約60年に渡る音楽活動の中で、約200枚もの作品をこの世に生み出してきたジャズ・ピアニスト、オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)。
その中でも、今回紹介する『ナイト・トレイン』(Night Train)はオスカーの「最高傑作のひとつ」に数えられている名盤中の名盤である。
このアルバムが誕生したのは1963年の夏。
ヴァーヴ・レコード(Verve Records)からリリースされており、プロデューサーにはオスカーの信頼していたノーマン・グランツ(Norman Granz)が迎えられている。
リリースされるとすぐに大きな注目を集め、ジャズ・ピアニスト兼ジャズ評論家でもあったレナード・フェザー(Leonard Feather)などからも大絶賛されることとなった。
レコーディングに参加したのはオスカー、ベースにレイ・ブラウン(Ray Brown)、そしてドラムはエド・シグペン(Ed Thigpen)。
レイ・ブラウン(Ray Brown)は言わずとしれた世界最高峰のジャズ・ベーシスト。
1951年からオスカーと共にトリオとして活躍し、数多くの名演を残している。
エド・シグペン(Ed Thigpen)は、シカゴ生まれのジャズ・ドラマー。
オスカーのトリオと言えば、レイ・ブラウン、ハーブ・エリスとのトリオが最も有名であることは否めない。しかし、エリスの代わりに加入したエドとのトリオでも名盤を多く生み出しており、本作『ナイト・トレイン』(Night Train)もそのうちのひとつである。
本アルバムの特徴は、何といってもブルース・ナンバーの多さ。
全11曲中6曲がブルース進行の曲で構成されており、まさにブルース好きにはたまらない内容となっている。また、オスカーに「鍵盤の皇帝」の名を授けたデューク・エリントン(Duke Ellington)の楽曲も4曲含まれていることも今作の特徴と言えるだろう。
Night Train - Track Listing
No | Title | Writer | Length |
1. | Night Train | Jimmy Forrest, Lewis Simpkins, Oscar Washington | 3:23 |
2. | C Jam Blues | Barney Bigard, Ellington | 4:50 |
3. | Georgia on My Mind | Hoagy Carmichael, Stuart Gorrell | 3:42 |
4. | Bags' Groove | Milt Jackson | 5:12 |
5. | Moten Swing | Bennie Moten | 2:52 |
6. | Easy Does It | Sy Oliver, Trummy Young | 2:45 |
7. | Honey Dripper | Joe Liggins | 2:23 |
8. | Things Ain't What They Used to Be | Mercer Ellington, Ted Persons | 4:35 |
9. | I Got It Bad (and That Ain't Good)" | Ellington, Paul Francis Webster | 5:05 |
10. | Band Call | Ellington | 3:51 |
11. | Hymn to Freedom | Oscar Perterson | 5:30 |
Description
1曲目にはタイトル・ナンバーである"Night Train"を収録。
原曲は1952年にジミー・フォレスト(Jimmy Forrest)が作曲したブルース曲である。
しかし、オープニングのリフはデューク・エリントン、ジョニー・ホッジス(Johnny Hodges)が1940年に収録した"That's the Blues, Old Man"と呼ばれる楽曲が元になっているようだ。
本アルバムでは、オスカーの煌びやかさと「スウィング・ピアノの小粋な部分」が存分に堪能できるアレンジに仕上がっている。
2曲目"C Jam Blues"はバーニー・ビガード(Barney Bigard)、デューク・エリントンが1941年に作曲した楽曲。オスカーのピアノが素晴らしいのはもちろんだが、ブラウンのベース、エドのドラムも完璧に「ジャズ」という音楽を体現している。
3曲目に並んだ"Georgia on My Mind"と言えば、レイ・チャールズ(Ray Charles)のバージョンが最も有名だろう。しかし、ここでのオスカーの演奏も負けず劣らずの出来であり、是非多くの方に聴いていただきたいナンバー。特にジャズ・ピアニストであれば必聴の演奏だ。
"Bags' Groove"はミルト・ジャクソン(Milt Jackson)が1952年に作曲した、こちらもブルース・ナンバー。ここでのオスカーのピアノは控えめであり、その代わりにレイ・ブラウンのベースがフューチャーされたようなアレンジとなっている。
ベニー・グッドマン(Benny Goodman)がレコーディングしたことにより有名となったのが”Moten Swing”。作曲を行ったのはカンザスシティ出身のピアニスト、ベニー・モテン(Bennie Moten)である。こちらもスウィング感溢れる安定した演奏を堪能できる。
"Easy Does It"では少し雰囲気が変え、落ち着いた演奏を披露。こういった上品な演奏も聞かすことが出来るのは、オスカーの表現力の高さがあってこそだろう。
次曲の"Honey Dripper"では一転し、ご機嫌でスウィンギーな演奏を披露。作曲はジョウ・リギンスで、こちらもブルース調の楽曲である。
8曲目に選ばれたのは、デューク・エリントンとその息子マーサー・エリントン(Mercer Ellington)が作曲した"Things Ain't What They Used to Be"。ビッグバンドで演奏されることも多く、デューク・エリントン楽団の演奏が有名だ。オスカーはこの楽曲を少し控えめに、そしてゆったりとしたテンポで演奏している。
続く"I Got It Bad (and That Ain't Good)"も、エリントン作曲のナンバー。
こちらも"Georgia on My Mind"と似た雰囲気を持つ、バラード調のブルージーなアレンジが施されている。私達日本人の想像する「バーで流れてそうなジャズ」といった感じだろうか。
次の"Band Call"も、またまたエリントンが作曲したブルース調の楽曲。オリジナルは1941年にミュージカル「ジャンプ・フォア・ジョイ」の為に書き下ろされたナンバーである。
ここではオスカーの”軽快で明るい”部分が強調されており、ブルース成分は控えめ。ジャズに興味のない方でも、ジャズの素晴らしさが楽しめるナンバーといえるだろう。
最後に並んだ"Hymn to Freedom"は、アルバム唯一のオスカー・ピーターソンのオリジナル楽曲。冒頭はジャズではなく、どちらかと言えばクラシック的な演奏を行い、徐々にジャズ・ミュージックへ変化している。
1964年に来日した際にはこの楽曲を演奏し、オーディエンスを沸かせた。
Night Train - Credit
オスカー・ピーターソン(Oscar Peterson)- ピアノ
レイ・ブラウン(Ray Brown)- ベース
エド・シグペン(Ed Thigpen)- ドラム