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2010年代イギリスを代表するアルバムとなった名盤『マルティプライ』(X / Multiply)- エド・シーラン(Ed Sheeran)

『マルティプライ』(X / Multiply)- エド・シーラン(Ed Sheeran)

2011年にリリースした1stアルバム『プラス』(+ / Plus)で劇的なデビューを果たしたエド・シーラン(Ed Sheeran)。
活動期間はそれほど長くないのにも関わらず、これまでのトータルセールス枚数は1億5000万を突破し、グラミー賞も4回にわたり受賞。
現在では世界中から注目を集め、「英国を代表するシンガーの1人」として数えられている。

今回紹介する『マルティプライ』(X / Multiply)は、エドがリリースしたアルバムの中で最も商業的に成功を収めたアルバムである。

1stアルバムから約3年後の2014年6月にリリースされた今作は、リリース初週から英国のみで売り上げ枚数180,000枚を突破。その後は12周にわたり音楽チャート1位を獲得し、この年だけで1,689,000枚以上のセールスを記録している。
この数字により、『マルティプライ』(X / Multiply)は「2014年にイギリス国内で最も売れたアルバム」としても歴史に名を刻んだ。

もちろん、爆発的に売れたのはイギリスだけではない。
『マルティプライ』(X / Multiply)はアメリカ、カナダなど世界15ヵ国の音楽チャートで1位を獲得。更にはオーストラリア、ニュージーランドを含む7つの国でも「2014年に最も売れたアルバム」の記録を達成しているのだ。

また、リリースの翌年に行われた第57回グラミー賞では「最優秀アルバム賞」、「最優秀ポップ・ボーカル・アルバム」の二冠を獲得している。

2021年現在、アルバムのトータルセールス枚数は1250万枚を突破。
これはエドがリリースしたアルバムの中で、最も大きい数字である。

記録尽くしの名盤、それが『マルティプライ』(X / Multiply)なのだ。

X / Multiply - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.OneEd Sheeran4:12
2.I'm a MessEd Sheeran4:04
3.SingEd Sheeran, Pharrell Williams3:55
4.Don'tEd Sheeran, Benjamin Levin3:39
5.NinaEd Sheeran, Johnny McDaid3:45
6.PhotographEd Sheeran, Johnny McDaid, Martin Harrington, Thomas Leonard4:19
7.BloodstreamEd Sheeran, Johnny McDaid, Gary Lightbody, Rudimental5:00
8.Tenerife SeaEd Sheeran, Johnny McDaid, Foy Vance4:01
9.RunawayEd Sheeran, Pharrell Williams3:25
10.The ManEd Sheeran4:10
11.Thinking Out LoudEd Sheeran, Amy Wadge4:41
12.Afire LoveEd Sheeran, Johnny McDaid, Foy Vance5:14

Background & Reception

1曲目を飾るのは、元ガールフレンドのことを歌った”One”
アルバムで一番初めに書かれた楽曲であり、作曲の際はウィスキーバレルで作られたギターを使用したそうだ。
そのためか、全編を通してアコースティックギターが基調とされた美しい楽曲に仕上がっている。

2曲目"I'm a Mess"もアコースティックギターのサウンドがベースとなっているが、こちらはアップテンポの楽曲。
エドがある人を傷つけてしまい、そのために自暴自棄になっていた頃に完成させた曲のため、サウンドに荒々しさがある。完成させるのに苦労したそうだが、現在では『マルティプライ』(X / Multiply)の中でもお気に入りのトラックとのこと。

プロデューサーにファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)を迎えたのが、3曲目”Sing”
ファレルは作曲にも携わっており、エドとは違った”アメリカンなキャッチーさ”が楽曲にスパイスされている。
シングルとしてもリリースされ、ストリーミング数も含めたトータルセールスは700万を突破。5ヵ国以上の音楽チャートで1位を獲得した人気のナンバーだ。

この楽曲について、エドは「ジャスティン・ティンバーレイク(Justin Timberlake)のアルバムJustifiedFutureSex/LoveSoundsからインスパアを受けた」と語っている。また、この曲のコーラスはローリング・ストーンズ(The Rolling Stones)の"Miss You"を引用したもの。
アルバム内で最もエドのラップが堪能できる曲でもある。

4曲目”Don’t”は、名プロデューサーベニー・ブランコ(Benny Blanco)と共作したチューン。
R&B、特にブルー・アイド・ソウルの要素を強く感じる楽曲だ。
『マルティプライ』(X / Multiply)は全体を通してマイナー調のトラックが多く、”Don’t”はまさにこのアルバムを象徴するような哀愁漂うナンバー。
ストリーミング数は700万回を超えるなど、“Sing”と並んで高い人気を誇る。

歌詞については一時期「テイラー・スウィフト(Taylor Swift)のことを歌っているのではないか」と噂されていた。しかし、エドはこれを2014年のローリングストーン誌のインタビューで否定している。

5曲目に並んだのは、ジョニー・マクダイド(Johnny McDaid)と共作した”Nina”
タイトルは元恋人であるニーナ・ネスビット(Nina Nesbitt)の名を起用している。
ニーナはエドと2012年頃に付き合っており、ファースト・アルバムの”Drink”のMVにも出演。別れた後も友好な関係を築いているようだ。
こちらもマイナー調のナンバーであり、曲中にはレチ32(Wretch 32)の”Welcome to My World”がサンプルとして使用されている。

『マルティプライ』(X / Multiply)は全体を通してマイナー調のトラックが多いと紹介したが、今作にはもうひとつ特徴がある。
それは、いくつかの素晴らしいバラード曲が収録されていることだ。
ジョニー・マクダイド(Johnny McDaid)と共作した6曲目“Photograph”も、そのうちのひとつである。

2012年5月、エドとジョニーはスノウ・パトロール(Snow Patrol)とツアーを周っていた。
2人はカンザスシティ内のホテルに戻ると、作曲を開始。ジョニーが“Photograph”の元となるピアノリフをラップトップで再生すると、それにエドがメロディーを合わせ、完成させたナンバー。

歌詞の内容は”Nina”と同じくニーナ・ネスビット(Nina Nesbitt)のことを歌ったもの。
しかし、”Nina”とは違い、どことなく暖かみのある楽曲に仕上がっている。アコースティックなサウンドが全面に押し出されているのも、“Photograph”の特徴だろう。

7曲目”Bloodstream”も今作らしいマイナー調のアコギを基調としたナンバー。
スコットランドを拠点に活動しているスノウ・パトロールと共作した楽曲でもある。
2015年にはミュージックビデオも作成され、ニーヨ(Ne-Yo)、セレーナ・ゴメス(Selena Gomez)などの作品も手掛けているエミール・ナヴァ(Emil Nava)が監督した。

アコースティックギターのアルペジオが美しい”Tenerife Sea”は、テネシー州のナッシュビルで作成されたバラード・ナンバー。タイトルは、スペインのカナリア諸島にあるテネリフェ島のことだ。
当時エドと付き合っていたガールフレンドの瞳が「テネリフェ島の海のように青い色」をしており、彼女との思い出を元に作曲を行った。
シングルとしてもリリースされており、イギリスでは60万枚、アメリカでは100万枚の売上を突破している人気の高い楽曲である。

“Sing”を気に入った方であれば、9曲目"Runaway"も楽しめるはずだ。
こちらも”Sing”と同じくファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)との共作である。
バックトラックがダークでキャッチーな「家出」をテーマにした楽曲。

“The Man”は、ジェイク・ゴスリング(Jake Gosling)をプロデューサーに迎えたヒップホップ・ナンバー。ジェイクはレディー・ガガ(Lady Gaga)、ワン・ダイレクション(One Direction)、ザ・リバティーンズ (The Libertines)などと共演している名プロデューサーである。今作でも”One”、”I’m a Mess”、”Thinking Out Loud”などを手掛け、その才能を遺憾なく発揮している。

アルバム中、最高のバラード・ソングと呼ばれているのが、11曲目“Thinking Out Loud”
エドはこの楽曲をイギリス出身の歌手エイミー・ワッジ(Amy Wadge)と共に書き上げている。
エドが幼い時によく聞いていたアイルランド出身のヴァン・モリソン(Van Morrison)を意識して作曲されており、サビの"very Van-like"は彼のことを差している。

「恋愛の中でも、最も幸せな時期」を想像して書かれており、暖かく美しいメロディーが特徴。ブルー・アイド・ソウルの要素を含んだロマンチックなバラード曲だ。

ミュージックビデオの撮影は、ロスアンゼルスにあるミレニアム・ビルトモア・ホテルにて行われた。これまでの映像作品と違い、エドにスポットを当てたものに仕上がっている。
エドと一緒に踊っている女性は、アメリカ出身の女性ブリトニー・チェリー(Brittany Cherry)。

3枚目のシングルとしてリリースされ、10ヵ国以上の音楽チャートで1位を獲得。トータルセールスはストリーミングを合わせると脅威の1,500万を突破している。
第58回グラミー賞では最優秀楽曲賞、最優秀ポップ・ソロ・パフォーマンス賞の二冠を達成した名曲中の名曲だ。

アルバムの最後を飾るのは、叔父のことを歌った”Afire Love”
叔父はアルツハイマー病に20年以上悩まされ、2013年12月にこの世を去っている。歌詞は病気に苦しむ家族、自分自身にスポットを当てたものだ。
楽曲も全体をとおしてダークな印象だが、ある意味今作らしいナンバーとも言える。

X / Multiply - Credit

エド・シーラン(Ed Sheeran)- ボーカル、アコースティックギター、エレキギター、手拍子(Tracks 2, 5)、インストゥルメンテイション&プログラミング(Track 4)、バイオリン(Track 16)、プロダクション(Track 16)
ジェイク・ゴスリング(Jake Gosling)- プロダクション/エンジニアリング/プログラミング/ドラム(Tracks 1, 2, 5, 10, 11)、パーカッション(Tracks 2, 5)、シンセサイザー(Track 5)、ローズピアノ(Track 10)、ストリングス&ホーン(Track 1)
ファレル・ウィリアムス(Pharrell Williams)- プロダクション&バックボーカル(Track 3)、プロダクション(Track 9)
ベニー・ブランコ(Benny Blanco)- プロダクション、インストゥルメンテイション&プログラミング(Track 4)
リック・ルービン(Rick Rubin)- プロダクション(Tracks 4, 7, 8)、インストゥルメンテイション&プログラミング(Track 4)
ジョニー・マクダイド(Johnny McDaid)- キーズ(Tracks 7, 8)、ギター/ベース/バックボーカル/パーカッション/ピアノ/ハモンドオルガン(Tracks 12)
ジェフ・バスカー(Jeff Bhasker)- プロダクション/ピアノ/キーズ/ベース(Track 6)
フォイ・バンス(Foy Vance)- バックボーカル(Track 12)

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