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2000年代を代表するビッグバンドのデビュー・アルバム『Swingin' for the Fences』- ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド(Gordon Goodwin's Big Phat Band)

『スウィンギン・フォア・ザ・フェンスィーズ』(Swingin' for the Fences)- ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド(Gordon Goodwin's Big Phat Band)

『スウィンギン・フォー・ザ・フェンスィーズ』(Swingin' for the Fences)は、ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド(Gordon Goodwin's Big Phat Band)が2001年にリリースした1stアルバムである。

まずはこの作品を語るにおいて欠かせない音楽家、ゴードン・グッドウィンという人物について説明しておこう。            

ゴードン・グッドウィン(Gordon Goodwin)は、1954年アメリカ合衆国のカンザス州生まれの作曲家・ピアニスト・サックス奏者。
幼少期からピアノを演奏しており、13歳になる頃にはビッグバンドの譜面を作成していた。
高校卒業後はカリフォルニア大学へ入学し、ジョエル・リーチ(Joel Leach)、ビル・カルキンズ(Bill Calkins)を師事。
大学卒業後はカリフォルニア州にあるディズニーランドへ就職し、プロフェッショナルとしての活動を開始する。

ディズニーランドではミッキーマウス・クラブ用の作曲を依頼されるなど、演奏家としてだけでなく作曲家・編曲家としても活躍していたゴードン。
その後は伝説のジャズ・ドラマー、ルイ・ベルソン(Louie Bellson)が率いるビッグバンドにテナーサックス奏者として入団。
ここではピート・クリストリーブ(Pete Christlieb)、ドン・メンザ(Don Menza)らと活動を共にし、腕を磨いていった。

作曲家・編曲家として高い評価を集め始めていたゴードンは、ここから映画やテレビの音楽も担当。
1978年には『アタック・オブ・ザ・キラー・トマト』(Attack of the Killer Tomatoes!)の音楽も制作し、現在では彼の代表作にもなっている。
※ちなみにこの楽曲はゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンドの3rdアルバム『ザ・ファット・パック』(The Phat Pack)に収録

そして1999年、ゴードンは遂に自身のバンドであるゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド(Gordon Goodwin's Big Phat Band)を結成。
彼はこのバンドで非常に豪華な面々を揃えている。
まず、トランペットには西海岸きってのハイノート・ヒッターであるウェイン・バージェロン(Wayne Bergeron)。
続けて、トロンボーンには同じく西海岸で活躍している売れっ子ミュージシャン、アンディ・マーティン(Andy Martin)。
サックスには、日本のコットンクラブ等でもライブを行っているエリック・マリエンサル(Eric Marienthal)が参加していることも忘れてはならない。
リズム隊にもブライアン・セッツァー・オーケストラ出身のドラマー、バーニー・ドレセル(Bernie Dresel)や、グッドウィンと共に活動していたギター奏者グラント・ガイスマン(Grant Geissman)と、まさにビッグバンド界のオールスターとも言える実力派ミュージシャンばかり。
この素晴らしいメンバーを集結させ、発表したアルバムが、今回紹介する『スウィンギン・フォー・ザ・フェンスィーズ』(Swingin' for the Fences)である。

この作品は、1930年代から続く伝統的なビッグバンド・スタイルを基調にフュージョン・ファンク・サンバ・ロックなど様々な要素が混在。
サミー・ネスティコ(Sammy Nestico)、デューク・エリントン(Duke Ellington)らとは異なるモダンな編曲が多く、「新しいビッグバンドのスタイルを提示した作品」と呼べるだろう。

収録曲もリスナーを飽きさせないエンターテイメント性の高い楽曲がズラリと並んでおり、ビッグバンド好きならまず購入して後悔することはない。

それではここから 『スウィンギン・フォー・ザ・フェンスィーズ』(Swingin' for the Fences) の収録曲について解説していこう。

Swingin' for the Fences - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Sing, Sang, SungGordon Goodwin5:35
2.Count BubbaGordon Goodwin7:33
3.Samba Del GringoGordon Goodwin6:59
4.Bach Two-Part Invention in D minorJohann Sebastian Bach7:50
5.I RememberGordon Goodwin5:49
6.Swingin' for the FencesGordon Goodwin5:08
7.Mueva Los HuesosGordon Goodwin4:52
8.Second ChancesGordon Goodwin5:04
9.There's the RubGordon Goodwin5:46
10.A Few Good MenGordon Goodwin5:33

Background & Reception

1曲目”Sing, Sang, Sung”はタイトルからわかるように、ベニー・グッドマン(Benny Goodman)楽団がプレイし、有名となった”Sing, Sing, Sing”のパロディ的な楽曲。
注目はなんといっても超絶技巧のクラリネットソロ。
楽譜の上を滑るようなフレージングは、クラリネットならではの軽快さが存分に活かされている。
また、”Sing, Sing, Sing”と同じくトランペットソロも用意されており、こちらも必聴。
グラミー賞「最優秀インストゥルメンタル作曲賞」にもノミネートされた、2000年代を代表するビッグバンド・ソングだ。

軽快にスウィングしながら進行する2曲目"Count Bubba"も、ビッグバンド好きにはおすすめの楽曲。
サックス、トロンボーン、トランペットとセクションソロが流れていく小節は、ユーモア溢れたゴードンらしいアレンジと言えるだろう。
7分を超える演奏時間の長い曲ではあるが、聞き手を飽きさせないモダン・ジャズらしいアレンジが随所に施されている。
ちなみではあるが、よく学生ビッグバンドが好んで演奏するナンバーでもある。

3曲目"Samba Del Gringo"は、タイトルが示すとおりダンサンブルなリズムと、太陽のように明るいメロディーが特徴。
タイトルを翻訳すると「外国人のサンバ」となるらしいが、これはアメリカ人であるゴードンがブラジル発祥のサンバを作曲したために自虐的に付けたのだろう。
本場のサンバよりもすっきりとした印象があり、癖がないために世界中のビッグバンドから好んで演奏されている楽曲となっている。

4曲目には、今作唯一のカバー曲であるヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach)の”Bach Two-Part Invention in D minor”を収録。
元はクラシック曲ではあるものの、ゴードンのアレンジにより、哀愁漂うビッグバンド・ソングへ変貌している。
美しく、そしてスウィング感の溢れるメロディーとサウンドに注目してほしい。
こちらも”Sing, Sang, Sung”と同じく、グラミー賞「最優秀インストゥルメンタル編曲賞」にノミネートされるなど、高い評価を獲得している。

5曲目"I Remember"は、スムースジャズの要素が強く感じられるボサノバ調のナンバー。
ビッグバンドらしい煌びやかなアレンジは控えめだが、代わりに落ち着いたサウンドが心地よい楽曲だ。
サックスセクションはフルートへの持ち替えがあるため、どちらも演奏できる人にとってはよい腕試しになるだろう。

タイトル・ナンバーにも選ばれた6曲目"Swingin' for the Fences"は、あるジャズ・スタンダードのパロディ的楽曲だが、皆様は気づくことが出来ただろうか。
そう、このチューンは1925年にベン・バーニー(Ben Bernie)によって作曲された"Sweet Georgia Brown"をアレンジしたものになっているのだ。
オリジナルと同じく軽快にスウィングした楽曲だが、それに加え「2000年代のビッグンバンドらしいモダンさ」も兼ね備えている。

哀愁漂うラテン調のナンバーが、7曲目に並んだ"Mueva Los Huesos"
ここではハイノートヒッターであるウェイン・バージェロン(Wayne Bergeron)のサウンドがここぞとばかりに強調されている。
特にトランぺッターであれば、彼が如何に難しい音域を熟しているかが分かるはずだ。
もちろん編曲も素晴らしいため、ビッグバンド好きにはお勧めの楽曲。

8曲目"Second Chances"も、"I Remember"と同じくスムースジャズの要素を強く持つ6拍子の楽曲。
ここではソプラノサックスの美しいサウンドがフューチャーされており、他の曲にはない幻想的な雰囲気がある。
あまり注目されることはないが、映画音楽も熟すゴードンだからこその作曲力・編曲力を感じるナンバー。

アルバム中最もファンキーな楽曲が、9曲目"There's the Rub"
ベースとドラムのグルーブ感溢れるサウンドが上手く絡み合っており、その上を流れるホーンセクションも素晴らしい。
ビッグバンドとファンクミュージックが好きな方にはたまらないナンバー。

アルバムのラストを飾るのは、ポップなサウンドが強調された10曲目"A Few Good Men"
アニメチックで可愛らしいアレンジが施されており、それにビッグバンドが持つ煌びやかさが見事に融合している。
こちらも映画やテレビの音楽を担当していたゴードン・グッドウィンならではの楽曲だ。

Swingin' for the Fences - Credit

ゴードン・グッドウィン(Gordon Goodwin)- アレンジ、テナーサックス、ピアノ
ウェイン・バージェロン(Wayne Bergeron)- トランペット
グレッグ・ビソネット(Gregg Bissonette)- ドラム
バーニー・ドレセル(Bernie Dresel)- ドラム
ジム・コックス(Jim Cox)- ピアノ
ダニエル・ファリアス(Dennis Farias)- トランペット
グラント・ガイスマン(Grant Geissman)- ギター
ゲイリー・グラント(Gary Grant)- トランペット
ラリー・ホール(Larry Hall)- トランペット
ジェームス・ハーラー(James Harrah)- ギター
ダン・ヒギンズ(Dan Higgins)- サックス、ウッドウィンド
スティーブン・ホルトマン(Steven Holtman)- トロンボーン
グレッグ・ハッキンス(Greg Huckins)- ウッドウィンド
アレックス・イリス(Alex Iles)- トロンボーン
ビル・リストン(Bill Liston)- ウッドウィンド
サル・ロザノ(Sal Lozano)- ウッドウィンド
エリック・マリエンサル(Eric Marienthal)- サックス
アンドリュー・マーティン(Andrew Martin)- トロンボーン
ジョン・ペナ(John Pena)- ベース、ピアノ
トム・レイナー(Tom Ranier)- ピアノ
ビル・ライヒェンバッハ(Bill Reichenbach Jr)- トロンボーン
アルトゥーロ・サンドヴァル(Arturo Sandoval)- トランペット
ダン・サヴァント(Dan Savant)- トランペット
デイブ・ストーン(Dave Stone)- ベース
カール・ヴァーヘイエン(Carl Verheyen)- ギター
クレイグ・ウェア(Craig Ware)- トロンボーン

ゴードン・グッドウィン(Gordon Goodwin)氏のコメント

僕はいつも「ビッグ・バンドは、世界で最もクールな音楽」だと考えている。
“それ”を初めてきいたのは中学生の時で、17人の演奏家が奏でるサウンドに心が共鳴した。
以来、僕にとってビッグ・バンドは「生涯を掛けて愛する音楽ジャンルのひとつ」となった。
もちろん、ロックやクラシックも勉強したし、そのおかげで作曲家として生計を立てることが出来ている。
しかし、僕のビッグ・バンドに対する情熱は全く衰えていない。

今回、僕は「世紀の変わり目に存在する、僕なりの芸術作品」を製作する機会を得た。
このアルバムは、伝統あるビッグ・バンドに敬意を払ったものにしたいと考えていたんだ。今回共演したファンタスティックなミュージシャン達とのレコーディングは、凄くワクワクしたよ!

このプロジェクトを実現にあたって、沢山の人が協力してくれた。
まず、素晴らしいレベルで演奏をしてくれたミュージシャン達。
彼らの楽才と友情には本当に感謝している。
またエンジニアのトミー・ヴィカリ(Tommy Vicari)は、僕がこれまでに聞いたことのない、パンチがあってクリアなビッグ・バンドのサウンドを生み出してくれたんだ。
プロデューサーのジョン・ベイカー(John Baker)とダン・サーヴァント(Dan Savant)も、作品の製作には不可欠な存在だった。本当にありがとう。

本アルバムのグッズのほとんどは、僕の奥さんであるリサ(Lisa)が作ってくれたものなんだ。ありがとう、ハニー!
また、僕の子供達マディソン(Madison)、トレヴァー(Trevor)、ガリソン(Garrison)もよく働いてくれたよ。ありがとう息子たち!

最後に、ジョン・トリケット(John Trickett)、5.1エンターテイメント・グループ(5.1 Entertainment Group)にも大きな感謝を送りたい。

2000年1月

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