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新生レッチリが生んだハードロック・ファンク・アルバム『母乳』(Mother's Milk) - レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)

mother's milk 母乳 レッチリ

『母乳』(Mother's Milk)は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)が1989年にリリースしたアルバムである。

ヒレル・スロヴァク(Hillel Slovak)、ジャック・アイアンズ(Jack Irons)の脱退により、今作からジョン・フルシアンテ(John Frusciante)、チャド・スミス(Chad Smith)が加入。
現在では世界有数のバンドとして知られているレッチリだが、広く知られる原因となったのは、この二人が参加して初の作品となった『母乳』(Mother's Milk)からだろう。
両名共にバンドに影響を与えたことは間違いないが、特に大きな存在となったのは、ギタリストのジョン・フルシアンテだ。

それまでのレッチリは基本的にリズム重視の楽曲が多く、ファンク・バンドに近いグループであった。
しかし、ジョンの加入したことにより、メロディーを強調するナンバーが増加。
ファンキーでメロディアスな楽曲で世界中のファンの心を掴んだレッチリは、後にトータルセールス8000万枚以上を記録するバンドへ成長することになる。

そんなレッチリの黄金期の始まりと呼べる作品が、今回紹介する『母乳』(Mother's Milk)なのだ。
ここからは旧メンバーの脱退、そして新メンバーの加入からアルバムリリースまでの経緯を説明していこう。

レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)は、ボーカルのアンソニー・キーディス(Anthony Kiedis)、ベーシストのフリー(Flea)が中心となり結成したバンド。

この二人にジャック・シャーマン(Jack Sherman)、クリフ・マルティネス(Cliff Martinez)を加えたメンバーにて、1984年にデビュー・アルバム『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』(Red Hot Chili Peppers)をリリースする。
しかし、この作品が商業的に成功しなかったことから、メンバーを入れ替えることを決意。
ジャックの代わりにギタリスト、ヒレル・スロヴァク(Hillel Slovak)が加入することとなった。

その後、1985年にファンクの神様であるジョージ・クリントン(George Clinton)をプロデューサーに迎え、2ndアルバム『フリーキー・スタイリー』(Freaky Styley)を発表。
この作品でまずまずの成功を収めたレッチリは、クリフの代わりにジャック・アイアンズ(Jack Irons)を新ドラマーとして迎え入れる。
その後、1987年には3rdアルバム『ジ・アップリフト・モフォ・パーティ・プラン』(The Uplift Mofo Party Plan)をリリースし、ビルボードチャートにて148位にランクイン。
徐々にスターへの階段を昇り始めていた。

しかし、ここでギタリストのヒレルがヘロイン中毒によりこの世を去ってしまい、これに伴いジャックもバンドを離脱。
アンソニーとフリーは新しいギタリストとドラマーを探し始めることとなった。
まず候補に挙がったのが、パーラメント(Parliament)に所属していたギタリスト、デュエイン・マックナイト(DeWayne McKnight)。
そしてデッド・ケネディーズ (Dead Kennedys)で活躍していたドラマーのD・H・ペリグロ(D. H. Peligro)である。
しかし、3つのライブを終えた後に「バンドにフィットしていない」と感じたアンソニーはデュエインを解雇。これに激怒したデュエインは「アンソニーの家を燃やす」と脅したそうだ。

ギタリストがいなくなってしまったレッチリだったが、この期間はそう長くは続かなかった。
1988年10月、アンソニーとフリーは新ギタリストのオーディションを行い、そこで出会ったジョン・フルシアンテをバンドへ迎え入れることになる。
元々ジョンはレッチリのライブに頻繁に足を運んでおり、バンドの楽曲を全てコピーしていたほど熱狂的なファンだったそうだ。
ジョンのプレイを見たベーシストのフリーは、当時の様子を以下のように語っている。

「ジョンは俺が知らない色々な理論を知っていた。俺は音楽理論については全くと言っていいほど知らないんだけど、ジョンは死ぬほど勉強していたね。彼はすごく訓練されたギタリストで、ギターか煙草にしか興味がないやつだった。」

見事バンドへ加入することとなったジョンは、この時の様子を以下のように語っている。

「レッチリに加入する前はファンクについてあまり知らなかったんだ。必要なことはヒレル・スロヴァクを研究することで学んでいった。」

ジョンが加わり、新たなメンバーで活動を開始したレッチリ。
しかし、アンソニー、フリーの二人はすぐに「D・H・ペリグロに代わるドラマーが必要」だと感じていた。それは彼がドラック中毒に陥っていたためだ。
1988年9月、アンソニーは良い友人でもあったペリグロを解雇。
当時の様子をアンソニーは「人生で最も辛かったことのひとつ」と語っている。

新しいドラマーを探すため、レッチリは再度オーディションを開くことを決意。
そこで出会った190cmを超える長身ドラマー、チャド・スミス(Chad Smith)をメンバーとして迎え入れることとなった。
オーディションでチャドのドラミングを聴いたメンバーは、当時の様子を以下のように語っている。

「尻に火を付けられたようなドラムだった。チャドが去った後30分ぐらい興奮しっぱなしだったね。」

チャドが他のメンバーと違うバックグラウンドを持っていたことも興味を引いた要因のひとつだったそうだ。(アンソニー、フリー、フルシアンテの三人はパンク・ロック寄りのスタイルだったが、チャドはクラシック・ロックやヘビーメタルを好んで聴いていたらしい)
1988年12月にチャドを加えた新生レッチリは、ここから世界へ大きく羽ばたくことになる。

1989年2月、レッチリはハリウッドにあるオーシャン・ウェイ・レコーディング・スタジオへ入り、4thアルバムのレコーディングを開始。
フルシアンテはこの時の様子を以下のように語っている。

「加入から数か月でレコーディングをするのは変な感覚だったね。特にチャドなんか加入して2週間ぐらいしか経っていなかったし。自分の立ち位置を理解するのにも苦労したし、バンドというよりは”個別で集まった4人”って感じだった。」

『母乳』(Mother's Milk)は、ハードロック色が強い、ある意味”レッチリらしくない”作品に仕上がっている。
これは今作のプロデューサーを務めたマイケル・バインホーン(Michael Beinhorn)が大きく影響しているようだ。
マイケルはジョンに「ヘビーメタルに近いギターサウンド」で演奏するように要求し、彼らは頻繁に衝突していたという。
最終的には他のメンバーもマイケルの横暴な態度に嫌気が差し、結果レッチリとマイケルは今作限りで絶縁することとなった。

100%納得のいく作品とはならなかった4thアルバムではあるが、1989年8月16日にリリースされた今作は、ビルボードチャートにて52位を獲得。
イギリスやヨーロッパの音楽チャートでも上位にランクインを果たすことになる。
1990年3月までには50万枚の売上を記録し、レッチリの名を世界へ知らしめる結果となった。

ここから先は『母乳』(Mother's Milk)に収録されているハードでファンキーな楽曲達を紹介していこう。

Mother's Milk - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Good Time BoysRed Hot Chili Peppers5:02
2.Higher GroundStevie Wonder3:23
3.Subway to VenusRed Hot Chili Peppers4:25
4.Magic JohnsonRed Hot Chili Peppers2:57
5.Nobody Weird Like MeRed Hot Chili Peppers3:50
6.Knock Me DownRed Hot Chili Peppers3:45
7.Taste the PainAnthony Kiedis, John Frusciante, Flea, D.H. Peligro4:32
8.Stone Cold BushAnthony Kiedis, John Frusciante, Flea, D.H. Peligro3:06
9.Fire (Jimi Hendrix cover)Jimi Hendrix2:03
10.Pretty Little Ditty (instrumental)Red Hot Chili Peppers1:35
11.Punk Rock ClassicRed Hot Chili Peppers1:47
12.Sexy Mexican MaidAnthony Kiedis, John Frusciante, Flea, D.H. Peligro3:23
13.Johnny, Kick a Hole in the SkyRed Hot Chili Peppers5:12

Background & Reception

1曲目の"Good Time Boys"はアルバムのオープニングを飾るにふさわしいファンキーなロック・ソング。
先に記したとおり、ギターのサウンドはかなりヘビーだ。
これはアルバムを通して言えることだが、基本的に左右のギタートラックで違うプレイをしている点も、ギターのサウンドが厚く感じる理由のひとつだろう。バッキング・ボーカルとして、前任のギタリストジャック・シャーマン(Jack Sherman)が参加している。

次の曲"Higher Ground"は スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)が1973年にリリースした曲。 ハード・ロック風にアレンジされており、スティーヴィー本人もお気に入りのカバーだ。この曲はなんといってもイントロのベース・フレーズだろう。ベーシストで知らない人はいないほど、有名すぎるフレーズだ。

3曲目の"Subway to Venus"も"Good Time Boys"とテイスト的には同じだが、ファンクの要素はわずかにこちらが強めな印象。
また、こちらはホーン・セクションが追加されている。

"Magic Johnson"は全米プロバスケットボール協会(NBA)のチーム、ロサンゼルス・レイカーズに所属していた"Earvin "Magic" Johnson Jr."の愛称。これがそのまま曲のタイトルになっている。こういった短くてテンポの速い曲は、レッチリのアルバムで必ず1曲は入っているような気がする。

5曲目の"Nobody Weird Like Me"はかなりハード・ロック寄りのナンバー。というか、この曲に関してはファンクの要素はない。

"Higher Ground"に次ぎ、2枚目にシングルカットされたのが6曲目の"Knock Me Down"
ドラッグ中毒でこの世を去った前任のギタリスト、ヒレル・スロヴァク(Hillel Slovak)のことを歌っています。メロディアスでキャッチーなナンバー。アルバムの中で2番目に売れた曲でもある。

アルバムで3枚目にシングルカットされた曲が"Taste the Pain"。
ドラムのチャド・スミスが加入する前に完成した曲の為、ドラムはフィリップ・フィッシャーがプレイしている。
また、ジョンが初めてレッチリとしてレコーディングした曲でもある。中間のトランペットソロはフリーによるもの。

8曲目の"Stone Cold Bush"ワウの効いたギターから始まるファンキーなナンバー。ベースソロが有名なので、"Higher Ground"と並んでベーシストにおすすめしたい曲だ。

"Fire"はジミ・ヘンドリックス(Jimi Hendrix)が1967年にリリースした曲。ギターを弾いているのは生前のヒレル・スロヴァク(Hillel Slovak)でこのアルバムで唯一、彼のギターが聞けるナンバー。原曲より少しハードロック寄りのアレンジとなっている。

"Pretty Little Ditty"はギターのジョン、ベースのフリーによって書かれた、このアルバムで唯一のインスト(歌なし)の曲。このアルバム以降のレッチリっぽさを含んだサウンドをきくことができる。おそらくジョンは、このサウンドで他の曲もプレイしたかったのではないだろうか。バッキングのトランペットはフリーによるもの。

11曲目は"Punk Rock Classic"。タイトルの通り、ロックン・ロールなナンバー。曲のエンディングにガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N' Roses)「スウィート・チャイルド・オブ・マイン」(Sweet Child o' Mine)のイントロ・フレーズが使われている。

次の"Sexy Mexican Maid"については、レッチリの次回作"Blood Sugar Sex Magik"の雰囲気を強く感じる。そういった意味ではサウンド面を除き、このアルバムでは異彩を放っているといってよいかもしれない。

ラストの"Johnny, Kick a Hole in the Sky"は、ワウの効いたギター&ベースがクールなレッチリらしい曲。ギターはファンク寄りだが、ベースはパンク・ロック風のフレーズで曲を盛り上げている。

Mother's Milk - Credit

アンソニー・キーディス(Anthony Kiedis)- リードボーカル(tracks 6, 10を除く)、アートコンセプト
ジョン・フルシアンテ(John Frusciante)- ギター(track 9を除く)、リードボーカル(track 6)、バックボーカル
フリー(Flea)- ベース、トランペット(tracks 3, 7, 10)、バックボーカル
チャド・スミス(Chad Smith)- ドラム(tracks 7, 9を除く)、パーカッション、タンバリン
ヒレル・スロヴァク(Hillel Slovak)- ギター(track 9)、バックボーカル(track 9)
ジャック・アイアンズ(Jack Irons)- ドラム(track 9)

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