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第1回グラミー賞を受賞したビッグバンドの名盤『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)- カウント・ベイシー楽団(Count Basie Orchestra)

『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)- カウント・ベイシー楽団(Count Basie Orchestra)

『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)は、カウント・ベイシー(Count Basie)率いるカウント・ベイシー楽団がリリースしたアルバムである。

1958年に発表された今作は、翌年から開始されたグラミー賞にて「最優秀ジャズ・インストゥルメンタル・アルバム賞」「最優秀パフォーマンス賞ダンス音楽オーケストラ部門」を獲得。
ベイシーはこの世を去る1984年までにグラミー賞を9回受賞しているが、その中で唯一2部門での受賞を達成したのが、今回紹介する『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)だ。

カウント・ベイシーは1936年からカウント・ベイシー楽団(Count Basie Orchestra)としての活動を開始。
経営不振により1945年に一時解散しているものの、フレディ・グリーン(Freddie Green)、フランク・フォスター(Frank Foster)、サド・ジョーンズ(Thad Jones)らと1951年から再び活動を再開している。

その後、彼らは『エイプリル・イン・パリ』(April in Paris)『ストレート・アヘッド』(Basie Straight Ahead)、『ベイシー・イン・ロンドン』(Basie in London)など数多くの「ジャズの名盤」を誕生させ、ビッグバンド界に欠かせない存在となった。

もちろん、この『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie) も「歴史に残るジャズの名盤」のひとつとして数えられているわけだが、今作には特筆すべき点がひとつある。
それは、「カウント・ベイシーとニール・ヘフティが、初めて本格的に手を組み制作したアルバム」というところだ。

ニール・ヘフティ(Neal Hefti)は、1922年10月29日生まれのトランペット奏者兼、作曲家・編曲家。
アレンジャーとして有名なヘフティではあるが、元はトランペッターであり、11歳からトランペットを開始している。
最も感銘を受けた奏者として挙げているのは、ディジー・ガレスピー(Dizzy Gillespie)、ハリー・エディソン(Harry Edison)の両名。
彼らを「最もユニークなトランペット奏者」して高く評価しており、「大きな感銘を受けた」とも語っている。

作曲・編曲を開始したのは17歳の時で、地元で活動していたミッキー・マウス・バンドのアレンジを行うなどしていたそうだ。

1944年、ヘフティはウディ・ハーマン (Woody Herman)率いるバンドへ加入し、トランぺッターとして活躍。
ここで「本物のジャズ」を2年間体感し、1946年から遂にフリーランスのアレンジャーとしての活動を開始する。
その後、彼はバディ・リッチ(Buddy Rich)、ビリー・バターフィールド(Billy Butterfield)、ジョージー・オールド(George Auld)、チャーリー・ヴェンチュラ(Charlie Ventura)など著名なミュージシャンへ楽曲を提供。
作曲家・編曲家としての高い能力を遺憾なく発揮し、大きな注目を集めていった。

ヘフティがカウント・ベイシーと出会ったのは、1950年代。
彼らはここから約20年にわたり、共に作品を制作することになる。
そしてその最初期に誕生したのが 『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie) なのだ。

このアルバムに収録されている11曲は、全てニール・ヘフティが作曲・編曲を行ったもの。
オール・ミュージック(All Music)のブルース・エダー(Bruce Eder)は「本作により、ベイシーは多くのコアなファンを獲得することに成功した」と評価しているが、この意見には私も賛成だ。
ヘフティの楽曲はキャッチーで品のあるメロディーラインを特徴としているものが多く、今作でも聞き心地のよい楽曲が多く並んでいる。
このアルバムでカウント・ベイシー楽団を知り、このバンドにハマったという方も多いだろう。

それではここから『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)に収録された楽曲達を紹介していこう。

The Atomic Mr. Basie - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Kid from Red BankNeal Hefti, Count Basie2:38
2.DuetNeal Hefti4:10
3.After SupperNeal Hefti3:22
4.Flight of the Foo BirdsNeal Hefti3:21
5.Double-ONeal Hefti2:45
6.Teddy the ToadNeal Hefti3:40
7.WhirlybirdNeal Hefti3:46
8.Midnite BlueNeal Hefti4:25
9.SplankyNeal Hefti3:35
10.FantailNeal Hefti2:50
11.Li'l Darlin'Neal Hefti4:47

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、軽快でゴージャスにスウィングする"Kid from Red Bank"
カウント・ベイシー楽団では珍しく、ベイシーのピアノ・サウンドがフューチャーされているのが特徴だ。
この楽曲のみ、ニール・ヘフティの他にカウント・ベイシーの名も作曲者としてクレジットされている。

2曲目に並んだのは、落ち着いたサウンドを基調とした"Duet"
ベイシーはこの楽曲を気に入っており、1957年以降頻繁にライブで演奏している。
このレコーディングでフューチャーされているのは、トランペット奏者のサド・ジョーンズ(Thad Jones)、ジョー・ニューマン(Joe Newman)。
ミュートされたトランペットが心地よいサウンドを奏でており、トランぺッターには是非お勧めしたいナンバーだ。


3曲目"After Supper"は、ブルース進行を基調としたスローテンポの楽曲。
ソロはテナーサックスが担当しているが、全体を通して控えめな演奏となっている。

トランペット・セクションが存分にフューチャーされたのが、4曲目に並んだ"Flight of the Foo Birds"
タイトルが示すとおり、鳥達が元気よく飛び回っているようなメロディーとリズムが特徴のナンバーだ。
カウント・ベイシー楽団の楽曲の中でも人気が高く、プロアマ問わず世界中のビッグバンド楽団が好んで演奏する楽曲でもある。

オール・アメリカン・リズム・セクションの軽快なビートから始まる"Double-O"は、5曲目に収録。
シンプルな曲構成だが、それ故にビッグバンドの"豪快さ"や"煌びやかさ"が感じられるナンバー。

6曲目"Teddy the Toad"も、"After Supper"と同じくブルース進行を基調とした楽曲。
こちらは全体を通してトロンボーン・セクションがフューチャーされているのが特徴だ。

アップテンポでダンサンブルなリズムが心地よい楽曲が、7曲目"Whirlybird"
この楽曲もカウント・ベイシーお気に入りで、ライブで頻繁にコールしていたナンバーである。

8曲目"Midnite Blue"は、ムーディーな雰囲気を持つブルース進行の楽曲。
"Midnight"ではなく"Midnite"なのは、ニール・ヘフティ(もしくはカウント・ベイシー?)の遊び心だろうか。
1950年代の空気感を音楽で味わいたい方にお勧めしたいチューン。

9曲目に並んだ"Splanky"は、キャッチーなメロディーが特徴のブルース・ナンバー。
こちらも非常に人気の高い楽曲で、サミー・ネスティコ(Sammy Nestico)、角田健一を始め、数々の作曲・編曲家がアレンジをした譜面が発売されている。
ビッグバンド楽団に所属する方であれば知っておいて損はない楽曲だろう。

ホーンセクションが掛け合いが気分を高揚させる"Fantail"は、10曲目に収録。
このアルバムでは珍しくドラムがフューチャーされており、ソニー・ペイン(Sonny Payne)の力強いドラミングを感じることができる。

『アトミック・ベイシー』(The Atomic Mr. Basie)で最も有名な楽曲が、アルバムのラストを飾る"Li'l Darlin'"だろう。
世界中で広く愛されている楽曲であり、ザ・ジャズ・ディスコグラフィ調べでは、2019年までになんと324回レコーディングされた曲らしい。
"Li'l Darlin'"が愛される理由は、そのメロディーの美しさにある。
ニール・ヘフティの楽曲らしく、品があり楽譜の上を流れるようなメロディーラインなのだ。
ビッグバンド編成だけでなく、コンボ編成やソロ演奏でも頻繁に選曲されており、ジョー・パス(Joe Pass)、ジョージ・ベンソン(George Benson)、バーニー・ケッセル(Barney Kessel)、ケニー・バレル(Kenny Burrell)らもレコーディングを行っている。

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