Reviews

漂うNYサウンド。ビリー・ジョエル(Billy Joel)が生んだ最高傑作のひとつ『ニューヨーク52番街』(52nd Street)

52nd-street-billy-joel-cover

ビリー・ジョエル(Billy Joel)が世界中から注目を集めるようになったのは、5thアルバム『ストレンジャー』(The Stranger)が大きな成功を収めてからだ。
1977年にリリースされたこの作品は"Just the Way You Are"、"Movin' Out (Anthony's Song)"、"She's Always a Woman"などのシングル曲により知名度を獲得。
アルバムの完成度が高く評価され、翌年のグラミー賞にて最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞の二冠を達成した。
『ストレンジャー』(The Stranger)は現在までに1,000万枚以上を売り上げており、名実ともに歴史に残る名盤として数えられている

今回紹介する『ニューヨーク52番街』(52nd Street)は、その1年後である1978年にリリースされた6thアルバム。
こちらも『ストレンジャー』(The Stranger)と並び、ビリーを代表する一枚として有名な作品だ。

フィル・ラモーン(Phil Ramone)をプロデューサーに迎えた今作は、10ヵ国以上の音楽チャートで上位を獲得。トータルセールス枚数は800万枚を突破し、1980年に行われたグラミー賞では最優秀アルバム賞最優秀男性ポップボーカルパフォーマンスの二冠を達成した。

『ニューヨーク52番街』(52nd Street)の特徴と言えば、ジャズ/フュージョン界から名だたるミュージシャンが多く参加していることだろう。
あまりご存じない方も多いかもしれないが、ニューヨークは「ジャズの街」としても非常に有名。
今作では当時NYで活躍していたフレディ・ハバード(Freddie Hubbard)、マイク・マイニエリ(Mike Mainieri)、エリック・ゲイル(Eric Gale)など多くの名手が参加している。

ちなみにタイトルの『ニューヨーク52番街』は、1930年から1950年にかけて路上でのジャズ演奏が頻繁に行われていた場所。
収録曲のいくつかにジャズの要素が含まれているのは、そういった経緯もあるのかもしれない。

52nd Street - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Big ShotBilly Joel4:03
2.HonestyBilly Joel3:52
3.My LifeBilly Joel4:44
4.ZanzibarBilly Joel5:13
5.StilettoBilly Joel4:42
6.Rosalinda's EyesBilly Joel4:41
7.Half a Mile AwayBilly Joel4:08
8.Until the NightBilly Joel6:35
9.52nd StreetBilly Joel2:27

Background & Reception

1曲目を飾るのは、日本語で「大物」を意味する”Big Shot”
ビリーはこの曲を「ミック・ジャガー(Mick Jagger)と当時の妻ビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)と食事をした後に書き上げた曲」と語っている。ミックがビアンカに向けて歌っているところを想像しながら歌詞を完成させたそうだ。
楽曲にロックのテイストが含まれているのは、そういった経緯があるのかもしれない。
ビルボード誌は”Big Shot”について「アップテンポなロックナンバー」「パワフルでリズミカルなバッキングの楽曲」と表現している。

2曲目”Honesty”は、このアルバムで最も人気の高いピアノ・バラード曲。
特に日本での人気は凄まじく、CMでの使用、国内アーティストによるカバーも頻繁に行われているため、耳にしたことのある方も多いだろう。
「誠実」を意味する”Honesty”では、「正直でいることの難しさ」を表現しており、これは誠実な男”ビリー・ジョエル”でなければ歌えない内容だ。

ビリーは自身を「人を信用しやすい人物」と表現しており、数多くの詐欺被害に遭ってきた。それでもこの楽曲の歌詞から感じるのは、”心の底から人を疑うことが出来ない、ビリーの人柄の良さ”。
メロディーと歌詞が見事にマッチした、ビリーを代表する楽曲だ。
1980年に行われたグラミー賞では、ソング・オブ・ザ・イヤーにノミネートされている。

リズミカルなドラムとベースから始まる”My Life”も、今作を代表する楽曲だ。
シングルとしてもリリースされ、複数の国の音楽チャートで1位を獲得。
コーラスにはアメリカのロックバンド、シカゴ(Chicago)のピーター・セテラ(Peter Cetera)、ドニー・ダカス(Donnie Dacus)も参加している。
明るくノリの良いナンバーで、ビルボード誌では”My Life”を「リスナーを上機嫌にさせる、伝染性の高い曲」と表現している。

ドラマティックな展開をみせる”Zanzibar”は、ジャズ・トランペット奏者フレディ・ハバード(Freddie Hubbard)が参加。
フレディは『処女航海』(Maiden Voyage)、『ブルースの真実』(Blues & The Abstract Truth)など数多くの名盤に参加している伝説的トランぺッターである。
”Zanzibar”では、本物のジャズメンにしか出来ないスウィンギーなソロをプレイ。
楽曲のメロディーも緊張があり、非常に完成度の高い楽曲だ。

5曲目は、哀愁漂うリッチー・キャナータ(Richie Cannata)のサックスから始まる“Stiletto”。
リズミカルでダイナックな楽曲でビリー・ジョエルらしい曲でもある。

“Rosalinda's Eyes”は、アルバム内で唯一となるラテン・ナンバー。
タイトルはビリーの母ロザリンド・ナイマン・ジョエル(Rosalind Nyman Joel)のことで、歌詞も彼女に関する内容のものになっている。
軽やかさの中に暖かさもある、そんな楽曲だ。

7曲目"Half a Mile Away"では、ギター職人エリック・ゲイル(Eric Gale)、パーカッションにはジャズ界からデイヴィッド・フリードマン(David Friedman)が参加している。
ブラス・ロックナンバーでアップテンポな楽曲を好む方におすすめ。

ライチャス・ブラザーズ (The Righteous Brothers)にインスパアを受け、完成したナンバーが"Until the Night"
イギリスでは2ndシングルとしてもリリースされているが、チャート50位と大きなヒットにはならなかった。
緩やかで暖かみがあり、後半にかけて盛り上がりを見せるバラード曲。
終盤に登場するリッチーのサックスにも注目だ。

アルバムの最後を飾るのは、タイトル・ナンバーの"52nd Street"
人生の酸いも甘いも味わった大人ならではの、渋みのあるナンバー。
前曲ではサックスをプレイしていたリッチーだが、この曲ではクラリネット・ソロを披露している。

52nd Street - Credit

ビリー・ジョエル(Billy Joel)- アコースティックピアノ、ヤマハCP-70、フェンダーローズ、シンセサイザー、ボーカル
リッチー・キャナータ(Richie Cannata)- オルガン、サックス、クラリネット
スティーヴ・カーン(Steve Khan)- エレキギター、アコースティックギター、バックボーカル
デヴィッド・スピノザ(David Spinozza)- アコースティックギター(Track 2)
デイヴィッド ブラウン(David Brown)- エレキギター(Track 3)
ラッセル・ジャヴォーズ(Russell Javors)- アコースティックギター(Track 3)
ヒュー・マクラッケン(Hugh McCracken)- ナイロンギター(Tracks 6, 8)
エリック・ゲイル(Eric Gale)- エレキギター(Track 7)
ダグ・ステグマイヤー(Doug Stegmeyer)- ベース、バックボーカル
リバティ・デヴィート(Liberty DeVitto)- ドラム
マイク・マイニエリ(Mike Mainieri)- ビブラフォン&マリンバ(Tracks 4, 6)
ラルフ・マクドナルド(Ralph MacDonald)- パーカッション(Tracks 6, 7)
デイヴィッド・フリードマン(David Freidman)- チューブラーベル&パーカッション(Track 8)
フレディ・ハバード(Freddie Hubbard)- フリューゲルホルン&トランペット(Track 4)
ジョージ・マージ(George Marge)- リコーダー(Track 6)
ロバード・フリードマン(Robert Freedman)- ホーン&ストリングオーケストレーション(Tracks 2, 8)
デイヴ・グルーシン(Dave Grusin)- ホーンオーケストレーション(Track 7)

-Reviews
-, , , ,

© 2024 Tororopizza Music Magazine