ザ・ポリス(The Police)が1977年にデビューアルバム『アウトランドス・ダムール』(Outlandos d'Amour)をリリースした際、彼らはこう豪語した。
「3年後にはビートルズ(The Beatles)が作った世界的記録をすべて塗り替える」
残念ながら、ビートルズのあまりに高すぎる壁は越えられなかったが、1983年にリリースしたアルバム『シンクロニシティー』(Synchronicity)は現在でも世代を超えて愛されている名作だ。
リリース直後、世界各国のチャートにランクインし、アルバム総売上枚数は900万枚以上。1984年にはグラミー賞5つにノミネートされ、「アルバム・オブ・ア・イヤー」を含む、3つを受賞した。
彼らの音楽は「ニュー・ウェーブ」「アート・ポップ」「ホワイト・レゲエ」などとジャンル分けされているが、正直なところ、どれもあまりピンとこない。UKロックはどれもキャラクターのあるバンドが多いが、その中でも、 ザ・ポリスの音楽は独特で、オリジナリティーに溢れていた。約10年ほどの活動期間ではあったが、もしこれが20年、30年と続いていれば彼らの目指していた「ビートルズ越え」は可能だったのかもしれない。そう思わせてくれるアルバムが『シンクロニシティー』(Synchronicity)なのだ。
Synchronicity - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | Synchronicity I | Sting | 3:23 |
2. | Walking in Your Footsteps | Sting | 3:36 |
3. | O My God | Sting | 4:02 |
4. | Mother | Andy Summers | 3:05 |
5. | Miss Gradenko | Stewart Copeland | 2:00 |
6. | Synchronicity II | Sting | 5:00 |
7. | Every Breath You Take | Sting | 4:13 |
8. | King of Pain | Sting | 4:58 |
9. | Wrapped Around Your Finger | Sting | 5:13 |
10. | Tea in the Sahara | Sting | 4:11 |
11. | Murder by Numbers | Andy Summers, Sting | 4:36 |
Background & Reception
1曲目の「シンクロニシティーI」(Synchronicity I)は、シンセサイザーとドラム・マシンが使用された、アップテンポでノリの良い曲だ。歌詞はカール・グスタフ・ユングの提唱した概念「シンクロニシティー」を歌ったもので、アルバムやこの曲のタイトルにもなっている。作詞作曲はベース&ボーカルのスティング(Sting)で日本でのみ、シングルカットされた曲だ。
2曲目の「ウォーキング・イン・ユア・フットステップ」(Walking in Your Footsteps)は「恐竜」のことを歌っており、こちらもスティングが作詞作曲。民族楽器を基調にし、古代のサウンドを見事に表現している。こういった音楽性の幅広さがまさしく"The Police"らしい。
次の曲、「オー・マイ・ゴッド」(O My God)はディスコ・サウンドにUKロックをミックスしたナンバー。ライブではザ・ポリス3人の演奏力が存分に発揮され、ライブ映えする曲でもある。
ポリスの曲はほとんどベース&ボーカルのスティング(Sting)が作詞作曲だが、このマザー(Mother)は
ギターのアンディー・サマーズ(Andy Summers)によって書かれた曲。リードボーカルもアンディーで、曲調も歌詞も中々にダークだ。スティングは様々な楽器を演奏できることで有名だが、この曲ではオーボエをプレイしている。
5曲目のミス・グラデンコ(Miss Gradenko)もスティングではなく、ドラムのスチュワート・コープランド(Stewart Copeland)が作詞作曲。シンプルな曲にも聞こえるが、楽器隊はかなりハイレベルな演奏を熟している。それもそのはず、スチュワートは有名なドラマーで「ローリング・ストーンの選ぶ歴史上最も偉大な100人のドラマー」の7位に選ばれるほどの実力者なのだ。
6曲目の「シンクロニシティーII」(Synchronicity II)はアルバムの中でも人気が高く、3番目にシングルカットされた曲でもある。1曲目の「シンクロニシティーI」(Synchronicity I)と同じく、カール・グスタフ・ユングの提唱した概念「シンクロニシティー」のことを歌っている。こちらもアップテンポでノリの良い曲。
アルバムで一番人気の曲が「見つめていたい」(Every Breath You Take)だ。日本人でも、この曲を耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。セールス的にも成功し、シングルとして170万枚以上の売り上げを誇り、第26回のグラミー賞も受賞したナンバー。これまでの曲とは違い、クセがないのでこの曲からザ・ポリスを聞き始めたひとも多いかと思う。
色々な場面で使用されている曲だが、最近ではNetflixnのドラマ『ストレンジャー・シングス 未知の世界』(Stranger Things)の最終話で使用されていた。
「キング・オブ・ペイン」(King of Pain)はアルバム中、最後にシングルカットされた曲で、アメリカやイギリスの音楽チャートで上位にランクインした。曲はスティングとエンジニアのヒュー・パジャム(Hugh Padgham)でほとんどの部分を完成させた。歌詞はスティングの最初の奥さんとの出来事を歌っている。
ミュージックビデオも作成されたが、当時はオーストラリアでのみリリース放送されていた。
カナダ出身の歌手、アラニス・モリセット(Alanis Morissette)もこの曲をカバーし、話題になったことがある。
「アラウンド・ユア・フィンガー」(Wrapped Around Your Finger)はシングルとして2番目にリリースされた曲。スティングはインタビューにて、「"Every Breath You Take","Wrapped Around Your Finger"は私の個人的な曲で、私の人生全てだった」と答えていた。それほどスティングの想いが込められた曲ということだろう。
ミュージック・ビデオは元10ccのメンバーであるゴドレイ&クレーム(Godley & Creme)によるもので"Every Breath You Take","Synchronicity II"のMVも彼らが監督している。
サハラ砂漠でお茶を(Tea in the Sahara)はポール・ボウルズ(Paul Bowles)の小説「極地の空」(The Sheltering Sky)について書かれた曲。ギターのアンディーはこの曲のレコーディングの際、サウンド面に関してかなり気を使っていたようで、フィードバックやエコーを利用し、浮遊感や揺らぎを表現した。
最後の曲はスティング&サマーの共作マーダー・バイ・ナンバーズ(Murder by Numbers)。
歌詞もメロディーも強烈で、1度聞いたら耳に残るキャッチーなフレーズだ。フランク・ザッパ(Frank Zappa)と共演したときにもこの曲を演奏している。
Synchronicity - Credit
スティング(Sting)- リードボーカル、バックボーカル、ベース、アップライトベース、キーボード、ドラムマシン、シーケンサー(Track 1)、サックス(Track 3)、オーボエ(Tracks 4, 10)
アンディ・サマーズ(Andy Summers)- エレキギター、バックボーカル、キーボード、リードボーカル(Track 4)
スチュワート・コープランド(Stewart Copeland)- ドラム、マリンバ、パーカッション、バックボーカル
Conclusion
ザ・ポリスはクセの強いバンドで、好き嫌いが別れるバンドだと思う。だが、彼らのこのアルバムは聞きやすい曲も多く、発売から30年以上経った今でも、愛されている名盤だ。バンド色の強いバンドではない為、演奏面に注目が集まりづらいかもしれない。しかし、3人とも本当に優れたプレイヤーであることは、ライブやライブ映像を見れば疑う余地がない。是非彼らのこの芸術作品が、若い世代にも愛されることを願う。