『ボーン・アンド・レイズド』(Born and Raised)は、ジョン・メイヤー(John Mayer)が2012年にリリースした5枚目のアルバム。
コロンビア・レコードから発表されたこの作品は、ジョンがこれまでに発表しているアルバムの中で最も「フォーク、カントリーの要素が強調されたアルバム」である。
前作『バトルスタディーズ』(Battle Studies)のワールド・ツアーを行っている最中、ジョンは引き寄せられるようにボブ・ディラン、デヴィッド・クロスビーのレコードを聞いていた。
この時、ジョンはすぐに「新しいアルバムを作りたい」と考えたものの、契約上の都合により途中でツアーを辞めるわけにはいかなかった。
「曲を作りたいのに、ツアーを熟さなければならない」状況に、ジョンは少し苛立ちを覚えたそうだ。
その後『バトルスタディーズ』(Battle Studies)のワールド・ツアーが終わると、ジョンはアルバム制作のため、暫くの間メディアから距離を置くことを発表。
その後、『ボーン・アンド・レイズド』(Born and Raised)の制作に取り掛かることになる。
今作の制作にあたり、ジョンが影響を受けたと語っているミュージシャンは、ボブ・ディラン(Bob Dylan)、ニール・ヤング(Neil Young)、デヴィッド・クロスビー(David Crosby)、スティーヴン・スティルス(Stephen Stills)とカントリー・ミュージックのレジェンド達ばかり。
実際に収録されているナンバーもカントリー色の強い楽曲が多く並んでおり、これまでのポップやブルースを基調とした楽曲とは一味違った作品に仕上がっている。
本来、『ボーン・アンド・レイズド』(Born and Raised)は2011年10月にリリースを予定していた。
しかし、レコーディングの最中、ジョンの喉に肉芽腫が出来てしまっていることが発覚。
幸いにもボーカルのレコーディングはほぼ完了していたため、アルバムは2012年の初めごろには発表できる流れとなった。
当時の様子をジョンは以下のように語っている。
「沢山の治療を受けたんだけど、どれも上手くいかなった。だから、極力のどに負担のかかることは辞めるようにしたんだ。アルコールや辛い食べ物、おしゃべりとかね。2011年の9月なんかはほとんど会話もしてないんじゃないかな。その時は僕がブルートゥースのキーボードを持っていて、タイプした文字をiPadに出力して会話をしてたよ。レストランなんかでは指差しで注文してたから、他のお客さんからはクレイジーな奴だと思われていただろうね。」
2011年10月20日に入り、ジョン・メイヤーは肉芽腫の摘出手術が成功したことをファンに報告。
完治するまでの間はアメリカのモンタナ州へ移り、旅行などをして過ごしていたそうだ。
そして2012年2月28日、ジョンはファン待望の5thアルバム『ボーン・アンド・レイズド』(Born and Raised)をリリース。
アメリカ国内のみで初週219,000枚を売り上げ、ビルボード・チャートで自身3度目となる1位を獲得。
カナダ、イギリスなどの国でも順調にセールス枚数を伸ばし、僅か一年足らずで総売上枚数は60万枚を突破することとなった。
ここからは『ボーン・アンド・レイズド』(Born and Raised)の楽曲達について解説していこう。
Born and Raised - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Queen of California | John Mayer | 4:10 |
2. | The Age of Worry | John Mayer | 2:38 |
3. | Shadow Days | John Mayer | 3:53 |
4. | Speak for Me | John Mayer | 3:45 |
5. | Something Like Olivia | John Mayer | 3:01 |
6. | Born and Raised | John Mayer | 4:48 |
7. | If I Ever Get Around to Living | John Mayer | 5:22 |
8. | Love Is a Verb | John Mayer | 2:24 |
9. | Walt Grace's Submarine Test, January 1967 | John Mayer | 5:08 |
10. | Whiskey, Whiskey, Whiskey | John Mayer | 4:39 |
11. | A Face to Call Home | John Mayer | 4:45 |
12. | Born and Raised (Reprise) | John Mayer | 2:01 |
Background & Reception
アルバムのオープニングを飾るのは、今作を象徴する「カントリー・サウンド」が存分に強調された"Queen of California"。
シングルとしてもリリースされており、ビルボードのオルタナティブ・アダルト・ソング部門にて2位も獲得している。
カントリーとジョン・メイヤーの持つポップな要素が見事に融合したカントリー・ポップソングだ。
スティールギターのサウンドも含まれてるが、これはジョンではなくグレッグ・レイズ(Greg Leisz)によるもの。
ミュージック・ビデオも作成されているため、興味のある方は下記のYouTubeリンクから視聴してみてほしい。
2曲目"The Age of Worry"は、アコースティックギターの美しいアルペジオから始まる楽曲。
シンプルな曲構成で、聞き心地のよいサウンドとメロディーが特徴。
カントリー好きやアコギのサウンドを好む方にも是非お勧めしたいポップ・チューンだ。
作詞作曲はもちろんジョンメイヤー。
先行シングルとしてリリースされた"Shadow Days"は、3曲目に収録。
こちらもビルボードのオルタナティブ・アダルト・ソング部門にて2位も獲得しており、今作の中でも高い人気を持つ楽曲だ。
ここでジョンはアコースティックギター、エレキギターに加えリゾネーター・ギターでのプレイも披露。
ジョン・メイヤーらしい「メロディアスで泣けるサウンド」が存分に堪能できるナンバーだ。
"Queen of California"と同じく、こちらもミュージック・ビデオが作成されている。
4曲目"Speak for Me"では、ジョンが奏でるアコギのサウンドと美しい歌声に注目。
今作らしいアコースティックなサウンドを基調とした楽曲で、弾き語りのスタイルに近い楽器構成になっている。
歌いながら難しいフレーズを熟すことのできるジョン・メイヤーならではの曲ともいえるだろう。(レコーディング時はもちろん歌とギターは別録りだと思うが…)
今作の楽曲でも特に人気の高い楽曲が、3枚目のシングルとしてもリリースされている5曲目"Something Like Olivia"だ。
メロディーが非常にキャッチーで耳に残るフレーズのため『ボーン・アンド・レイズド』(Born and Raised)= "Something Like Olivia"とイメージするファンの方も多いかもしれない。
レコーディングではエレキギターでバッキングを演奏しているが、リリースと同年に公開したYouTubeの動画ではアコースティックギターにてこの曲を演奏している。
また、本作では唯一ジム・ケルトナー(Jim Keltner)がドラムを叩いている楽曲でもある。
アルバムのタイトルナンバーにも選ばれた"Born and Raised"は、6曲目に収録。
ここではなんとゲスト・ボーカルとしてデヴィッド・クロスビー(David Crosby)が参加している。
デヴィッドは偉大なフォークロック歌手として歴史に名を刻んでいるアメリカ出身のミュージシャン。
ジョンが今作を作るきっかけにもなった人物である。
また、イングランド出身の歌手グラハム・ナッシュ(Graham Nash)もサイド・ボーカルとして参加。
メインボーカルはジョンのため、二人の歌声が大きく目立つことはないもの、クレジット的には非常に豪華な面々が揃った楽曲となった。
7曲目"If I Ever Get Around to Living"も、今作らしいアルペジオと暖かいサウンドが特徴の楽曲。
翌年に行われたライブ・オン・レターマン(Live on Letterman)のライブでもこのナンバーを披露している。
そのライブでの"If I Ever Get Around to Living"は大胆なアレンジが施されており、これまでのブルースを基調としたスタイルとは違うジョンのギターソロを視聴することができる。
Something Like Olivia"と共に印象強い楽曲が、8曲目"Love Is a Verb"である。
美しいサウンドと耳に残るメロディーラインが特徴。
シングルとしてリリースされていないものの、ライブでもよく演奏される人気のポップ・チューンだ。
本アルバムでも異彩を放っているのが、9曲目"Walt Grace's Submarine Test, January 1967"。
どちらかというと前作である『バトル・スタディーズ』(Battle Studies)に近い雰囲気を持っている。
この楽曲にはフュージョン界で活躍しているトランペット奏者、クリス・ボッティ(Chris Botti)も参加。
冒頭の哀愁漂うトランペットのサウンドは、クリスの演奏によるものだ。
ちなみに歌詞の後半には"Tokyo"も登場するため、歌詞にも注目して聞いてほしい。
10曲目"Whiskey, Whiskey, Whiskey"は、サウンドこそカントリーなもののジャンル的にはポップに近いだろう。
ここでもグレッグ・レイズ(Greg Leisz)のスティールギターのサウンドが効果的に使われており、楽曲に彩りを与えている。
スローテンポの楽曲"A Face to Call Home"では、サラ・ワトキンス(Sara Watkins)がバイオリニスト兼ボーカリストとして参加。
サラはカントリー界で活躍しているバイオリン、フィドル、ギター、ウクレレなど複数の楽器をプレイできるマルチプレイヤーである。
これまでの楽曲とは違い、カントリー色は控えめなものの、代わりにジョン・メイヤーらしいポップで美しいメロディー持つナンバーだ。
12曲目"Born and Raised (Reprise)"は、カントリー色全開のアルバムのラストに相応しい楽曲。
"Born and Raised"のリプライズ(繰り返し)というタイトルが付いているが、メロディーも異なっているため「"Born and Raised"と違う曲」と捉えてよいだろう。
のんびりした雰囲気を持つ「カントリー・ミュージック」という言葉がピッタリのナンバーに仕上がっている。