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パーティーロックの名盤。700万枚を売り上げたアルバム『ドクター・フィールグッド』 (Dr.Feelgood) - モトリー・クルー(Motley Crue)

ドクター・フィールグッド(Dr.Feelgood) - モトリー・クルー(Motley Crue)

『ドクター・フィールグッド』 (Dr.Feelgood)は、モトリー・クルー(Motley Crue)が1989年にリリースしたアルバムである。
これまでに10作以上の作品をリリースしている中、今回紹介する『ドクター・フィールグッド』 (Dr.Feelgood)は「モトリー・クルーの最高傑作」と称されている名盤。
ここからはモトリー・クルー(Motley Crue)が結成した1981年から、本作をリリースした1989年までの彼らの歴史を簡単に紹介していこう。

モトリー・クルーは1981年1月17日にニッキー・シックス(Nikki Sixx)、トミー・リー(Tommy Lee)、グレッグ・レオン(Greg Leon)が中心となり結成したバンドである。
元々リーとレオンはスイート19(Suite 19)と呼ばれるバンドに所属。モトリー・クルー結成以前からこれにニッキーを加えた3人で時折練習を行っていたそうだ。

しかし、すぐにギターボーカルを担当していたレオンが脱退。
そこでニッキーとトミーは雑誌の広告に「うるさくて、激しくアグレッシブなギタリストを募集中」(Loud, rude and aggressive guitar player available)と記載し、メンバー募集を開始する。
それからすぐに2人のギタリスト、ロビン・ムーア―(Robin Moore)、ミック・マーズ(Mick Mars)から連絡を受けたニッキーとトミー。
オーディションを行った結果、バンドはミックをギタリストとして迎え入れることとなった。(ちなみにこの際、オーディン(O'Dean)と呼ばれるボーカリストのオーディションも実施。しかし残念ながら彼もロビンと共に落選している。)

ギター、ベース、ドラムが揃ったバンドはボーカリストを探すことになり、ここで候補に挙がったのがヴィンス・ニール(Vince Neil)である。
トミー・リーはヴィンスをハイスクール時代から認知しており、彼が素晴らしいボーカリストであることを知っていた。
トミーからの誘いを受けたヴィンスはバンドへ加入することを承諾。
オリジナルメンバーの4人が揃ったのは、1981年4月1日のことだった。
(1981年4月24日にはスターウッドのナイトクラブにて初ライブを行っている)

メンバーが揃った4人だったが、結成当初はまだバンド名を決めきれずにいた。
(ベーシストのニッキーはクリスマス(Christmas)という名前が良いと思っていたが、バンドメンバーに断られていたそうだ)
名前を考えている際、ニックがホワイト・ホース(White Horse)というバンドで演奏している際にあったエピソードを思い出した。
そこのバンドメンバーが自身のバンドを「胡散臭い見た目のメンバー」(a motley looking crew)と紹介。そこからニックがドイツビールのレーヴェンブロイ(Löwenbräu)のスペルを参考にモトリー・クルー(Mötley Crüe)の名が完成した。(バンド名を考えている際、メンバーはレーヴェンブロイを飲みながら考えていたらしい…)

そこからモトリー・クルー(Mötley Crüe)は1982年に1stアルバム『華麗なる激情』(Too Fast For Love)、翌年には2ndアルバム『シャウト・アット・ザ・デヴィル』 (Shout At The Devil)を発表。
1980年代に流行した「LAメタル」の波に乗った彼らは、一気にアメリカを代表するロックバンドへと成長した。

この後も、オジー・オズボーン (Ozzy Osbourne)やサクソン(SAXON)のツアーをサポートするなど精力的に活動。
しかし、このあたりから元々メンバー間で蔓延していたアルコール中毒やドラッグ中毒が加速。
特にボーカルのヴィンスは1984年12月8日に飲酒運転で起こし、ハノイ・ロックスのドラマーであるラズルを志望させる事故を起こしている。

1985年にヴィンスがアルコールのリハビリセンターから戻ると、モトリー・クルーは3rdアルバム『シアター・オブ・ペイン』(Theatre Of Pain)をリリース。
ニッキーは「メンバー全員が薬物中毒、アルコール中毒だったため、納得の出来ではない」と語っているものの、ビルボードチャートでは6位にランクイン。最終的には400万枚上を売り上げる大きな成功を収めている。

この後も更に薬物依存が酷くなり、ヘロインやコカインを続けるメンバー。
特にニッキーは「ドラッグディーラーの家で吸引中に気を失い、死亡したと思われたためにゴミ箱へ投げ捨てられていた」という超絶なエピソードがあるほどだ。
1986年には飲酒運転の事故を起こしたヴィンスが刑務所に拘禁。
モトリー・クルーは「ザ・ロックスター」と呼べる生活を送っていた。

その後、1987年には4rdアルバム『ガールズ、ガールズ、ガールズ』(Girls,Girls,Girls)を発表し全米アルバムチャート最高2位を記録。
こちらも現在までに400万以上を売り上げるなど大きな成功を収めている。

数々の問題を起こしていたモトリー・クルーだったが、ある日ニッキーがドラッグの過剰摂取により2分間心臓が停止。これがきっかけによりメンバー全員がドラッグを絶ち、5thアルバムの制作を行うこととなった。
ここで誕生したのが、1989年に発表された『ドクター・フィールグッド』 (Dr.Feelgood)である。

カナダのリトル・マウンテン・サウンド・スタジオで録音された今作は、ビルボードチャートにてバンド初の1位を獲得。他の国でもトップテンへランクインするなど、爆発的な人気を誇り、トータルセールス枚数はなんと700万枚を突破。
名実ともに「モトリー・クルーの最高傑作」となり、ロックの名盤として歴史に名を刻むこととなった。

本アルバムのレコーディングを行ったのは、ボブ・ロック(Bob Rock)。
彼は当時の様子を以下のように語っている。

「彼らとの仕事は大変なものだった。メンバーそれぞれがワインを1本空にして、酔った勢いで殺し合いを始めそうなバンドだったからね。レコーディングはお互いが鉢合わせないよう、別々に行ったんだ。」

また、『ドクター・フィールグッド』 (Dr.Feelgood)ではスティーヴン・タイラー(Steven Tyler)、ナイト・レンジャー(Night Ranger)のベース&ボーカルを担当しているジャック・ブレイズ(Jack Blades)らも録音に参加している。他にも豪華なメンバーが揃っており、それだけでも聞く価値があるアルバムと言えるだろう。

ちなみにメタリカ(Metallica)のドラマーであるラーズ・ウルリッヒ(Lars Ulrich)も『ドクター・フィールグッド』 (Dr.Feelgood)の完成度に感動。
これが原因でボブ・ロックはメタリカ(Metallica)の5thアルバム『ブラック・アルバム』(Metallica)のプロデューサーとしても起用されることとなった。

Dr.Feelgood - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.T.n.T. (Terror 'n Tinseltown)Sixx0:42
2.Dr. FeelgoodSixx, Mick Mars4:50
3.Slice of Your PieSixx, Mick Mars4:32
4.Rattlesnake ShakeSixx, Mick Mars, Vince Neil, Tommy Lee3:40
5.Kickstart My HeartSixx, Mick Mars4:48
6.Without YouSixx4:29
7.Same Ol' Situation (S.O.S.)Sixx, Mick Mars, Vince Neil, Tommy Lee4:12
8.Sticky SweetSixx, Mick Mars3:52
9.She Goes DownSixx, Mick Mars4:37
10.Don't Go Away Mad (Just Go Away)Sixx, Mick Mars4:40
11.Time for ChangeSixx, Donna McDaniel4:45

Background & Reception

アルバムのオープニングを飾るのは、インスト曲の"T.n.T. (Terror 'n Tinseltown)"
ここではサンプルとして、アメリカのプログレッシブ・メタル・バンド、クイーンズライク(Queensrÿche)の"Eyes of a Stranger"で使用された音源が使用されている。ロックバンドらしいアルバムのオープニング・ナンバーだ。

2曲目"Dr. Feelgood"は、アルバムのタイトルにも選ばれた今作を代表する楽曲だ。
リードシングルとしてリリースされ50万枚以上を売り上げたことにより、シングルチャートでは6位を獲得。
モトリー・クルー(Motley Crue)として初めてトップ10チャートにラインクインしたナンバーである。
作曲はギターのミック・マーズ(Mick Mars)、ニッキー・シックス(Nikki Sixx)。
跳ねたリズムと激しいサウンドが絶妙にミックスされた、ロックンロールを代表する名曲。

アコースティックの美しいサウンドから始まるのが、3曲目"Slice of Your Pie"
イントロが終わると、ヘビーメタルサウンドに代わる縦ノリサウンド全開のロック・ナンバーだ。
曲のエンディングではビートルズ(The Beatles)の"She's So Heavy"を模したサウンドも楽しむことができる。
作詞・作曲は、全曲に続きミック・マーズ、ニッキー・シックスの両名。

4曲目"Rattlesnake Shake"は、バンド全員で作詞作曲を行ったロックナンバー。
力強いドラミング、ギターのサウンドが強調されており、また本アルバムでは珍しくキーボードのサウンドも追加されている。
それぞれの楽器が激しく主張しているものの、楽曲としてまとまっているのはボブ・ロックの手腕によるものだろう。

5曲目"Kickstart My Heart"は"Dr. Feelgood"と並ぶ本アルバムを代表する楽曲。
アルバム内で最もノリの良い、こちらもモトリー・クルー(Motley Crue)を代表する曲と言って良いだろう。
作曲を行ったのは、ニッキー・シックス。
彼がアコースティックギターを弾きながら紙に歌詞を書いていると、マネージャーが「バンドにシェアした方がいい」と推薦。
しかし、めんどくさがりのニッキーがそれをメンバーにシェアしたのは随分後になってからで、それからすぐにこの名曲が誕生したそうだ。
この"kickstart my heart"というフレーズは、ニッキーが薬物中毒で心臓が止まった際"救護隊員が彼の心臓にアドレナリンを注射した"エピソードが由来となっているとされている。
しかし、ガンズ・アンド・ローゼズ(Guns N' Roses)のスティーヴン・アドラー(Steven Adler)はこのストーリーを否定。
「救護隊員が来た時、ニッキーの心臓は既に動いていた」と語っている。

ちなみに、2019年にはカナダ人ドライバーがスピード違反で掴まった際「モトリークルーの"Kickstart My Heart"が流れていたから」と言い訳したニュースが話題となった。※実際に彼を捕まえた警察官もこのラジオを聞いていたらしい

6曲目"Without You"は、本アルバムで数少ないバラードナンバー。
シングルとしてもリリースされており、ビルボードチャートで最高8位まで上昇した。
注目はイントロとソロで見せるミックのスチールギターのサウンド。
ロックギタリストながらこういった泣かせるギターやアルペジオを演奏できる人物は、そう多くはいないだろう。

アメリカンロックらしいパワフルなリフから始まるのが、7曲目"Same Ol' Situation (S.O.S.)"
"Rattlesnake Shake"と同じく、全員が作詞作曲を行った楽曲でもある。
短いながらもミックの多彩な技が光るギターソロにも注目。

8曲目"Sticky Sweet"では多くのゲストミュージシャンが参加している。
その中でもビッグネームなのは、やはりエアロスミス(Aerosmith)のスティーヴン・タイラー(Steven Tyler)だろう。
よく耳を凝らして聴いてみると、タイラーの特徴的な声がしっかりとミックスされている、エアロスミスは必聴の楽曲だ。
作詞作曲はニッキー、そしてミック・マーズの両名。

パワフルなドラムが強調された楽曲が、9曲目"She Goes Down"
「モトリー・クルーの激しい楽曲を支えるのは、トミー・リーでなくてはならない」と再認識させてくれるナンバーでもある。
ここではロビン・ザンダー(Robin Zander)、リック・ニールセン(Rick Nielsen)の両名がバックボーカルとして参加。
作詞作曲はもちろんニッキー、そしてミック・マーズだ。

10曲目"Don't Go Away Mad (Just Go Away)"は、メロディーが強調されたミドルテンポの楽曲。
4枚目にシングルとしてリリースされており、ロックチャートでは13位にまで上昇している。
本アルバムでは珍しく「激しさ」よりも「美しさ」が強調されており、ポップ・サウンドも含まれた心地よいナンバーだ。

アルバムのラストを飾るのは、ニックとドナ・マクダニエル(Donna McDaniel)が作曲したバラード曲。
こちらもポップ色の強い、多くの人にとって聴きやすい楽曲と言えるだろう。
バックボーカルにはスキッド・ロウ(Skid Row)、ボブ・ダウド(Bob Dowd)など4名のミュージシャンが参加している。
心地よいロックサウンドを求めている人には是非、視聴していただきたい。

Credit

ヴィンス・ニール(Vince Neil)- ボーカル、リズムギター、ハーモニカ
ミック・マーズ(Mick Mars)- リードギター
ニッキー・シックス(Nikki Sixx)- ベース
トミー・リー(Tommy Lee)- ドラム

[Guest]

ボブ・ロック(Bob Rock)- ベース(Track 11)、バックボーカル(Tracks 2, 4, 8, 9)
ジョン・ウェブスター(John Webster)- ホンキートンクピアノ、キーボード、プログラミング
トム・キーンリーサイド(Tom Keenlyside)- ホーンセクション(Track 4)
イアン・プッツ(Ian Putz)- ホーンセクション(Track 4)
ロス・グレゴリー(Ross Gregory)- ホーンセクション(Track 4)
ヘンリー・クリスチャン(Henry Christian)- ホーンセクション(Track 4)
ドナ・マクダニエル(Donna McDaniel)- バックボーカル
エミ・キャニオン(Emi Canyn)- バックボーカル
マーク・ラフレンス(Marc LaFrance)- バックボーカル
デヴィッド・スティール(David Steele)- バックボーカル
スティーヴン・タイラー(Steven Tyler)- バックボーカル(Tracks 3, 8)
ブライアン・アダムス(Bryan Guy Adams)- バックボーカル(Track 8)
ジャック・ブレイズ(Jack Blades)- バックボーカル(Tracks 7, 8)
ロビン・ザンダー(Robin Zander)- バックボーカル(Track 9)
リック・ニールセン(Rick Nielsen)- バックボーカル(Track 9)
スキッド・ロウ(Skid Row)- バックボーカル(Track 11)
ボブ・ダウド(Bob Dowd)- バックボーカル(Track 11)
マイク・アマート(Mike Amato)- バックボーカル(Track 11)
トビー・フランシス(Toby Francis)- バックボーカル(Track 11)

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