わずか27歳という若さでこの世を去ってしまい、奇しくも「27クラブ」の仲間入りを果たしてしまったエイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)。
2006年にリリースされたこの『バック・トゥ・ブラック』(Back to Black)はエイミーの最後にして、最高のアルバムとなった。世界での売り上げは1600万枚以上を誇り、世界各国の音楽チャートで1位を獲得。2008年にはグラミー賞で5部門を受賞した。
ファーストアルバム『フランク』(Frank)を発表してから約3年、元々実力は折り紙付きだったが、今作は曲の完成度が高く、エイミーの歌声が輝くアレンジが施された、名曲揃いの作品となった。
彼女のハスキー・ボイスに魅了されたミュージシャンも多く、ミック・ジャガー(Mick Jagger)、レディー・ガガ(Lady Gaga)、ジャスティン・ビーバー(Justin Bieber)、アデル(Adele)などが彼女のファンを公言している。
そんなエイミーの最高傑作である「バック・トゥ・ブラック」(Back to Black)について、少しだけ解説していこうと思う。
Back to Black - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Rehab | Amy Winehouse | 3:34 |
2. | You Know I'm No Good | Amy Winehouse | 4:17 |
3. | Me & Mr Jones | Amy Winehouse | 2:33 |
4. | Just Friends | Amy Winehouse | 3:13 |
5. | Back to Black | Amy Winehouse, Mark Ronson | 4:01 |
6. | Love Is a Losing Game | Amy Winehouse | 2:35 |
7. | Tears Dry on Their Own | Amy Winehouse, Nickolas Ashford, Valerie Simpson | 3:06 |
8. | Wake Up Alone | Amy Winehouse, Paul O'Duffy | 3:42 |
9. | Some Unholy War | Amy Winehouse | 2:22 |
10. | He Can Only Hold Her | Amy Winehouse, Richard Poindexter, Robert Poindexter | 2:46 |
11. | Addicted | Amy Winehouse | 2:45 |
Background & Reception
1曲目の"Rehab"はリハビリテーション(Rehabilitation)の略で、破局が原因でアルコール依存症となったエイミーが、療養施設に入ることを勧められたときの気持ちを歌にした曲。まさに、タイトルどおりのナンバーだ。(結局入所はしなかったようだが…)
R&B(リズム&ブルース)らしい曲構成でノリも良い為、アルバムでも最初にシングルカットされている。
次の"You Know I'm No Good"も2枚目にシングルリリースされ、100万枚以上を売り上げた人気の曲だ。ロンドンで行われた、第50回グラミー賞でのセレモニーの際、"Rehab"と共にこの曲を歌い、その様子が全世界に中継された。同じイギリス出身のロックバンドであるアークティック・モンキーズ(Arctic Monkeys)もこの曲をカバーしている。
3曲目は"Me & Mr Jones"。タイトルはジャズスタンダードとして有名な"Me and Mrs. Jones"を意識して付けたようだ。レゲエ音楽の要素も感じる、ゆったりとしたナンバー。
この"Mr Jones"とは、当時エイミーと交流のあったアメリカのラッパー"Nas"のことを歌っているのではないかと言われている。
4曲目の"Just Friends"は、タイトルだけ見るとジャズスタンダードの"Just Friends"と勘違いしてしまいそうなエイミーのオリジナル。レゲエのグルーブにのった、スカ・ソウルミュージックだ。
次の曲はアルバムのタイトルにもなった"Back to Black"。エイミーとマーク・ロンソン(Mark Ronson)の共作で1960年代のソウル・ミュージックを想わせるキャッチーなナンバー。エイミーの曲の中でも人気の高く、シングルとして200万枚以上を売り上げ、彼女のシングルでは3番目の記録となった。ビヨンセ(Beyoncé)やアンドレ・3000(André 3000)など、この曲をカバーしているミュージシャンも多い。
"Love Is A Losing Game"はエイミーの最後のシングルとなった曲。スローテンポなバラードナンバーで、自身の順風満帆ではなかった恋愛体験を基に書かれた。また、彼女はこの曲でアイヴァー・ノヴェロ賞(Ivor Novello Awards)を受賞している。
"Tears Dry on Their Own"もこのアルバムを代表する曲といってよいだろう。作曲はエイミー、ニコラス・アシュフォード(Nickolas Ashford)、ヴァレリー・シンプソン(Valerie Simpson)の3人。曲のコード進行はR&Bとして歌手なマーヴィン・ゲイ(Marvin Gaye)とタミー・テレル( Tammi Terrell)が1967に作曲した"Ain't No Mountain High Enough"を参考にしたようだ。エイミーの未発表曲を収録したアルバム『ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ』(Lioness: Hidden Treasures)にはスローバージョンの"Tears Dry on Their Own"が含まれている。
次の"Wake Up Alone"はアルバムで一番初めにレコーディングされた曲。こちらも異なるバージョンが『ライオネス:ヒドゥン・トレジャーズ』(Lioness: Hidden Treasures) に収録されている。
"Some Unholy War"はラジオから流れてきた聖戦(Holy War)という言葉からインスパアされ完成した曲。戦争と自身の恋愛を重ねながら書かれた、ミドルテンポのソウルミュージックだ。
ラストの曲である"He Can Only Hold Her"は作曲家である、ポインデクター兄弟(Richard and Robert Poindexter)との共作。彼らがバッキング・トラックを作ったのにも関わらず、リリース当初は「俺達の名前がCDにクレジットされていない!」ということで少しゴタゴタしたようだが、現在ではしっかりと彼らの名前も記載されている。
Back to Black - Credit
エイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)- ボーカル、ギター(tracks 3, 4, 9, 11)、バックボーカル(tracks 3, 7, 9, 11)
ニック・モブション(Nick Movshon)- ベース(tracks 1, 2, 5, 6, 8, 10)
ホーマー・スタインウェイス(Homer Steinweiss)- ドラム(tracks 1, 2, 5, 6, 8, 10)
トーマス・ブレネック(Thomas Brenneck)- ギター(tracks 1, 2, 5, 6, 8, 10)
ビンキー・グリップタイト(Binky Griptite)- ギター(tracks 1, 2, 5, 6, 8, 10)
ビクター・アクセルロッド(Victor Axelrod)- ピアノ(tracks 1, 2, 5, 6, 8, 10)、ウーリッツァー、手拍子(tracks 1, 2)
デイブ・ガイ(Dave Guy)- トランペット(tracks 1, 2, 10)
ニール・シュガーマン(Neal Sugarman)- テナーサックス(tracks 1, 2, 10, 11)
イアン・ヘンドリクソン・スミス(Ian Hendrickson-Smith)- バリトンサックス(tracks 1, 2)
マーク・ロンソン(Mark Ronson)- 手拍子(track 1)、バンドアレンジ(tracks 1, 2, 5, 6, 8)、タンバリン(track 5)、スナップ(track 10)
ヴォーン・メリック(Vaughan Merrick)- 手拍子(tracks 1, 2, 5, 6, 8, 10)
ペリー・モンタギュー-メイソン(Perry Montague-Mason)- バイオリン、オーケストラリーダー(tracks 1, 5, 6)
クリス・トンブリング(Chris Tombling)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
マーク・ベロウ(Mark Berrow)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
ワーレン・ジーリンスキー(Warren Zielinski)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
リズ・エドワーズ(Liz Edwards)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
ホグスワク・コステッキ(Boguslaw Kostecki)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
ピーター・ハンソン(Peter Hanson)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
ジョナサン・レース(Jonathan Rees)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
トム・ピゴット=スミス(Tom Pigott-Smith)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
エヴァートン・ネルソン(Everton Nelson)- バイオリン(tracks 1, 5, 6)
ブルース・ホワイト(Bruce White)- ヴィオラ(tracks 1, 5, 6)
ジョン・ソーン(Jon Thorne)- ヴィオラ(tracks 1, 5, 6)
ケイティ・ウィルキンソン(Katie Wilkinson)- ヴィオラ(tracks 1, 5, 6)
レイチェル・ボルト(Rachel Bolt)- ヴィオラ(tracks 1, 5, 6)
アンソニー・プリース(Anthony Pleeth)- チェロ(tracks 1, 5, 6)
ジョエリー・コーズ(Joely Koos)- チェロ(tracks 1, 5, 6)
ジョン・ヘリー(John Heley)- チェロ(tracks 1, 5, 6)
ヘレン・タンスロール(Helen Tunstall)- ハープ(tracks 1, 6)
スティーブ・シドウェル(Steve Sidwell)- トランペット(tracks 1, 6)
リチャード・エドワーズ(Richard Edwards)- テナートロンボーン(tracks 1, 6)
アンディ・マッキントッシュ(Andy Mackintosh)- アルトサックス(tracks 1, 5, 6)
クリス・デイビーズ(Chris Davies)- アルトサックス(tracks 1, 5, 6)
ジェイミー・タルボット(Jamie Talbot)- テナーサックス(tracks 1, 5, 6)
マイク・スミス(Mike Smith)- テナーサックス(tracks 1, 6)
デイブ・ビショップ(Dave Bishop)- バリトンサックス(tracks 1, 5, 6)
フランク・リコッティ(Frank Ricotti)- パーカッション(tracks 1, 5, 6)
ガブリエル・ロス(Gabriel Roth)- バンドアレンジ(tracks 1, 2, 5, 6, 8)
クリス・エリオット(Chris Elliott)- オーケストラアレンジ、オーケストラコンダクター(tracks 1, 5, 6)
イソベル・グリフィス(Isobel Griffiths)- オーケストラコンダクター(tracks 1, 5, 6)
サラーム・レミ(Salaam Remi)- アップライトベース(track 3)、ドラム(tracks 3, 9, 11)、ピアノ(tracks 3, 7)、ベース(tracks 4, 7, 9, 11)、ギター(tracks 7, 9)
ヴィンセント・ヘンリー(Vincent Henry)- バリトンサックス、テナーサックス(tracks 3, 7)、ギター(tracks 3, 4, 7, 9, 11)、クラリネット(tracks 4, 7)、バスクラリネット(track 4)、アルトサックス、フルート、ピアノ、セレステ(Track 7)、サックス(Track 11)
ブルース・パース(Bruce Purse)- バストランペット、フリューゲルホルン(tracks 3, 4, 7, 11)、トランペット(tracks 4, 7, 11)
トロイ・オーグジュリー-ウィルソン(Troy Auxilly-Wilson)- ドラム(tracks 4, 7, 11)、タンバリン(track 7)
ジョン・アダム(John Adams)- ローズピアノ(tracks 4, 11)、オルガン(tracks 4, 9, 11)
ピーナッツ(P*Nut)- オリジナルデモ・プロダクション(track 10)
サム・コッペルマン(Sam Koppelman)- パーカッション(track 10)
コケミア・ガステラム(Cochemea Gastelum)- バリトンサックス(track 10)
ザロン(Zalon) - バックボーカル(track 10)
アデ(Ade)- バックボーカル(track 10)
Conclusion
このアルバムを聴くたび、若くしてこの世を去ってしまったことが本当に悔やまれる。それほどまでに完成された作品であり、素晴らしいシンガーだった。
短い生涯でリリースしたアルバムは僅か2枚のみだったが、彼女が世界に与えた衝撃は今後も忘れ去られることはないだろう。