『バック・トゥ・ベッドラム』(Back to Bedlam)は、イングランド出身の歌手ジェームス・ブラント(James Blunt)が1974年に発表したファースト・アルバムである。
1974年2月22日、イングランド南西部に位置するウィルトシャー州で生まれたジェームス・ブラント。彼の父はイギリス陸軍航空隊に所属しており、その影響からブラント一家は2年毎に世界各地を転々としていたそうだ。
ジェームスは3歳でリコーダー、5歳でバイオリン、7歳でピアノと様々な楽器のレッスンを受けている。これはジェームスの母が「情操教育の一環として、楽器を演奏させたい」との想いがあったからだそうだ。
とは言っても、ジェームス自身は好んでレッスンを受けていた訳ではなく、「ピアノのレッスンは退屈だった」と語っている。
彼が音楽に目覚めたのは、14歳の時。
学校で誰かがエレキ・ギターを弾いているのを見て興味を持ち、ジェームスはギターを始めることにした。ここからコードや奏法を学んでいくうち、自身のアイデアが膨らんでいき、「音楽で自分を表現したい。曲を書いて、音楽で生活したい。」と思うようになる。
とは言うものの、ジェームスは音楽以外にも様々な分野に興味を持ち、勉学に励んでいた。
父から飛行機の操縦を教わり、僅か16歳でパイロットのライセンスを取得。
学校はオックスフォード大学・ケンブリッジ大学生を多く輩出している名門ハーロー校に入学しており、ここで物理学・化学・経済学を学んでいる。
その後、ジェームスはブリストル大学へ入学し、航空工学と社会学を専攻。
1996年に同校を卒業後、ジェームスはすぐに音楽家を目指す予定だった。
しかし、父から「ミュージシャンを目指す前に、別の職業を経験してみては?」とのアドバイスを受け、陸軍に入隊することを決意する。
1999年、ジェームスはNATOの平和維持軍の将校として紛争地域であるコソボ共和国に派遣されている。内戦によって破壊しつくされたコソボの地を見たとき、ジェームスは大きな衝撃を受けたそうだ。
彼はこの時の様子を、以下のように語っている。
「コソボは本来、美しい国であるはずなのに、人間が行った残虐行為・破壊行為を行っていた。人間は文明化された生き物だと思っている人もいるけど、それは勘違いだ。時に人間は動物に成りえるんだよ。」
この状況を見たジェームスは、自身の想いを歌として吐き出すため、改めてミュージシャンとして活動することを誓ったのだった。
軍隊での最後の1年間は、音楽業界との関わりを深め、ライブ活動や曲作りも開始。
2002年に軍を除隊したブラントは、レコード会社に売り込みを始めるも、最初は中々上手くいかなかったようだ。
「当時はレコード業界氷河期だったため、売れ線のアーティストが重宝がられた。でも僕の音楽は違う次元にいたから、興味を示してもらえなかったんだ。」
転機が訪れたのは、2003年3月。
ジェームス・ブラントは、テキサス州オースチンで開催された全米最大規模の音楽見本市サウス・バイ・サウスウエストに出演した。
そして彼のパフォーマンスを見たカスタード・レコード(Custard Records)のリンダ・ペリー(Linda Perry)が、ジェームスに契約を持ちかけたのだ。
当時の様子を、ジェームスは以下のように語っている。
「演奏が終わって5分後、楽屋に帰ってギターをしまってたら、リンダが急にやってきて『契約したいの』って誘ってくれたんだ。それで話を聞いてみると、『僕の好きなように作っていいし、プロデューサーを選んでいい。』とか素晴らしい条件だった。最高のチャンスが巡ってきたと思ったし、本当にありがたかったよ。リンダ自身も尊敬できるアーティストだし、彼女の『イン・フライト』(In Flight)も素晴らしいアルバムだ。」
その半年後、ジェームスはLAでレコーディングを開始。
プロデューサーにはベック(Beck)、フー・ファイターズ(Foo Fighters)らを手掛けたことのあるトム・ロスロック(Tom Rothrock)を迎え、制作が行われた。
「成功して有名になりたいとか、そういう動機はなかった。ただ、自分の為に書いたパーソナルな音楽をアルバムという形にまとめてみたいと思っただけだ。そういう動機だったからこそ、自分を信じているチームが必要だったんだけどね。トムは僕が選んだプロデューサーだよ。偶然なんだけど、僕がトムに連絡を入れた前の晩、たまたまインターネットで僕のデモを聴いていたらしい。だから連絡した時、トムは『偶然にしては凄すぎる!』ってびっくりしていたよ。僕達は直ぐに意気投合して、いい関係を築くことができた。トムは自分のエゴを他人に押しつけるタイプのプロデューサーじゃなかったから、純粋で繊細に作業を進めることができたんだ。」
そして遂に2004年10月、満を持してリリースされたジェームス・ブラントのデビュー・アルバム『バック・トゥ・ベッドラム』(Back to Bedlam)がリリース。
リリース直後こそ大きな話題にならなかったものの、徐々に作品の完成度が評価されていき、発表から9ヶ月後には全英アルバム・チャート1位を獲得。シングル曲"You're Beautiful"もチャート1位にランクインし、2007年のグラミー賞では3部門にノミネートされることとなった。
『バック・トゥ・ベッドラム』(Back to Bedlam)は現在までに1,100万枚以上のトータルセールス枚数を記録。この数字はジェームス・ブラントのアルバム中最も大きく、名実ともに「ジェームス・ブラントの最高傑作」として知られている名盤である。
Back to Bedlam - Track Listing
No. | Title | Writer | Length |
1. | High | James Blunt, Ricky Ross | 4:03 |
2. | You're Beautiful | James Blunt, Sacha Skarbek, Amanda Ghost | 3:33 |
3. | Wisemen | James Blunt, Sacha Skarbek, Jimmy Hogarth | 3:42 |
4. | Goodbye My Lover | James Blunt, Sacha Skarbek | 4:20 |
5. | Tears and Rain | James Blunt, Guy Chambers | 4:04 |
6. | Out of My Mind | James Blunt, | 3:33 |
7. | So Long, Jimmy | James Blunt, Jimmy Hogarth | 4:26 |
8. | Billy | James Blunt, Sacha Skarbek, Amanda Ghost | 3:37 |
9. | Cry | James Blunt, Sacha Skarbek | 4:06 |
10. | No Bravery | James Blunt, Sacha Skarbek | 4:00 |
Back to Bedlam - Credit
ジェームス・ブラント(James Blunt)- ボーカル、ギター(Tracks 1, 5, 6, 9)、オルガン(Tracks 3, 4, 6, 9)、ピアノ(Tracks 1, 4, 5, 10)、エレキピアノ(Tracks 5, 6, 7)、アコースティックギター(2, 7)、ローズピアノ(Tracks 3, 4)、キーボード&マリンバ(Track 1)、クラシックギター(Track 3)、12弦ギター(Track 4)、チャーチオルガン(Track 5)、バックボーカル(Track 6)、グランドピアノ(Track 8)、メロトロン(Track 9)
サーシャ・クリフトソフ(Sasha Krivtsov)- ベース(Tracks 1, 2, 3, 5, 6, 8, 9)、バックボーカル(Track 6)
チャーリー・パクストン(Charlie Paxton)- ドラム(Tracks 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9)、バックボーカル(Track 6)
ジョン・ナウ(John Nau)- ハモンドオルガン(Tracks 3, 4, 6, 7)、エレキピアノ(Tracks 1, 3, 8, 9)、ピアノ(Track 2)、ギターサスティーン(Track 4)、バックボーカル(Track 6)、タックピアノ(Track 8)
エリック・ゴーフィン(Eric Gorfain)- ストリングス(Tracks 2, 4, 5)
ザ・セクション(The Section)- ストリングス(Tracks 2, 4, 5)
ジョン・ガンビー・グッドウィン(John "Gumby" Goodwin)- エレキギター(Track 3)、バックボーカル(Track 6)、スライドギターソロ(Track 7)
マット・チャイト(Matt Chait)- ギターサンプル(Track 4)、エレキギター(Track 7)、ギター(Track 8)
ジミー・ホガース(Jimmy Hogarth)- アコースティックギター&キーボード(Track 3)
サシャ・スカ―ベック(Sacha Skarbek)- ローズピアノ(Track 3)
アマンダ・ゴースト(Amanda Ghost)- バックボーカル(Track 3)
ガイ・チェンバース(Guy Chambers)- バックボーカル(Track 5)
トム・ロスロック(Tom Rothrock)- バックボーカル(Track 6)
W.ヴィンセント(W. Vincent)- ベース(Track 8)
ザ・プロデューサー(The Producer)- スライドギター(Track 9)
リンダ・ペリー(Linda Perry)- ギター&プロデューサー(Track 10)
P.Ⅲ(P. Ⅲ)- ベース(Track 10)
ブライアン・マクラウド(Brian McCloud)- ドラム(Track 10)