『アーティストリー』(Artistry)は、マーティン・テイラー(Martin Taylor)が1992年にリリースしたジャズギター・ソロアルバム。
本アルバムはHMVジャズ・チャートにて12週に渡り1位を獲得し、マーティンを「世界のジャズ・ギタリスト」へ押し上げることとなった彼の出世作である。
マーティン・テイラー(Martin Taylor)は1956年10月20日、ロンドンの北東約30キロに位置するハーロウ出身のギタリスト。
4歳から父親からギターを譲り受け、8歳になる頃には既に父親のバンドで演奏を開始していたそうだ。
ちなみにマーティンの父親、バック・テイラー(Buck Taylor)は時折ジャンゴ・ラインハルトが在籍していたフランス・ホット・クラブ五重奏団(The Quintet of the Hot Club of France)で演奏を行っていたほどの実力者である。
この影響から、マーティンもジャンゴの影響を大きく受けたスタイルでプレーをしていた。
15歳になるとレニー・ヘイスティングス(Lennie Hastings)のバンドに加入し、プロギタリストとしての活動を開始。ここでニック・スティーヴンソン(Nick Stevenson)、ジョージ・チザム(George Chisholm)、ベリル・ブライデン(Beryl Bryden)など著名なミュージシャン達と腕を磨いていくこととなる。
その後も様々なバンドで自身の実力を遺憾なく発揮し、数年後にはカウント・ベイシー楽団(Count Basie Orchestra)とも共演。この頃に出会ったアイク・アイザックス(Ike Isaacs)とは意気投合し、マーティンは彼を師と崇めた。
マーティンはフィンガー・スタイルでのプレイを得意としているが、これはアイクが彼に授けた技術のひとつのようだ。
父親が演奏していたこともあってか、遂にはステファン・グラッペリ(Stéphane Grappelli)が指揮を取るフランス・ホット・クラブ五重奏団にも声が掛かることになる。ここでレジェンド・バイオリニストとの11年もの時を共に過ごし、20枚以上のアルバムを彼とこの世に生み出した。
ステファンとの活動が成功し、マーティンは自身の作品を追及するためにスコットランドへ拠点を移動。この間もフランス・ホット・クラブ五重奏団でのプレイは継続しており、アメリカ―ツアーで出会ったチェット・アトキンス(Chester Atkins)、デビッド・グリスマン(David Grisman)とはレコーディングも共に行っている。
ここまで順調にプロ活動が進んでいたマーティンだったが、1980年代後半は少し苦しい時期を過ごしていたようだ。
リーダーであるステファンが体調不良により、フランス・ホット・クラブ五重奏団での活動が困難な状況に陥ってしまう。これにより収入源が無くなってしまったマーティンは、自身のギターを売却しながら生計を立てるまでに追い込まれていた。
その頃は精神的にも苦しんでおり、約1年ギターを触ることすらできなかったという。
ある日、マーティンは最後の残ったギター、師であるアイクが彼に託したギターを売りに出そうとしていた。その道中、マーティンは車を止め何気なくそのギターを演奏してみたそうだ。すると音楽への情熱が溢れ出し、そのギターを売ることを止め、再び音楽へ向き合うことを決意。ここからマーティンのリーダー活動が本格的に始まっていくこととなる。
1990年に入り、マーティンは経済的な面からソロ活動を中心に開始。(他のメンバーがいないことにより、ギャラが分割されないため…)
「マーティン・テイラーと言えばソロ・ギター」と考える方が多いだろうが、実はこういった少し切ない理由があったらしい。
窮地に陥った彼だが、このあたりから”マーティン・テイラーの真の実力”が発揮されていくこととなる。
そしてその高い技術と表現力が詰め込まれたアルバムが、今作『アーティストリー』(Artistry)なのだ。
前述したとおり、このアルバムは「ジャズギター・ソロアルバム」である。
しかし、この作品はジャズギターに興味が無い人にも是非聞いていただきたい。
なぜならば、イギリス出身のマーティンらしい上品さに溢れ、洗練されたアコースティックなサウンドが輝く美しい作品だからだ。
「ジャズギター・アルバム」というだけでこの作品を敬遠するのはもったいなすぎる。
ギタリストはもちろん、生楽器の美しいサウンドを好む人であればきっと気に入ってくれることだろう。
マーティン・テイラーというギタリストが世界へ羽ばたくきっかけとなった『アーティストリー』(Artistry)。
是非あなたの耳で確かめてみてほしい。
Artistry - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Polka Dots and Moonbeams | Johnny Burke, James Van Heusen | 8:04 |
2. | Stella by Starlight | Victor Young | 4:38 |
3. | Teach Me Tonight | Gene De Paul | 3:08 |
4. | The Dolphin | Luiz Eça | 5:46 |
5. | Georgia on My Mind | Hoagy Carmichael, Stuart Gorrell | 4:58 |
6. | They Can't Take That Away from Me | George Gershwin | 3:50 |
7. | Here, There and Everywhere / Day Tripper | The Beatles | 4:50 |
8. | Just Squeeze Me (But Don't Tease Me) | Duke Ellington | 3:18 |
9. | Gentle Rain | Luiz Bonfá | 3:49 |
10. | Cherokee | Ray Noble | 3:29 |
11. | A Certain Smile | Sammy Fain | 4:09 |
Artistry - Credit
マーティン・テイラー(Martin Taylor)- ギター