「最も世界で有名なファンクロック・バンドは?」
この質問の答えに最も適したバンド、それがレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)である。
1983年に結成したレッド・ホット・チリ・ペッパーズ(通称:レッチリ)は、これまでに10枚以上のアルバムをリリースしており、全世界トータルセールスは8000万枚以上を記録。グラミー賞も3回に渡り受賞し、2012年には「ロックの殿堂入り」を果たしている伝説的バンドだ。
レッチリは、ロックとファンクを融合させたジャンルであるファンク・ロックを基調としている。レッチリ以前にもファンク・ロックのスタイルで演奏していたバンドは存在するものの、彼らほどファンク・ロックを世界へ広めたバンドはいないだろう。
特に『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』(Blood Sugar Sex Magik)、『カリフォルニケイション』(Californication)、『バイ・ザ・ウェイ』(By the Way)の3枚はどれも売上枚数1,000万枚を突破しており、ファンク・ロックの歴史に名を刻んだ名盤として愛されている。
そんなレッチリの原点とも呼べる作品が、彼らのファースト・アルバム『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』(Red Hot Chili Peppers)だ。
レッチリは1983年にアンソニー・キーディス(Anthony Kiedis)、フリー(Flea)、ヒレル・スロヴァク(Hillel Slovak)、ジャック・アイアンズ(Jack Irons)により結成している。その1年後に本アルバムを発表しているが、この時期にヒレルとジャックはバンドを一時離脱しており、レコーディングには参加していない。
その代わりに録音を行ったのが、ギタリスト、ジャック・シャーマン(Jack Sherman)とドラマー、クリフ・マルティネス(Cliff Martinez)。
レッチリは頻繁にギタリストが代わることで有名だが、その中でもジャックのギターは初期のレッチリに非常にマッチしていると思う。
彼のギター・サウンドは、ヒレルやジョン・フルシアンテ(John Frusciante)よりもクリーンでさっぱりしていて、”ファンクらしいギター・サウンド”なのだ。
初期のファンク・ミュージックを愛する人であれば、受け入れやすいサウンドであることは間違いない。
世界で最も有名なファンクロック・バンドのファースト・アルバム『レッド・ホット・チリ・ペッパーズ』(Red Hot Chili Peppers)の売上枚数は30万枚と、他のレッチリ作品に比べて極端に少ない。
しかし、このアルバムこそがレッチリの原点であり、彼らの本質を掴むのに最も適した作品なのだ。
「レッチリは好きだが、まだこのアルバムは聞いたことがない」という方は、一度でいいので是非視聴してみてほしい。
The Red Hot Chili Peppers - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | True Men Don't Kill Coyotes | Anthony Kiedis, Flea, Cliff Martinez, Jack Sherman | 3:40 |
2. | Baby Appeal | Anthony Kiedis, Flea, Hillel Slovak, Cliff Martinez, Jack Sherman | 3:41 |
3. | Buckle Down | Anthony Kiedis, Flea, Cliff Martinez, Jack Sherman | 3:24 |
4. | Get Up and Jump | Anthony Kiedis, Flea, Hillel Slovak, Jack Irons | 2:53 |
5. | Why Don't You Love Me | Hank Williams | 3:27 |
6. | Green Heaven | Anthony Kiedis, Flea, Hillel Slovak, Jack Irons | 3:59 |
7. | Mommy, Where's Daddy? | Anthony Kiedis, Flea, Cliff Martinez, Jack Sherman | 3:31 |
8. | Out in L.A. | Anthony Kiedis, Flea, Hillel Slovak, Jack Irons | 2:01 |
9. | Police Helicopter | Anthony Kiedis, Flea, Hillel Slovak, Jack Irons | 1:16 |
10. | You Always Sing the Same | Anthony Kiedis, Flea, | 0:19 |
11. | Grand Pappy Du Plenty | Anthony Kiedis, Flea, Cliff Martinez, Jack Sherman, Andy Gill | 4:15 |
Background & Reception
楽曲も「ファンクロック・バンド」に恥じない、グルーブ感溢れる激しい楽曲が並んでいる。
フリーのファンキーなスラップから始まる”True Men Don't Kill Coyotes”がオープニングを飾り、2曲目”Baby Appeal”はオリジナル・メンバーで作曲を行った、こちらもグルービーなファンクロック・ナンバー。
タイトなサウンドを基調とした3曲目”Buckle Down”も、レッチリらしさが詰め込まれた良曲だ。
4曲目"Get Up and Jump"では、リズム隊の素晴らしい演奏に注目してほしい。フリーのプレイも楽しめる楽曲のため、ベーシストであれば必聴のナンバーとも言えるだろう。
5曲目には伝説的カントリー歌手のハンク・ウィリアムズ(Hank Williams)が生んだ名曲"Why Don't You Love Me"のカバーを収録。オリジナルはもちろんカントリーの楽曲だが、レッチリの手によりファンク・ロック・ナンバーにアレンジされている。原曲を知らない方であれば、カバー曲と気づかないのではないだろうか。
"Green Heaven"は、2曲目と同じくオリジナル・メンバーのヒレルとジャックが作曲に参加している楽曲。個人的にはヒレルが書いた曲はロック寄り、ジャックが書いた曲はファンク寄りのナンバーが多いように感じる。どちらもファンクロックであることには変わらないのだが。
7曲目に並んだ"Mommy, Where's Daddy?"は、クリーンなギターサウンドが心地よい楽曲。ホーンセクションが追加されており、グウェン・ディッキー(Gwen Dickey)がバックボーカルとして参加している。サックスソロもあり、他の曲とは一線を画したナンバー。
4曲目と並び、ベーシストに是非聞いてほしいのが8曲目"Out in L.A."。
ここでのフリーのプレイは、サウンドも素晴らしく、フレーズもさすが一言。ここまでファンキーなリズムを生み出せるのは、ロックバンド界では彼を除けば数名しかいないのではないだろうか。
続く9曲目"Police Helicopter"もベースが暴れている曲だ。"Out in L.A."はグルーブ感溢れるナンバーだが、こちらではロック・サウンド寄りの楽曲。ちなみに作曲はオリジナル・メンバーの4人となっている。
※10曲目"You Always Sing the Same"は17秒しかないため省略
アルバムのラストを飾るのは、これまでとは全く違った雰囲気のインスト曲”Grand Pappy Du Plenty"。ファンクでもロックでもない、浮遊感も持つ楽曲で、作曲にはプロデューサーのアンディー・ギル(Andy Gill)も参加している。
しかし、メンバーとアンディーとの関係は上手くいっておらず、ボーカルのアンソニーは自伝で以下のように語っている。
「メンバーはアンディーのやり方に疑問を持っていた。完成したサウンドも、俺達が1983年に渡したデモテープのエネルギーが欠けたものだったよ。
ある日、アンディーのノートブックが少し見えたことがあるんだけど、"Police Helicopter"の文字の横に”Shit”(くそ)って書いてあったんだ。その瞬間、俺たちはバラバラになった。"Police Helicopter"は大切な曲だし、俺達のスピリットを宿した曲だ。あいつのノートを見た瞬間から俺達は『わかった、俺達は敵と仕事をしているんだ』ってなったね。特に俺とフリーはアンディーに反抗していたことを覚えている。」
結局この事件以降、アンディーはレッチリの作品に参加することはなくなった。
The Red Hot Chili Peppers - Credit
アンソニー・キーディス(Anthony Kiedis)- ボーカル
フリー(Flea)- ベース
ジャック・シャーマン(Jack Sherman)- ギター
クリフ・マルティネス(Cliff Martinez)- ドラム
キース・バリー(Keith Barry)- ホーンアレンジ、ヴィオラ
クリフ・ブルックス(Cliff Brooks)- ティンバル、コンガ
グウェン・ディッキー(Gwen Dickey)- バックボーカル(Tracks 1, 7)
パトリック・イングリッシュ(Patrick English)- トランペット
ケニー・フラッド(Kenny Flood)- テナーサックス
フィル・ラネリン(Phil Ranelin)- トロンボーン