
『パンプ』(Pump)は、アメリカのロック・バンドであるエアロスミス(Aerosmith)が1989年にリリースしたアルバム。
この作品は「エアロスミスの完全復活」を象徴するアルバムとして、広く知られている一枚でもある。
エアロスミス(Aerosmith)は、1971年にスティーヴン・タイラー(Steven Tyler)、ジョー・ペリー(Joe Perry)、トーマス・ハミルトン(Thomas Hamilton)を中心にアメリカ東海岸で結成したバンド。
1973年に発表されたデビュー・アルバム『野獣生誕』(Aerosmith)は、リリース当初こそ酷評されたもの、シングルカットされた”Dream On”がチャート上位を獲得。それに合わせ、アルバムの売上も増加し、バンドの知名度を獲得することに成功する。
翌年には『飛べ!エアロスミス』(Get Your Wings)、1975年に名曲”Walk This Way”、”Sweet Emotion”などの名曲を含む『闇夜のヘヴィ・ロック』(Toys in the Attic)を発表。ここからエアロスミスは、第一次黄金期に突入する。
1977年以降は、世界ツアーを行いながら、同時進行でレコーディングも行うという多忙な時期を過ごしていた。しかしこれが原因により、バンド内でドラッグが蔓延し、メンバー間の関係も悪化。1979年にはギタリストのジョー・ペリーが脱退してしまい、ここからエアロスミスは冬の時代を迎えることになる。
ここから5年程、バンドは低迷期を彷徨うことになるが、1984年にジョー・ペリーが復帰。翌年に8thアルバム『ダン・ウィズ・ミラーズ』(Done with Mirrors)をリリースし、復活の兆しを見せると、1987年には9thアルバム『パーマネント・ヴァケイション』(Permanent Vacation)を発表。”Dude”、”Rag Doll”、”Angel”などの名曲を含んだこのアルバムが大ヒットし、エアロスミスは第二期黄金期に突入した。
1988年12月、10枚目のアルバム製作に取り掛かったメンバー。
想像力を向上させるため、曲作りは都会から離れたマサチューセッツ州にある自然に囲まれたスタジオで行われたそうだ。
エアロスミスはこの場所で19曲以上を完成させ、ヒットする予感のある楽曲をA-リスト、まだ改良が必要な楽曲をB-リストに分けて管理。
ここでは"Girl's Got Somethin'"、"Is Anybody Out There"、"Guilty Kilt"、"Rubber Bandit"、"Sniffin'"、"Sedona Sunrise"などの曲が誕生しているが、今回のアルバムに含まれることはなかった。
1989年1月、エアロスミスはカナダのバンクーバーにあるリトル・マウンテン・サウンド・スタジオ(Little Mountain Sound Studios)で録音を開始する。
ここはボン・ジョヴィ(Bon Jovi)の名盤『ワイルド・イン・ザ・ストリーツ』(Wild In The Streets)、『ニュージャージー』(New Jersey)のレコーディングが行われた場所でもあるのだが、ボーカルのスティーヴン・タイラー曰く「ボン・ジョヴィは聞いたことが無いので、そんなことは知らなかった」らしい。
新作となる10枚目のアルバムでエアロスミスが追及していたのは、「生のサウンド」だった。
その理由は9thアルバム『パーマネント・ヴァケイション』(Permanent Vacation)にある。前作は商業的に成功させるため、ポップな音作りやホーンセクションの追加、また作曲家を雇うなど”キャッチーさ”にこだわっていた。
しかし、本来のエアロスミスは生粋のロック・バンドである。
そのため、新作では「生のロック・サウンド」を追及し、バンド・サウンドをパッケージ化することにしたようだ。
ギタリストのジョー・ペリーは以下のように語っている。
「このアルバムの製作に取り掛かる時、前作よりもスマートな作品にしたいと考えていた。俺達にはドラッグ・ソングや児童虐待の歌は必要ない。でもそれがフィットする時には、歌にするだけだ。それが”エアロスミス”なんだよ。俺達にルールはない。」
そして遂に1989年12月、エアロスミスは10thアルバム『パンプ』(Pump)をリリース。
ロック・サウンドが全面に押しだされたこの作品は、アメリカはもちろん複数の国の音楽チャートでTOP10にランクイン。1990年には初のグラミー賞を獲得し、バンドとして「完全復活」を果たすこととなった。
『パンプ』(Pump)は、現在までにアメリカ国内のみで700万枚を売り上げており、この数字は『闇夜のヘヴィ・ロック』(Toys in the Attic)に次ぐ2番目の記録である。(『ゲット・ア・グリップ』 (Get a Grip)と同率2位)
ちなみに『パンプ』(Pump)には歌詞カードが含まれていないが、これには理由がある。
今作の歌詞の大部分は、テイラーが1970年代に経験したドラッグやセックスについてのもの。過激な内容だったため、PMRCからの抗議を恐れたレコード会社は、商品に歌詞カードを付けることを辞めたそうだ。(代わりにレコ発ツアーのプログラム表に歌詞が掲載している)
また、エアロスミスはこのアルバムのタイトルが原因で、同名のバンドであるパンプ(Pump)から訴えられているものの、勝訴。
また、収録曲の”The Other Side”が「"Standing in the Shadows of Love"のメロディーと類似している」とされ、この曲の作曲家ホーランド=ドジャー=ホーランド(Holland-Dozier-Holland)からも告訴されている。
こちらは”The Other Side”の作曲者にホーランドの名を加えることで丸く収まったようだ。
Pump - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Young Lust | Steven Tyler, Joe Perry, Jim Vallance | 4:18 |
2. | F.I.N.E. | Steven Tyler, Joe Perry, Desmond Child | 4:09 |
3. | Going Down/Love in an Elevator | Steven Tyler, Joe Perry | 5:39 |
4. | Monkey on My Back | Steven Tyler, Joe Perry | 3:57 |
5. | Water Song/Janie's Got a Gun | Steven Tyler, Tom Hamilton | 5:38 |
6. | Dulcimer Stomp/The Other Side | Steven Tyler, Joe Perry, Jim Vallance, Brian Holland, Lamont Dozier, Eddie Holland | 4:56 |
7. | My Girl | Steven Tyler, Joe Perry | 3:10 |
8. | Don't Get Mad, Get Even | Steven Tyler, Joe Perry | 4:48 |
9. | Hoodoo/Voodoo Medicine Man | Steven Tyler, Brad Whitford | 4:39 |
10. | What It Takes | Steven Tyler, Joe Perry, Desmond Child | 5:11 |
Pump - Credit
スティーヴン・タイラー(Steven Tyler)- ボーカル、ギター、キーボード、ハーモニカ
ジョー・ペリー(Joe Perry)- ギター、バックボーカル
ブラッド・ウィットフォード(Bradley Ernest Whitford)- ギター
トーマス・ハミルトン(Thomas Hamilton)- ベース、バックボーカル
ジョーイ・クレイマー(Joseph Michael Kramer)- ドラム