その高い表現力と演奏技術により、「現代のジャンゴ・ラインハルト」と称されているギタリスト、ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)。
1930年代にジャンゴが確立したジプシージャズ・スタイルでの演奏を得意とし、幼少の頃から頭角を現していた。10代後半からはフュージョンやコンボでの活動が中心となったが、2000年頃から再びジプシージャズ・スタイルへ回帰。2001年にフランス・ホット・クラブ五重奏団を彷彿とさせる編成で『ジプシー・プロジェクト』(Gipsy Project)をリリースした。
それまで本格的なジプシージャズ・スタイルでのアルバムはリリースしていなかったビレリ。多くのファンが待ち望んでいた”ジャンゴ一色”のこのジャズ・アルバムは、各方面から高い評価を獲得。ビレリの「ジャンゴ後継者」としての地位を確固たるものにした。
その1年後には勢いそのままに、プロジェクト第二弾である『ジプシー・プロジェクト&フレンズ』(Gipsy Project & Friends)をリリース。第一弾と同様、ジャンゴが作曲したナンバーやカバーした曲を中心に構成されており、こちらもビレリ作品の中で人気のアルバムとなった。
そして2004年に発表した作品が、ジプシー・プロジェクト第三弾目となる『ムーブ』(Move)である。
前述した2作品同様、今回もジプシージャズの名曲達を収録。しかし今回のアルバムは、ジャンゴ色を残しつつ、”ビレリ・ラグレーンスタイル”も表現された作品に仕上がっているのだ。
これまでのプロジェクト作品では一貫してセルマー/マカフェリ・タイプのギターのみを使用していたビレリ。今作では、”Mimosa”、”Place du Tertre”の2曲で自身の得意としているエレキギターでの演奏を行っている。ギターの音色から推測すると、使用しているのは恐らくGibson L-5。
余談ではあるが、エレキギターでジャズを演奏する点で言えば、ビレリの表現力・演奏技術はジャンゴのそれを凌駕していると思う。
ジャンゴは36歳になる年に初めてエレキギターを手にし、何曲かエレキギターでレコーディングを行っている。しかし、エレキギターではジャンゴの良さである”歌心あるメロディーとフレージング”が上手く表現出来ていない。やはりジャンゴの真骨頂は、マカフェリ・ギターによる演奏ではないだろうか。
その点、ビレリはエレキギターをマカフェリ・ギターと同じレベルで演奏することが出来る。むしろ20代の頃はエレキギターで収録されたアルバムの方が多いぐらいだ。速弾きギタリストとして紹介されていることも多く、ジャズ界隈以外でも知名度は高めかもしれない。(ビレリの魅力は速弾きではないため、不本意ではあるが…)
もちろん、ジプシージャズの名曲である”Troublant Bolero”、”Hungaria”、”Mélodie au Crépuscule”や、フランス全土で愛された”Nuages”も収録。
また、ジャズスタンダードとして世界中で愛されている”Cherokee”も含まれている。多くのミュージシャンがカバーしている名曲であるが、個人的にビレリのこのバージョンがベストテイクだと思う。
また、今作はバイオリニストのフローリン・ニクレスク(Florin Niculescu)に代わり、サックス奏者のフランク・ウルフ(Franck Wolf)が参加。収録曲のメロディーの大半は彼のソプラノサックスで演奏されている。フランクの洗練されたサウンドが追加されたことにより、これまでの作品に比べ、更に上品に。ソプラノサックスのサウンドを楽しみたい人にもお勧めできるだろう。
全体的にオシャレな楽曲が多いため、ジプシージャズを愛する人でなくとも楽しめる作品となった。カフェやバーでも是非プレイしてほしい名盤、それがビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)の『ムーブ』(Move)だ。
Move - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Un Certain Je Ne Sais Quoi | Diego Imbert | 3:25 |
2. | Mélodie au Crépuscule | Django Reinhardt | 2:42 |
3. | Hungaria | Django Reinhardt | 2:52 |
4. | Clair de Lune | Joseph Kosma | 4:41 |
5. | Place du Tertre | Biréli Lagrène | 4:54 |
6. | Troublant Bolero | Django Reinhardt | 4:31 |
7. | Move | Denzil Best, Paul Walsh | 2:52 |
8. | Nuages | Django Reinhardt | 4:58 |
9. | Cherokee | Ray Noble | 4:26 |
10. | Danse Norvégienne | Django Reinhardt | 5:21 |
11. | This Can't Be Love | Lorenz Hart, Richard Rodgers | 4:10 |
12. | Victor | Frank Wolf | 3:15 |
13. | Mimosa | Dorado Schmitt, Hono Winterstein | 3:19 |
14. | Jadis | Biréli Lagrène | 2:46 |
Move - Credit
ビレリ・ラグレーン(Biréli Lagrène)- ギター
ホノ・ヴィンターシュタイン(Hono Winterstein)- ギター
ディエゴ・インベルト(Diego Imbert)- アップライトベース
フランク・ウルフ(Franck Wolf)- ソプラノ、バリトン、テナーサックス