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レジェンド級が勢揃い。グラミー賞受賞し、R&Bの歴史に名を刻んだ名盤『愛のコリーダ』(The Dude)- クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)

「愛のコリーダ」(The Dude) クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)

『愛のコリーダ』(The Dude)は、クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)が1981年にリリースしたアルバム。
プロデューサーとして有名なクインシーだが、自己名義の作品も多くリリースしており、その数は25枚以上にも及ぶ。
その中でも今回紹介する『愛のコリーダ』(The Dude)は、「クインシー・ジョーンズの最高傑作」と称されている名盤中の名盤である。
ここで簡単に、世界で最も有名な音楽プロデューサーの一人、クインシー・ジョーンズという人物を紹介しよう。

クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)は、1933年3月14日、アメリカ合衆国イリノイ州シカゴ生まれ。
音楽に興味を持ち始めたのは5歳の時で、よく歌を歌う母親と隣に住んでいたルーシー・ジャクソン(Lucy Jackson)という男性のストライドピアノがきっかけだったという。

クインシーはその後、両親の離婚により10歳でワシントン州に転居し、この4年後に運命の出会いを果たすこととなる。
その相手が、当時16歳だったレイ・チャールズ(Ray Charles)
ハンディキャップをものともしないレイの演奏を聴き、多大なインスピレーションを受けたクインシーは、音楽家としての道を歩むことを決意した。

クインシーは18歳になる1951年にシアトル大学の奨学金を獲得し、その後ボストンにあるバークリー音楽大学へ転入。(ここでも奨学金を獲得している)
ここでバニー・キャンベル(Bunny Campbell)、プレストン・サンディフォード(Preston Sandiford)らとバンドを結成し、精力的に演奏活動を行っていた。

プロとしてのキャリアをスタートさせたのは、トランペット奏者としてライオネル・ハンプトン(Lionel Hampton)楽団に入団してからだ。
ハンプトンから編曲家としての才能を見出されたクインシーは、活動の幅を広げアレンジャーとしての活動も開始。
サラ・ヴォーン(Sarah Vaughan)、ダイナ・ワシントン(Dinah Washington)、カウント・ベイシー(Count Basie)、デューク・エリントン(Duke Ellington)、レイ・チャールズ(Ray Charles)などのレジェンド達と共作し、高い評価を獲得していくこととなる。

クインシーが23歳になる1953年には、ニューヨークのスタジオ50(Studio 50)にてエルヴィス・プレスリー (Elvis Presley)のバックバンドにも参加。このときは2ndトランぺッターとして活躍していたそうだ。
その後も順調にキャリアを形成し、1957年にはパリへ移動。
ここでナディア・ブーランジェ(Nadia Boulanger)、オリヴィエ・メシアン(Olivier Messiaen)と共に更に深い音楽理論を学び、知識を深めていく。
1950年代後半はいくつかのジャズ・オーケストラとヨーロッパ・ツアーも行っていたそうだ。

1960年代に入ると、クインシーは映画音楽を多く手掛けることとなる。
1964年の映画『質屋』(The Pawnbroker)で音楽を担当し、ここで成功を収めると1965年『蜃気楼』(Mirage)、『いのちの紐』(The Slender Thread)、そこから『急がば廻れ』(Walk, Don't Run)、『恐怖との遭遇』(The Deadly Affair)など10作以上の映画音楽を製作。
またそれだけでなく、エラ・フィッツジェラルド(Ella Fitzgerald)、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)、ダイナ・ワシントン(Dinah Washington)らの楽曲も編曲し、売れっ子音楽家として各地を飛び回っていた。

1975年、多くの成功を収めたクインシーは、自身のレーベルクエスト・プロダクションズ(Qwest Productions)を設立。
その3年後に映画『ウィズ』(The Wiz)の音楽を担当することになり、ここでマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)、ダイアナ・ロス(Diana Ross)と出会う。
マイケルはこの時プロデューサーを探しており、クインシーがこれに立候補。
ここで音楽界最強のタッグが生まれ、翌年1979年『オフ・ザ・ウォール』(Off The Wall)が誕生することとなった。
そしてこの2年後にクインシー・ジョーンズが自身の名義で発表したアルバムが、今回紹介する『愛のコリーダ』(The Dude)である。

今作を発表する時点で既に世界に名を轟かせていたクインシー。
彼は『愛のコリーダ』(The Dude)のレコーディングにおいて、名だたるレジェンド級のミュージシャンを多く集結させている。

抜粋して紹介すると、R&B界からスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)、ルイス・ジョンソン(Louis Johnson)、ジャズ界からはハービー・ハンコック(Herbie Hancock)、ラリー・ウィリアムズ(Larry Williams)も参加。
トト(TOTO)のスティーヴ・ルカサー(Steve Lukather)や、バックボーカルだがマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)も名を連ねている。
音楽界のオールスター達が勢ぞろいした非常に豪華なアルバムなのだ。

結果、『愛のコリーダ』(The Dude)はアメリカ国内だけで100万以上を売り上げ、プラチナディスクを獲得。
第24回グラミー賞では3部門にノミネートされ、そのうち「最優秀男性R&Bボーカルパフォーマンス賞」を受賞。
現在でも色あせることのない名盤として世界中で愛されている作品である。

ジャンル的にはR&Bに分類されるものの、ポップさも十分に含まれているため、聞く人を選ばないアルバムでもある。
捨て曲が一切なく、どの楽曲も最高峰の完成度を誇っていることも本作の特徴といえるだろう。
特に1980年代を代表するR&Bのサウンドを好む人であれば、必ず気に入ること間違いなしの楽曲がズラリと並んでいる。
日本のアレンジャー達にも多大な影響を与えた『愛のコリーダ』(The Dude)、ここからは楽曲の解説に移ろう。

The Dude - Track Listing

No.TitleWriterLength
1.Ai No CorridaChas Jankel, Kenny Young6:18
2.The DudeQuincy Jones, Rod Temperton, Patti Austin5:35
3.Just OnceBarry Mann, Cynthia Weil4:32
4.Betcha' Wouldn't Hurt MeStevie Wonder3:33
5.Somethin' SpecialTemperton4:03
6.RazzmatazzTemperton4:20
7.One Hundred WaysKathy Wakefield, Ben Wright, Tony Coleman4:19
8.VelasIvan Lins, Vítor Martins4:05
9.Turn On the ActionTemperton4:17

Background & Reception

1曲目"Ai No Corrida"は、1980年にケニー・ヤング(Kenny Young)、チャズ・ジャンケル(Chas Jankel)の両名が作曲を行ったナンバー。
オリジナルの発表から約1年後にクインシーによってカバーされ大ヒットとなり、このアルバムに収録されているバージョンの方が有名となった。
タイトルが日本語の理由について、これは1976年のフランス・日本合作映画『愛のコリーダ』(L'Empire des sens)の日本語名から引用されているためだ。
リードボーカリストはチャールズ・メイ(Charles May)を起用。
シングルとしてリリースされており、ビルボードではソウル・チャートでは10位にランクイン。
日本のオリコン洋楽シングルチャートでは1981年7月6日付から12週連続1位を獲得し、同年の年間チャート1位にも輝いている。
1982年のグラミー賞「最優秀ヴォーカル・インストゥルメンタル・アレンジメント賞」も受賞したR&Bを代表する名曲だ。

クインシー、ロッド・テンパートン(Rod Temperton)、パティ・オースティン(Patti Austin)が作曲した"The Dude"は、2曲目に収録。
ロッド・テンパートンはクインシーを陰で支えた偉大な人物であり、"Thriller"、"Off the Wall"、"Rock with You"など数えきれないほどの名曲を生み出している。
ジョージ・ベンソンの"Give Me the Night"、"Love X Love"も手掛けており、R&Bの楽曲を書かせたらロッドの右に出るものはいないだろう。
リードボーカルを担当したのは、R&B/ソウルシンガーとして有名なジェームス・イングラム(James Ingram)
また、バックボーカリストとしてマイケル・ジャクソン(Michael Jackson)が参加している。
こちらも1980年代のR&Bを代表するグルービーなナンバーだ。

3曲目"Just Once"は、バリー・マン(Barry Mann)、シンシア・ワイル(Cynthia Weil)が作曲を行った楽曲。
彼らも非常に有名な人物で数多くの名曲を共に生み出しており、グラミー賞受賞歴もある作曲家だ。
こちらもクインシーの秘蔵っ子と呼ばれていたジェームス・イングラムがリードボーカルを担当している。
暖かいサウンドとジェームスの歌声が心地よいバラード・ナンバー。

豪華な作曲家達が並んでいるが、4曲目"Betcha' Wouldn't Hurt Me"では遂にスティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)が登場。
ロッドに負けないR&B色全開のナンバーで、スティーヴィーらしいグルーブ感に溢れる楽曲に仕上がっている。
ボーカリストとしては参加していないものの、バックでプレイされているシンセサイザーはスティーヴィー本人による演奏だ。
ボーカルを担当したのは、R&B/ソウル歌手のパティ・オースティン(Patti Austin)。
楽曲に更に深みを与える彼女の歌声は、必聴の価値アリだ。

5曲目"Somethin' Special"は、全曲に引き続きパティ・オースティンがボーカルを担当している楽曲。
作曲はロッド・テンパートンである意味「鉄板」のメンバーが名を連ねている。
こちらもグルーブ感が心地よく、曲を通してメロディーラインが素晴らしいR&Bの名曲である。
アルトサックスソロを担当しているのは、偉大なジャズミュージシャン、アーニー・ワッツ(Ernie Watts)。

6曲目"Razzmatazz"も、ゴールデンコンビであるパティ、ロッドが揃ったナンバー。
"Somethin' Special"よりもリズムに重きを置いており、ダンサンブルな楽曲に仕上がっている。
この曲での注目はギターを担当したスティーヴ・ルカサー(Steve Lukather)だろう。
トト(TOTO)と比べると短いソロではあるが、楽曲の流れを損なわない泣かせるギターソロを聴かせている。

"Just Once"と並び美しいバラード・ソングとして愛されているのが、7曲目"One Hundred Ways"
作詞作曲はキャスリーン・ウェイクフィールド(Kathleen Wakefield)、ベンジャミン・ライト(Benjamin Wright)、トニー・コールマン(Tony Coleman)の3名が担当している。
ボーカルは"The Dude"、"Just Once"を担当したジェームス・イングラムが再び登場。
この楽曲はシングルとしてもリリースされており、アメリカ国内のビルボードチャートにおいて10位を獲得。
また、クインシーは"One Hundred Ways"により1982年のグラミー賞にて「ベスト・R&B・ボーカル・パフォーマンス」をしている。

8曲目"Velas"は、アルバムで唯一のインストルメンタル・ソング。
作曲はブラジル出身の大物ミュージシャン、イヴァン・リンス(Ivan Lins)である。
イヴァンは数多くの名曲を生み出しており、ジョージ・ベンソン(George Benson)、マンハッタン・トランスファー(The Manhattan Transfer)、マイケル・ブーブレ(Michael Bublé)など多くのアーティストが彼の楽曲をカバー。
この流れを作ったのがクインシーであり、本アルバムもイヴァンの名を有名にした大きな理由のひとつであることは、言うまでもないだろう。

アルバムのラストを飾るのは、アップテンポなディスコ・ナンバー"Turn On the Action"
作曲ロッド・テンパートン、リードボーカルがパティ・オースティンのゴールデンコンビ。
『オフ・ザ・ウォール』(Off the Wall)に収録されていても全く違和感がないダンサンブルな楽曲だ。
パティのボーカルも非常に素晴らしいが、マイケル・ジャクソンの歌声もばっちりハマりそうな雰囲気がある。

The Dude - Credit

クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)- プロデューサー
パティ・オースティン(Patti Austin)- ボーカル(Tracks 4, 5, 6, 9)
トム・バーラー(Tom Bahler)バックボーカル(Tracks 1, 5)
マイケル・ボディカー(Michael Boddicker)ボイスシンセサイザー(Track 2)
ロビー・ブキャナン(Robbie Buchanan)- ピアノ、シンセサイザー(Track 3)
マイク・ブッチャー(Mike Butcher)- エンジニア(Track 8)
レニー・カストロ(Lenny Castro)- ハンドクラップ(Tracks 2,9)
エド・チャーニー(Ed Cherney)- アシストエンジニア
ケイシー・シサイク(Casey Cysick)- バックボーカル -
パウリーニョ・ダ・コスタ(Paulinho Da Costa)- パーカッション(Tracks 1-6, 8, 9)
チャック・フィンドリー(Chuck Findley)- トランペット(Track:1, 3, 5-7, 9)
デイヴィッド・フォスター(David Walter Foster)- ピアノ(Track 3)
ジム・ギルストラップ(Jim Gilstrap)- バックボーカル(Tracks 1, 2, 5)
バーニー・グランドマン(Bernie Grundman)- マスタリング
ハービー・ハンコック(Herbie Hancock)- 電子ピアノ(Tracks 1, 5, 6, 9)
ジェリー・ヘイ(Jerry Hey)- トランペット(Tracks 1-3, 5-7, 9)
キム・ハッチクロフト(Kim Hutchcroft)- サックス(Tracks 1-3, 5-7)、フルート(2, 3, 5-7)
ジェームス・イングラム(James Ingram)- ボーカル(Tracks 2, 3, 7)
マイケル・ジャクソン(Michael Jackson)- バックボーカル(Track 2)
ルイス・ジョンソン(Louis Johnson)- ベース(Tracks 1, 2, 4, 5, 7, 8)
エイブラハム・ラボリエル(Abraham Laboriel)- ベース(Tracks 3, 9)
イボンヌ・ルイス(Yvonne Lewis)- バックボーカル(Tracks 6, 9)
スティーヴ・ルカサー(Steve Lukather)- ギター(Tracks 1, 3-7, 9)
ジョニー・マンデル(Johnny Mandel)- ストリング、シンセアレンジ(Tracks 3, 7, 8)
チャールズ・メイ(Charles May)- ボーカル(Track 1)
グレッグ・フィリンゲインズ(Greg Phillinganes)- シンセ(Tracks 1, 3-6, 8, 9)、電子ピアノ(Tracks 2-4, 7-9)
ビル・ライヒェンバッハ(Bill Reichenbach)- トロンボーン(Tracks 1, 3, 5-7, 9)
ジョン・ロビンソン(John Robinson)- ドラム
ブルース・スウェーデン(Bruce Swedien)- エンジニア、ミキシング
ロッド・テンパートン(Rod Temperton)- ボーカル&シンセアレンジ(Tracks 2, 5, 6, 9)
トゥーツ・シールマンス(Toots Thielemans)- ギター、ハーモニカ、ホイッスル(Track 8)
イアン・アンダーウッド(Ian Underwood)- シンセプログラミング(Tracks 1, 3-9)
ジェラルド・ヴィンチ(Gerald Vinci)- コンサートマスター(Tracks 3, 6-9)
ラロミー・ウォッシュバーン(Lalomie Washburn)- バックボーカル(Track 2)
アーニー・ワッツ(Ernie Watts)- サックス(Tracks 1-3, 5-7)、フルート(Tracks 2, 3, 5-7)、テナーサックス(Tracks 1, 2, 7, 9)、アルトサックスソロ(Track 5)
ラリー・ウィリアムズ(Larry Williams)- サックス、フルート(Track 2)
ハーク・ボランスキー(David Wolinski)- クラビネット(Tracks 1, 9)、ミニモーグ(Track 5)、ベースシンセ(Track 6)、シンセプログラミング(Tracks 5, 9)
スティーヴィー・ワンダー(Stevie Wonder)- シンセサイザー(Track 4)
シリータ・ライト (Syreeta Wright)- バックボーカル(Track 2)

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