『バックワーズ・コンパティブル』(Backwards Compatible)は、エイトビット・ビッグバンド(The 8-bit Big Band)が2021年1月8日にリリースしたサード・アルバムである。
ニューヨークで活躍するプロ・ミュージシャンで構成されたグループ、エイトビット・ビッグバンド(The 8-bit Big Band)。
2018年から本格的に活動を開始し、同年にファースト・アルバム『プレス・スタート!』(Press Start!)をリリース。この作品が高い評価を獲得し、ビッグバンドというニッチな業界ながら、世界中に多くのファンを持つグループへと成長した。
彼らの最大の特徴は「ゲーム音楽にビッグバンド・アレンジを加えた楽曲のみを演奏している」ことだ。
このアレンジの能力が素晴らしく、どの楽曲をオリジナルに勝るとも劣らない高いクオリティーを誇っている。
それもそのはず、このアレンジを行っているのは、ニューヨークのブロードウェイ劇場で奏者・編曲者として活躍しているチャーリー・ローゼン(Charlie Rosen)なのだ。
チャーリーは1990年生まれのピアノ、ベース、ギター、アレンジャーとして活動しているマルチ・プレイヤー。
15歳の頃からプロ・ミュージシャンとして活動しており、その数年後にはブロードウェイ劇場で活躍していたという。
2018年に自身でエイトビット・ビッグバンド(The 8-bit Big Band)を結成して以降、その名を「ゲーム業界」にも広げつつある実力派ミュージシャンである。
サード・アルバムとなった『バックワーズ・コンパティブル』(Backwards Compatible)では、メンバーの愛する『マリオ・シリーズ』の音楽に加え、『星のカービィ』や『クロノ・トリガー』などの名曲達も収録。
前作より更に様々なゲーム音楽が取り揃えてられており、ゲーム好きにはたまらない内容となっている。
また、メンバーも非常に豪華な面々が揃っており、トゥー・サクシー(2SAXY)のレオ・P(Leo Pelligrino)、グレース・ケリー(Grace Kelly)も参加。
グレースは”Jump Up Super Star”にてボーカルも披露しているため、彼女の素晴らしい歌声にも是非注目してほしい。
Backwards Compatible - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Intro to Album 3 | - | 0:33 |
2. | Chrono Trigger Main Theme - feat. Steven Feifke (from Chrono Trigger) | Yasunori Mitsuda | 4:44 |
3. | Gourmet Race - feat. Sam Dillon (from Kirby Super Star) | Hirokazu Ando, Jun Ishikawa | 3:34 |
4. | Hydrocity Zone - feat. Grace Kelly (from Sonic the Hedgehog 3) | Hirokazu Ando, Jun Ishikawa | 3:53 |
5. | Want You Gone - feat. Benny Benack III (from Portal 2) | Mike Morasky | 3:40 |
6. | Metaknights Revenge - feat. Buttonmasher (from Kirby Super Star) | Hirokazu Ando, Jun Ishikawa | 4:22 |
7. | Super Mario Land Underground - feat. Leo P. (from Super Mario Land) | Koji Kondo | 5:47 |
8. | Dire Dire Docks - feat. Charlie Rosen (from Super Mario 64) | Koji Kondo | 5:49 |
9. | Birdman - feat. Zac Zinger (from Pilot Wings 64) | Koji Kondo | 5:11 |
10. | Lost in Thoughts All Alone - feat. Accent (from Fire Emblem Fates) | Hiroki Morishita | 5:08 |
11. | Saria's Song - feat. Adam Neely (from Zelda: Ocarina of Time) | Koji Kondo | 5:33 |
12. | Snake Eater - feat. Tiffany Mann (from Metal Gear Solid 3) | Syuichi Kobori, Norihiko Hibino, Nobuko Toda, Harry Gregson-Williams | 3:34 |
13. | Jump Up Super Star - feat. Grace Kelly (from Super Mario Odyssey) | Naoto Kubo | 4:19 |
14. | Super Mario World End Theme (from Super Mario World) | Koji Kondo | 4:26 |
Background & Reception
1曲目”Intro to Album 3”は、タイトルが示す通りまさにアルバムのイントロに位置するナンバー。
ゲーム好きであれば、一度は耳にしたことがあるサウンドがここぞとばかりに詰め込まれている。
スクウェアが1995年に発売した『クロノ・トリガー』の名曲”Chrono Trigger Main Theme”は、2曲目に収録。
フューチャーはピアニストのスティーブン・ヘイフカ(Steven Feifke)となっているが、それよりも注目はチャーリー・ローゼン(Charlie Rosen)のプレイ。
ここでのチャーリーは、ジャコ・パストリアス(Jaco Pastorius)を彷彿とさせる躍動感溢れるベースラインを展開しており、楽曲に躍動感を与えている。
また、編曲の完成度も非常に高いため、ビッグバンド好きでなくともクロノ・トリガーファンは一聴の価値アリだ。
もちろん、ベーシストやジャコを愛する方にもおすすめできる楽曲。
3曲目”Gourmet Race”は、1996年に発売されたスーパーファミコンソフト『星のカービィ スーパーデラックス』で聞くことのできるBGM。
疾走感の溢れるナンバーで日本語では「グルメレース」の名前で知られている。
国内では吹奏楽やオーケストラ編成でもよく演奏されるナンバーだ。
原曲のスピード感を活かしたスウィンギーなアレンジが施されているのが特徴で、編曲者にとっても参考になる楽曲。
『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3』(Sonic the Hedgehog 3)の楽曲である“Hydrocity Zone”では、トゥー・サクシー(2SAXY)のグレース・ケリー(Grace Kelly)が参加している。
グルーヴィーなサウンドに乗った艶のあるグレースのサックス・サウンドは、流石の一言。
2011年にサイバーフロントからリリースされた『ポータル 2』のナンバー”Want You Gone”は、5曲目に収録。
ここではベニー・べナック(Benny Benack III)がフューチャーされており、ムーディーな歌声でこの楽曲を歌い上げている。
ベニーは腕利きのトランペット奏者でもあり、エイトビット・ビッグバンドの1stアルバム、2ndアルバムでもトランぺッター、ボーカリストとして参加。
現在ではエイトビット・ビッグバンドに欠かせない重要なメンバーの一人と言えるだろう。
次に並んだ”Metaknights Revenge”も『星のカービィ スーパーデラックス』からの選曲。
日本語では「戦艦ハルバード:甲板」または「メタナイトの逆襲:ステージ」と名付けられている。
原曲のスリリングな部分を活かしつつも、ジャズの要素がしっかりと詰め込まれた素晴らしいアレンジだ。
キーボード奏者のボタンマッシャー(Buttonmasher)が見せるテクニカルなソロにも注目。
1989年に発売された『スーパーマリオランド』の楽曲”Super Mario Land Underground”では、トゥー・サクシー(2SAXY)のレオ・P(Leo Pelligrino)が参加。
レオ・Pはバリトン・サックス奏者ながら広い音域を活かしたプレイを得意としており、このナンバーでも彼らしいソロを見せつけている。
8曲目”Dire Dire Docks”は『スーパーマリオ64』で使用された楽曲。
チャーリーの演奏を基調としたナンバーで、ベースの美しいサウンドが堪能できるアレンジが施されている。
チャーリーは編曲者としてだけでなく、マルチプレイヤーとして有名だが、エイトビット・ビッグバンドではベーシストとして活躍することが多いようだ。
9曲目に収録されている”Birdman”は、1996年6月23日に任天堂から発売された『パイロットウイングス64』で使用された楽曲。
都会的なサウンドを基調とした曲構成になっており、ザック・ジンガー(Zac Zinger)のウインドシンセサイザーがフューチャーされている。
ザックはバークリー音楽大学を主席で卒業しており、その後『モンスターハンター シリーズ』や『大神』のジャズアレンジ作品のレコーディングにも参加。
サックス以外にもクラリネット、フルート、尺八も熟すことができ、マルチプレイヤーとしても活躍している。
今回ザックが使用している楽器はEWIと呼ばれ、管楽器と同じように息を吹き込むことによって、ソフトウエア音源などを奏でるコントローラー。
独特なサウンドのため、興味のある方は是非ご視聴していただきたい。
10曲目”Lost in Thoughts All Alone”は、2015年6月25日発売のニンテンドー3DS専用シミュレーションロールプレイングゲーム『ファイアーエムブレムif』で使用された楽曲。
ここではジャズ・アカペラ・グループ、アクセント(Accent)がゲストとして参加しており、透明感のある歌声を聞かせている。
1998年11月21日に発売された大人気のゲームソフト『ゼルダの伝説 時のオカリナ』からは、”Saria's Song”を選曲。
日本語では「サリアの歌」として知られ、主人公リンクの幼馴染であるコキリ族の少女・サリアから教えてもらえるメロディーである。
ベースでメロディーを奏でているが、これはチャーリーではなくアダム・ニーリー(Adam Neely)によるもの。
チャーリーに負けるとも劣らない素晴らしいプレイに注目してほしい。
作曲はマリオ・シリーズやカービィ・シリーズ、そしてゼルダ・シリーズの音楽を手掛けている近藤浩治。
“Snake Eater”では、ボーカリストとしてティファニー・マン(Tiffany Mann)が参加。
ティファニーは『ライズ』(Rise)、『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』(Orange Is the New Black)等のドラマにも出演しており、歌手だけでなく女優としても活躍している人物だ。
この楽曲でも力強い存在感のある歌声を発揮しており、高い実力を遺憾なく発揮している。
個人的に本アルバムで最もおすすめの楽曲が13曲目”Jump Up Super Star”。
『スーパーマリオ オデッセイ』の主題歌として作曲され、CMでも流れていた楽曲だ。
またYouTubeの広告等でもBGMとして使用されていたため、耳にしたことのある方も多いのではないだろうか。
どの楽曲も素晴らしいアレンジが施されているのは言うまでもないが、この”Jump Up Super Star”については原曲を超えた完成度といっても過言ではない。
その大きな理由のひとつが、エイトビット・ビッグバンドのサウンドにある。
彼らはNYに住む一流のミュージシャン達であり、奏でる音色が”本物のジャズ・サウンド”なのだ。
それに加え、原曲よりもしっかりと”スウィング”している点も見逃すことが出来ない。
これは原曲とこのアレンジ・バージョンを聴き比べれば一目瞭然だろう。
また、ここでもグレース・ケリー(Grace Kelly)が参加しており、今回はサックス奏者としてだけでなくボーカルも披露。
グレースのサックスしか耳にしたことが無い方にとっては、彼女の高い歌唱力に驚くこと間違いなし。
アルバムのラストを飾るのは、1990年に発売された『スーパーマリオワールド』の楽曲である”Super Mario World End Theme”。
マリオシリーズの中でも人気が高く、1980~1990年代出身の方にとっては懐かしいと感じるナンバーではないだろうか。
作曲はもちろん近藤浩治。
軽快なジャズアレンジが心地よく響く楽曲に仕上がっている。