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起死回生の一枚。ビリー・ジョエル(Billy Joel)を救った名盤『ストレンジャー』(The Stranger)

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『ストレンジャー』(The Stranger)は、1977年にコロムビア・レコード(Columbia Records)からリリースされた、ビリー・ジョエル(Billy Joel)5枚目のアルバム。
この作品は「ビリー・ジョエルのアーティスト人生を救ったアルバム」として広く知られている。

ビリーは今作の1年前、アルバム『ニューヨーク物語』(Turnstiles)をリリースしているが、ビルボードチャートで最高122位とセールス面で失敗に終わっている。それまでに4枚のアルバムをリリースしていたビリーだったが、成功したと言えるのは2ndアルバム『ピアノ・マン』(Piano Man)のみ。
これにより、コロムビア・レコードは「次のアルバムが失敗した場合、ビリーとは契約を解消」する予定だったようだ。

そんな崖っぷちの状態でのリリースとなった『ストレンジャー』(The Stranger)だったが、結果は大成功。リリース直後から売り上げを伸ばし、ビルボードチャートで2位を獲得。シングルとして発表された4枚も全て各国の音楽チャートで上位にランクインし、ビリー・ジョエルの名を世界へ知らしめることとなった。
ビリーの起死回生の1枚となった『ストレンジャー』(The Stranger)は、現在までに1,000万枚を売り上げており、「歴史に残る名盤」として語り継がれている。

5thアルバムでビリーが目指していたのは、2つあった。
ひとつが”自身の新しいスタイルを洗練してくれるプロデューサー”と作品をつくること。
そしてもうひとつが”ツアーバンドでレコーディングを行うこと”だった。

ビリーがリリースした初期3枚のアルバムでは、スタジオミュージシャンが録音に参加している。しかし、ビリーは「纏まりの無い、洗練されすぎたサウンド」に不満を持っていた。
4thアルバムでは希望のメンバーと録音こそできたものの、プロデューサーと意見が合わず、満足のいく内容とはならなかった。

そこでビリーは自分の意見を尊重してくれる人物探しを開始。
始めの候補はビートルズ(the Beatles)のマネージャーとしても活躍していたジョージ・マーティン(George Martin)だった。
ジョージは興味を示したが、レコーディングにジョエルのツアーバンドを使うことには反対。セッションプレイヤーを使った録音を希望した。
しかし、ビリーは自身のツアーバンドでのレコーディングに拘っていたため、交渉は決裂となった。

次に出会ったのは、ニューヨークのサウンドエンジニア兼レコードプロデューサーとして活躍していたフィル・ラモーン(Phil Ramone)。
ビリーは彼とカーネギーホールの近くにあるイタリアン・レストランで知り合っている。
※本作の4曲目"Scenes from an Italian Restaurant"はこのレストランのこと

この場所に演奏に来ていたビリーは、フィルにプロデューサーを探していることを告げると、フィルがこれに興味を持ち、立候補。
ビリーのツアーバンドに対する愛も理解を示したため、フィルをプロデューサーとして迎えることにした。
余談ではあるが、『ストレンジャー』(The Stranger)で意気投合した2人は、ここから1986年リリースの『ザ・ブリッジ』(The Bridge)まで活動を共にし、共に数多くの名盤を生み出すこととなる。

録音はA&R レコーディング・スタジオにて、3週間という短いスパンにわたり行われた。
参加したのは、リバティ・デヴィート(Liberty DeVitto)、ダグ・ステグマイヤー(Doug Stegmeyer)、リッチー・キャナータ(Richie Cannata)を中心としたツアーバンド・メンバー。
他にもジャズ/フュージョン界で名をはせたギタリスト、ハイラム・ブロック(Hiram Bullock)、スティーヴ・カーン(Steve Khan)など、豪華な面々が揃っている。

The Stranger - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Movin' Out (Anthony's Song)Billy Joel3:30
2.The StrangerBilly Joel5:10
3.Just the Way You AreBilly Joel4:52
4.Scenes from an Italian RestaurantBilly Joel7:37
5.ViennaBilly Joel3:34
6.Only the Good Die YoungBilly Joel3:55
7.She's Always a WomanBilly Joel3:21
8.Get It Right the First TimeBilly Joel3:57
9.Everybody Has a DreamBilly Joel6:38

Background & Reception

1曲目を飾るのは、1枚目にシングルとしてもリリースされている"Movin' Out (Anthony's Song)"
歌詞の内容は、見栄やステータスのために長時間働く労働者階級の人達を皮肉ったものだ。
キレのあるサウンドが特徴的なソフト・ロックナンバー。
ちなみに、曲のEDで流れるサウンドは、ベーシストのダグ・ステグマイヤーが当時所有していた1960年製のシボレーのエンジン音である。

悲しげなピアノのイントロから始まる楽曲が、タイトル・ナンバーとなった”The Stranger”
シングルとして発表されたが、フランス・オーストラリアの音楽チャートでは59位に終わっている。しかし、日本国内での人気は凄まじく、オリコン・チャートで2位を獲得し、CDの売上は45万枚を突破。まさに日本人好みの楽曲と言えるだろう。
バンドとしてのエネルギーも存分に含まれたロック・チューンだ。

3曲目”Just the Way You Are”は、「ビリーが世界に認知されるきっかけとなった曲」である。
ビリーはこの曲のメロディーとコードを夢の中で思いついたという。
歌詞中に登場する女性は、後に妻となり、マネージャーとしても活躍するエリザベス・ウェーバー(Elizabeth Weber)のこと。
メロディー、サウンド、歌詞、どの部分も暖かく美しい「完璧な楽曲」といってよいだろう。
曲間のサックスソロは伝説のジャズ・プレイヤー、フィル・ウッズ(Phil Woods)によるもの。
2ndシングルとして発表され、US音楽チャートで自身初のTop10入りを果たし、ゴールド・ディスクも獲得。1979年のグラミー賞では「最優秀レコード賞」「最優秀楽曲賞」も受賞した名曲中の名曲だ。
ちなみにビリーはこの曲について、2010年のインタビューで「フォー・シーズンズの"Rag Doll"からインスパアされた箇所もある」とも語っている。

シングルとしてリリースされていないのにも関わらず、人気の高い楽曲が“Scenes from an Italian Restaurant”だ。
歌詞はクラスメイトの2人が、現在の人生や思い出を語りあう内容。
7分超と長い楽曲ではあるが、クラリネット、トロンボーン、チューバ、サックスソロなどが含まれており、ストーリー仕立てで飽きない曲構成に仕上がっている。
2008年のインタビューにて、ビリーはこのレストランがカーネギーホール近辺にある「トレヴィの泉」(Fontana di Trevi)であることを明かした。

5曲目に並んだ”Vienna”は、ビリー自身もお気に入りのピアノ弾き語りのナンバー。
シングルとしては"Just the Way You Are"のB面として発表されたため、注目されることは少ないものの、哀愁漂う曲に浸りたいときにはピッタリの楽曲だ。

一転して、アップテンポなロック・ナンバーが”Only the Good Die Young”
この楽曲の歌詞である「良いやつ(聖人)ほど早死する」は、当時「カトリック教に反する内容」とされ、物議を醸したそうだ。
メロディーやサウンドは底抜けに明るく、サックスのソロも心地よい。
ビルボード誌は”Only the Good Die Young”を「ビリーの楽曲の中で、最も力強くキャッチーな曲のひとつ」と讃えている。

暖かさと悲しさが入り混じったようなサウンドが特徴の楽曲が”She's Always a Woman”
タイトルの女性とは”Just the Way You Are”でも登場したエリザベスのことを差している。
ギターのアルペジオとビリーの歌声が美しいバラード曲だが、1982年にエリザベスと離婚した後は演奏する回数が減ってしまったそうだ。
ビルボード誌では”She's Always a Woman”を「ボブ・ディラン(Bob Dylan)やポール・サイモン(Paul Simon)のバラードに匹敵する洗練された楽曲」と紹介している。

本アルバムは”キメ”が多いナンバーが並んでおり、8曲目"Get It Right the First Time"もそのうちのひとつ。”Only the Good Die Young”に次いでノリの良い、ラテン音楽の要素を含んだダンサンブルな楽曲だ。

ラストを飾るのは、"Everybody Has a Dream"
注目すべきはパティ・オースティン(Patti Austin)、フィービ・スノウ(Phoebe Snow)らがバックボーカルとして参加していることだろう。
暖かいサウンドとメロディーラインが特徴的なゴスペル・ソングだ。

The Stranger - Credit

ビリー・ジョエル(Billy Joel)- ボーカル、アコースティックピアノ、キーボード、シンセサイザー、フェンダーローズ
リッチー・キャナータ(Richie Cannata)- オルガン、テナーサックス、ソプラノサックス、クラリネット、フルート、チューバ
ドミニク・コルテス(Dominic Cortese)- アコーディオン(Tracks 4, 5)
リチャード・ティー(Richard Tee)- オルガン(Track 9)
ハイラム・ブロック(Hiram Bullock)- エレキギター
スティーヴ・カーン(Steve Khan)- 6&12弦エレキギター、アコースティックギター、ハイストリングギター
ヒュー・マクラッケン(Hugh McCracken)- アコースティックギター(Tracks 3, 4, 7, 8, 9)
スティーヴ・バーグ(Steve Burgh)- アコースティックギター(Tracks 3, 7)、エレキギター(Track 4)
ダグ・ステグマイヤー(Doug Stegmeyer)- ベース
リバティ・デヴィート(Liberty DeVitto)- ドラム
ラルフ・マクドナルド(Ralph MacDonald)- パーカッション(Tracks 2, 3, 8, 9)
フィル・ウッズ(Phil Woods)- アルトサックス(Tracks 3)
パトリック・ウィリアムズ(Patrick Williams)- オーケストレーション
パティ・オースティン(Patti Austin)- バックボーカル(Track 9)
ラニ・グローブス(Lani Groves)- バックボーカル(Track 9)
グウェン・ガスリー(Gwen Guthrie)- バックボーカル(Track 9)
フィービ・スノウ(Phoebe Snow)- バックボーカル(Track 9)

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