしたから、新しいスタイルで音楽を作りたい」という気持ちが強かったようだ。
結果、前述したとおり楽曲製作の中心となったのはギタリストのジョン・フルシアンテ。
ベーシストのフリーの意見はあまり聞いてもらえず、この時期はバンドを離れることも考えていたという。
2006年のインタビューにて、フリーは以下のように語っている。
「ジョンは『バイ・ザ・ウェイ』(By the Way)を作る時、芸術的手腕を存分に発揮していた。でもそれは”僕から提供できるものは、何もない”って言われているみたいだった。」
ここで疑問に浮かぶのは、「ジョンはバンドリーダーでないのにもかかわらず、なぜ楽曲製作の中心となったのか?」である。
これは憶測だが、恐らく「メンバー内で、ジョンの作曲センスが最も優れているから」だと思う。これまでにジョンが作曲に参加したアルバムは、全て結果を残しているのだ。
『母乳』(Mother's Milk)、『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』(Blood Sugar Sex Magik)、『カリフォルニケイション』(Californication)など、どれも歴史に残る名盤と言えるだろう。
フリーも最高のベーシストの一人ではあるが、作曲という点においては、ジョンに意見するのが難しい立場だったのかも知れない。
この記事だけを読むと、「ジョンとフリーは仲が悪いのか」と思う方もいるかもしれないが、そんなことはない。
二人の関係は良好で、今作以前に薬物依存でバンドを離れたジョンを呼び戻したのもフリーである。
現在も二人はプレイヤーとしてだけでなく、プライベートでも仲良くしているとのことだ。
レコーディングもジョンを中心に行われ、エマーソン・レイク・アンド・パーマー (Emerson, Lake & Palmer)の音楽を聞ききながら進めていった。
結果、これまでのスタイルとは違う、ポップ色の濃くなったファンク・ロック・スタイルのアルバムが誕生したのだ。
2002年9月に発売された『バイ・ザ・ウェイ』は、アメリカ国内のみで初週280,000枚、世界では180万枚の売上を記録。アメリカはもちろん、イギリス、カナダ、ドイツなど10か国以上の音楽チャートで1位を獲得することとなった。
また、UKアルバム・チャートでも遂に初となる1位を獲得。これはUKロックに影響を受けた作品であることが大きな理由だろう。(世界でのトータルセールス枚数は『カリフォルニケイション』(Californication)の方が多いものの、UKアルバム・チャートでは5位)
その後も順調に売り上げを伸ばし続け、現在までに約1,000万枚のトータルセールス枚数を記録している。
By the Way - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | By the Way | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:37 |
2. | Universally Speaking | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 4:19 |
3. | This Is the Place | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 4:17 |
4. | Dosed | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 5:12 |
5. | Don't Forget Me | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 4:37 |
6. | The Zephyr Song | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:52 |
7. | Can't Stop | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 4:29 |
8. | I Could Die for You | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:13 |
9. | Midnight | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 4:55 |
10. | Throw Away Your Television | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:44 |
11. | Cabron | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:38 |
12. | Tear | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 5:17 |
13. | On Mercury | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:28 |
14. | Minor Thing | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 3:37 |
15. | Warm Tape | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 4:16 |
16. | Venice Queen | John Frusciante, Anthony Kiedis, Flea, Chad Smith | 6:07 |
By the Way - Credit
アンソニー・キーディス(Anthony Kiedis)- リードボーカル
ジョン・フルシアンテ(John Frusciante)- ギター、リードボーカル、ピアノ、キーボード、シンセサイザー、アディショナルベース(Track 5)
フリー(Flea)- ベース、トランペット、ハーモニカ、バックボーカル、アップライトベース(Track 11)、アディショナルギター(Track 4)
チャド・スミス(Chad Smith)- ドラム、パーカッション、タンバリン